空色トパーズ
Target  --017

並盛中を走り回ったけれど、リボーンの姿を見つける事は出来なかった。

「紅!!」

沢田家に帰ると、丁度門に手をかけていたツナがそこにいた。

「綱吉…どこかに行ってたの?」
「いや、獄寺くんも紅と同じようにリボーンを探そうって言いだして…」
「…そう」

敏い彼の事だから、気付いてしまったのだろう。
やはり、そう言う事か…と自分の仮定に吐き気がした。

「とにかく、大人ランボに聞けば何かわかるかと思って帰って来たんだけど…」
「そうね。それが良いかもしれないわ」

彼は、未来を知っているでしょうから。
言葉には出さず、そう頷く。
いつも紅たちの前に現れるランボのいる未来が、紅たちが進もうとしている未来と同じだとは限らない。
けれど、手掛かりがない以上は彼を頼る事も無意味ではないと考えた。

「行こう」
「う、うん」

真剣な紅や先ほどの獄寺の様子に、ツナはひとりだけ取り残されているような感覚を持った。






部屋で寛いでいたランボから10年バズーカを奪おうとするツナ。
平和に生きてきたから、仕方がない事ではあるけれど…。
いくら10年バズーカでは死なないとしても、暴発の危険もあるそれをお互いに引っ張り合うなんて、危険すぎる。

「綱吉、銃器類を取り合うのは危な―――」

カチッと嫌な音がした。
無機質な銃口から、飛び出すそれ。
ツナを止めようとしていた彼女は、ランボとそれを取り合っていた彼の隣にいた。
巻き込まれるのはある意味必然だったと言えるだろう。












世界が消えて、身体がぐんと引っ張られる。
意識が飛びそうになる感覚の中、短いそれが終わった。
ドサッとそう高くない場所から落ちた先は、柔らかい何かの上。
目を開いた先に何が見えるのか。
不安ばかりだけれど、いつまでも目を閉じているわけにはいかない。
紅はゆっくりと瞼を開いた。

「ここ、は…」

見たところ、どこかの一室らしい。
紅が落ちた先は、上等なベッドの上。
手触りの良いシーツに手をつき、身体を起こして部屋の中を見回す。
ベッド以外には何もない部屋の中はがらんとしているけれど、細部まで作りこまれている事が見て取れる。
少なくとも、客室と言うわけではないらしい造りの室内。
紅は複雑な表情でベッドに腰掛けた。

「バズーカで飛んだ先がここなんだから…10年後の私が、ここに居たって事なのよね…?」

床に足を下ろす。
毛足の長い絨毯の感触が靴下越しに伝わった。

「ここが安全なのかさえ分からない状況だから、あまり動きたくはないけれど…」

ずっとここに居るわけにはいかない。
部屋には窓はなく、唯一の出入り口は四方の壁の一つにあるドアだけ。
そこに近付いた紅は、やや躊躇いつつそのドアノブに手をかけた。
ガチッと鈍い手ごたえが手の平から伝わる。
どうやら鍵がかかっているらしい。
はぁ、と小さく溜め息を吐き出した紅が鍵の辺りへと視線を落とした。
まさか、中から鍵と言うわけではないだろうと思っての結果なのだが。

「…鍵…穴?」

ドアノブ付近にあるそれを見て、思わず首を傾げる。
穴―――と言えば、穴だ。
しかし、それは到底鍵穴には見えなかった。
大きさとしては、直径が1.5センチほど―――そう、丁度、指輪の飾り程度の大きさだ。

「………この位置にあるって事は、何か鍵になるものを差し込むのよね」

指先で穴をなぞってから、もう一度部屋の中を振り向いてみる。
部屋の中にあるものと言えば、ベッドと壁に掛けられた絵画。
鍵になりそうなものは一つもない。

「自分が持ってるものって言ってもねぇ…」

その身一つでこちらに来てしまったのだから、持っている物と言えば。
紅は鎖を外し、ペンダントにしていた指輪を手の平に落とした。

「これ、しかないわね」

指輪一つで何がどうなるわけでもないだろうけれど、物は試しだ。
中指にそれを通し、その鍵穴へと飾りを差し込む。
カチッと何かがはまる音がした。
その次に、ガチン、と鈍い金属音。
他にも何か変化があるだろうかと息を潜めたけれど、それ以上の音は何もなかった。
恐る恐るドアノブに手を伸ばし、ぐっと力を込める。
先ほどの手ごたえはなく、ドアがゆっくりと開かれた。
開いてしまった先は廊下。
やはりそこにも窓はなく、もしかして地下なのだろうか、と考える。
いつまでもここにいて様子を窺ってばかりではいられない。
指輪を鎖に戻し、服の中に入れてから、よし、と一歩目を踏み出した。

「…あれ?」

紅の耳が、第三者の声を拾う。
視線を上げた先に、一人の男の人がいた。

「そこ、“姫”の部屋…だよね?」

表情は笑っているのに、それ以外の声も空気も、何一つ笑っていない。
ゾクリと背筋が逆立った感覚は、第六感と呼ぶ以外になかった。












「そ、そうだ!獄寺くん!!紅はどこにいるの!?一緒にこっちに来てるはずなんだ!!」

一番に出会ったのが10年後の獄寺だった事は、不幸中の幸いだろう。
彼の話はまだ途中のようだったけれど、それよりも一緒に来たはずの紅が気がかりだ。
10年後の彼女はどこにいたのか。
その場所に、ツナの知る彼女がいるはずだ。
しかし、慌てた様子のツナの言葉に、獄寺は怪訝そうに眉を顰める。

「紅…って―――」

ボフン、と獄寺の姿が煙に包まれる。
覚えのある現象に、ツナは煙が晴れた先にいるのが10年後の彼ではない事を悟った。

―――誰でもいいから、教えてよ。彼女は無事なの…?

11.03.21