少しずつではあるけれど、他人との戦い方を覚えた。
何人かの仲間と共に戦うことで、紅は自分に合う者と合わない者が居ることを悟る。
銀時は、何だかんだと言いながらも、器用だった。
身の危険を感じた時には即座に逃げられるだけの勘の良さもあり、今の所怪我を負ったことはない。
桂は微妙だ。
出来なくもないけれど、やや存在感が薄い。
時々彼の存在を忘れてしまい、5回の戦で怪我を負ったのは4回。
寸前で彼だということに気付き、慌てて刃を返していたので、とりあえず命に別状はない。
坂本と言う男は、中々距離感の難しい男だ。
桂ほどに存在感が薄いということはないけれど、銀時ほど器用ではない。
故に、勝手に紅の間合いに入り込む。
最悪だったのは、今まさに斬りかかろうとしていた敵と刀の間に飛んできた時だ。
攻撃され、吹き飛んだ先がそこだったとは言え…運の悪さは否めない。
即座に繰り出された紅の重い蹴りにより、彼の鳩尾に付いた青痣は二週間消えなかったらしい。
あのまま刀を振り下ろしていれば間違いなくあの世行きだったのだから、それだけで済んだのは幸いだった。
それ以外の者は、ただ一人を除いては殆ど駄目だった。
紅の「朱羅」に怯え、己の剣を誤る者も居て、自然と彼らとの共同戦線を避けた。
そして、先で除いたただ一人は―――
「紅、終わったか」
背後から聞こえた突然の声にも、抜き身の刀を振るったりしなかった。
紅は切っ先を下にさげる様に刀を持ち、振り向く。
「あぁ。こっちは終わった。そっちは…聞くまでもないな」
「…弱ェ奴らだな」
「あまり強い奴に来てもらっても困るだろう?いや…アンタは、それを待ってるのか」
その辺に転がっていた骸の服で刀の血を拭う。
そうして、僅かに口角を持ち上げれば、高杉は静かに笑みを浮かべた。
「恐らく…この戦に終わりはない。俺たちが死ぬまで、戦い続けるだけだ」
「嫌なのか?」
「いや…アンタとなら、負ける気がしないね。人との戦いとは、こうも自然なものだっただろうかと驚いた」
彼と組んだのは、もう何度目だろうか。
初めこそ戸惑っていた紅だが、すぐにコツを掴んだ。
と言うよりも、自分の思うままに動けば、欲しいと思うところに高杉がいた。
彼が気を使っているのだろうかと思って問うと、逆に鼻で笑われてしまった。
『邪魔になったら殺す。俺ァそう宣言したはずだぜ?気を使う必要がどこにある』
要するに、彼は彼で自由に動いているのだ。
紅と高杉…互いの自由で自然な動きは、パズルのピースのようにぴたりと一致していた。
『他人とは思えない』
思わずそう呟く紅に、彼はこう言った。
『俺には天人の血なんざ流れてねェよ』
この時ばかりは、その皮肉めいた言葉すら、心地良いと感じた。
「いっそ、馬鹿でかい竜の天人でもやってきて全部ぶち壊してくれりゃいいんだがな」
自身の刀を鞘へと納めつつ、高杉はとんでもないことを言った。
思わず目を見開く紅。
「それは、俺も望むところだな」
「ほぉ?お前がか?」
「それが俺の目的であり、刀を取った理由でもある」
迷いなくそう答えると、その意味を問うような視線を向けられた。
紅は肩を竦め、そこにあった岩に腰を下ろす。
「俺の身体に流れる半分は、竜陣族だ。純血の連中の本性は、無駄にでかい」
「竜陣族…?」
「夜兎ほどではないが、それなりに名の通った戦闘民族だ」
簡潔な説明だが、彼が欲している情報としては十分だ。
なるほど、と納得する高杉。
半分とは言え、その血が流れているお蔭で、彼女は強いのだろう。
並大抵の女性とはそもそもの作りが違うというわけだ。
「天人の血を引いた俺を助けてくれるものなんて居なかった。唯一守ってくれた母親も…」
「天人にやられたか?」
「…その方が良かっただろうな。母親は、一族の人間に殺された。恥知らず、ってな」
それなりの良家の長女だった紅の母は、彼女を身篭ってから家を追い出された。
追い出したならばそのまま放って置けば良いものを…一族の人間は彼女を探し出し、殺したのだ。
草臥れた家に、突然踏み込んできた人間達。
抵抗する術を持たなかった母が崩れ、その血で塗れた刀が紅の視界で振り上げられた。
「―――人間を殺したのは…あの時だけだな」
何千と言う天人は殺してきたけれど、人間を殺したのはあの時一度きりだ。
理由はいたって簡単―――天人よりも人に近い紅の容姿により、彼女に敵として襲い掛かる人間が居なかったから。
対して、天人は人に近い紅の容姿を見て、人間と判断して襲い掛かる。
その結果、紅は天人ばかりを斬り、彼らの間で「朱羅」と呼ばれるまでに成長した。
「竜陣族を全部殺すつもりか?一生かかっても片付かねぇな」
「いや…標的は長の次男だけだ。名は―――」
―――暁斗と言うのよ。
いつだったかに聞いた母の声が脳裏に甦った。
静かに瞼を伏せ、口を動かす。
「名は、暁斗」
噛み締めるようにその名を口にした紅に、高杉は軽く目を見開く。
それから、自身の口角を持ち上げた。
「てめーが死ぬ前に会えるといいなぁ、“暁斗”?」
「そうだな。とりあえず…刀を握れなくなる前に会いたいものだ」
わざわざ同じ名を名乗って暴れているのだから、それなりの効果は期待したいところだ。
良家に生まれた母が持ち出した値打ちのある刀を見下ろし、紅は肩を竦めた。
赤い眼は、未だにその鮮やかな色を失っていない。
「高杉。アンタは何の為に刀を振るうんだ?」
ふと、紅は立ったままの彼を仰ぎ、そう問いかけた。
「…全部をぶち壊す」
「…人の事を言えないでかい目的だな。それこそ、一生かかったって無理だ」
天人のとある一族を殺すことと、全てを破壊すること―――どちらが大変なのかは、考えるまでもない。
終わりがあるものとないもの位に違いがある。
「途方もない目的だが…叶えられる分相応なものよりは、アンタに似合いだな」
他人が、叶えられる筈がないだろう、と思うような大掛かりなことが似合う男だと思う。
少なくとも、高杉晋助と言う男は、人の作った枠には収まらない人間だ。
「自分の目的を達成したら、アンタと同じものを見るのも悪くはないかもしれない」
「邪魔はするなよ。容赦しねぇぜ?」
「わかってるさ。アンタはそう言う男だ」
障害となりうる者を踏み越えていける。
そんな人間だとわかっていたから、彼の手を取った。
彼は真っ白な光ではないけれど、いつの間にか人を集める独特の空気を持っている。
いずれ…鬼兵隊が崩壊したとしても、新たな人間が彼に集まるだろう。
想像ではなく、ある意味では確信めいた未来予想に、紅は小さく笑みを零した。