空色トパーズ
Target --016
ボンゴレリングの争奪戦も終わり、紅との再会も果たせた。
平和が訪れたと思っていた。
しかし、時間は刻一刻と流れている。
その時が、すぐそこまで迫ろうとしていた。
お前に渡しておくものがある。
リボーンがそう言って、紅の部屋にやってきた。
いつものように彼を受け入れた紅は、懐から取り出されたものに首を傾げる。
肌触りの良い布で包まれたそれは何なのか。
「開けてみろ」
促されるままに、ゆっくりと布の角を開いていく。
一体何が飛び出してくるのか。
緊張で紅の指先が震えた。
開かれた白い布の上に鎮座していたのは、指輪だ。
初めて見たはずのそのリングが、何故か―――
「懐かしいか?」
まるで心の中を読んだようなリボーンの言葉に、紅はビクリと肩を揺らした。
リングを布の上に乗せたまま彼を見る彼女の視線は、戸惑いを隠せていない。
「戸惑うのも無理はないだろうな」
「リボーン…?」
「それはお前の―――いや、お前が持つべきリングだ」
あえて言葉を直した理由はわからない。
紅にそれを気にする余裕はなかった。
彼女はただじっと、リングを見下ろす。
このリングを見ていると、自分が自分でなくなるような感覚を抱いた。
「それは肌身離さず持ち歩くようにしろよ」
「…わかった、わ」
そう答える事がやっとだった。
ただいま、と玄関から声が聞こえた。
ぼんやりとリングを手の平で転がしていた紅は、それをチェーンに通して首から提げ、服の中に隠す。
そして、自室を出て階段をおりていけば、靴を脱いだツナが彼女に気付いた。
「紅」
「お帰りなさい」
「あ、うん。ただいま。リボーンは帰って来た?」
「え?リボーンとはあなたが一緒だったんでしょう…?」
「そう何だけどさ。何か、いなくなったんだ」
歯切れの悪いツナの言葉に、紅は首を傾げた。
そして、詳しく聞かせて、と続きを求める。
「いつもみたいにランボとちょっとあってさ。ランボが10年バズーカを使ったんだよ。
で、それが運悪くリボーンの奴にあたって―――」
「…まさか、綱吉。そこから、リボーンが消えてしまったの?」
「うん」
頷く彼に、紅は眉を寄せた。
10年バズーカは5分間10年後の自分と入れ替わるもの。
今のリボーンが消え、10年後の彼がその場に現れなかったとすれば、それは―――
紅の表情が険しくなる。
「紅?」
ツナの声に紅が答えようとしたその時、インターホンが鳴った。
奈々は買い物で留守だから、どちらかが出なければいけない。
それを考えたツナよりも紅が先に動き、玄関ドアを開けた。
「あ、紅さん!」
「はひ!?キレーなお姉さんです!!」
門のところで大きく手を振ったのは、獄寺だった。
その後ろから顔を覗かせた見知らぬ少女。
彼女はうっすらと頬を赤くし、獄寺の服を掴んだ。
そして、精一杯声を潜めて叫ぶ。
「あの人は誰ですか!?何でツナさんの家にあんなキレーな人が!!」
「あぁ!?あの人は10代目のお姉様だ!!っつーか放せよ!」
「お姉さん!?」
ひぇー、と間の抜けた声を発する彼女。
彼女が誰だか知らないけれど、紅には彼女らに構う暇はない。
「綱吉、お客さんよ」
「う、うん。紅はどこに?」
「リボーンを探してくるわ」
入れ違うように家を出ようとしている紅を見て、尋ねる。
彼女は答える間も惜しそうに手短にそう告げて、靴を履いて外に出た。
「こんにちは、獄寺くん」
「こんにちは、紅さん!俺、今日は八つ橋を持ってきたんですよ!一緒にどうですか?」
「ごめんなさい、私は少し外に出てくるから。…ゆっくりしていって」
申し訳なさそうな表情を浮かべた紅に、彼は気にしないでくださいと手と首を振った。
そんな彼の横で、先ほどの少女が口を開く。
「あ、あの!私、三浦ハルって言います!ツナさんにお世話になっていて…!」
「三浦さん、ね。私は紅よ。いつも綱吉と仲良くしてくれてありがとう」
「ハルって呼んでください!こっちこそ、いつもありがとうございます!!」
「ごめんなさいね。私、急いでいるから…また今度ゆっくり話をしましょう?」
求められるままに握手をした紅に、はい!と元気に頷くハル。
彼女にもゆっくりしていってと告げて、紅は家を後にした。
「10代目、紅さんはどうしたんですか?あんな姿は珍しいですね」
「うん…ちょっと、リボーンが…」
既に見えなくなった紅の事を考えつつも、二人にリボーンの説明を始める。
「10年バズーカで10年後のリボーンが現れないなんて…そんなの…」
バズーカの故障以外で考えられる要因はただ一つ。
もしそれが本当なら…と、紅の気持ちが逸る。
5分経っても今を生きるリボーンが戻ってこないのも変だ。
何かが起ころうとしている―――漠然と、そう感じた。
胸元に下げたリングを手の平に拾う。
豪華だが品の良い飾りの中で、ボンゴレの紋章を抱く宝石。
―――お前が持つべきリングだ。
そう言って、肌身離さず持ち歩けと言ったリボーン。
彼は、このリングの何を知っているのだろうか。
「――――」
ふと、唇が何かを紡ごうとした。
我に返って瞬きをした紅は、自分が何を言おうとしたのかわからない。
どれほど考えても全くわからないけれど、何故か紡ごうとした言葉が誰かの名前だった事は覚えていた。
「…あなたは誰…?」
自分の知らぬ“自分”に対しての言葉なのか、ふと脳裏を過ぎる“誰か”に対しての言葉なのか。
紅は理解できない感情を抱きながら、そっとリングを握り締めた。
10.05.09