空色トパーズ
Target --010
相田ー、石川ーと順番に名前を呼ばれ、椅子を鳴らして立ち上がった生徒が答案用紙を取りに教卓に近付く。
よし!と拳を握る者もいれば、がくりと肩を落とす者もいて、反応はそれぞれだ。
そんな声を聞きながら、ツナは机に肩肘をついて顎を乗せ、窓から見えるグラウンドへと視線を向けた。
グラウンドではどこかのクラスが体育の授業をしていて、生徒の間をサッカーボールが行き交っている。
ふと、彼が教室内に意識を戻した時、教師が呼んだ名前は彼の前の生徒だった。
順当に進んでいた教師の声がぴたりと止まる。
彼の表情は微妙なもので、クラスメイトはまたダメツナが悪い成績を取ったと思った。
「…沢田」
教師の低い声がツナを呼ぶ。
返事をせず立ち上がった彼が、教卓へと進んだ。
クラスメイトの馬鹿にしたようなニヤニヤと言う視線も気にならない。
スッと手を差し出し、答案用紙を受け取る。
だが、ツナが紙を握っても、教師がそれを放さなかった。
「…昼休みに職員室に来なさい」
その一言を告げると、彼がその手を放す。
受け取った答案用紙に書かれた数字は98点。
満点だと思ったんだけどな、などと考えつつ、席に戻るツナ。
間違えているのはテスト頭の初歩的な計算部分のミスだ。
ガタン、と椅子を引いて自分の席に座る。
すると、後ろから覗き込んだクラスメイトが驚いたように声を上げた。
「ダメツナが98点!?」
思いっきりからかおうと思っていたのだろう。
信じられないものをみたように声を上げる男子生徒に釣られるようにして、教室内は炎上。
もちろん、それがツナの実力だと信じる者はいない。
カンニングだと決め付ける生徒に便乗し、クラスの大半はそれを信じた。
そんな中、ツナはただ肩を竦めただけ。
「静かにしろ!!解答を始めるから、採点が間違っていた場合は後から来なさい」
教師の怒号により静まった教室。
ツナは関心を失ったように、再び窓の外へと視線を投げた。
その時間の授業が終わり、昼休み。
数学教師に呼ばれたことを思い出したツナは、面倒だと思いながらも席を立つ。
「10代目!お昼にしましょう!!」
元気に駆け寄ってきた獄寺。
その後ろには山本の姿もある。
「ごめん。先生に呼ばれてるから、先に行っててよ」
「もしかして、さっきのテストの結果か?」
「あの野郎、まさか10代目がカンニングしたと思ってるんじゃ…!」
もしそうだとしたらただじゃおかねぇ!と言った様子の獄寺に、ツナはまぁまぁ、と彼を宥める。
「そうと決まったわけじゃないし」
「じゃあ、俺も付いていきます!用事が終わったら一緒にお昼にしましょう!」
「そーだな。昼だし、そんなに時間もかからねーだろ」
あぁ、これ以上は無駄だな、と判断したツナは、うん、と頷いて彼らと一緒に教室を後にした。
一階の職員室の前で二人と別れ、ツナが中に入っていく。
「ったく…どいつもこいつも、10代目の凄さがわかんねぇ奴らだ!」
壁に凭れた獄寺がそう悪態をつく。
「ツナはやれば出来る奴だからなぁ。今までのツナしか見てねーんじゃ、仕方ねーよ」
「…お前は10代目がカンニングしたと思ってないんだな」
少し驚いた様子の獄寺に、当然と言いたげな表情で頷く山本。
「今回のテストの前に一緒に勉強しただろ?その時にツナ、俺のわからなかった問題をあっさり答えたからさ」
実は出来んじゃねーのかなって、と笑う彼。
それだけで、今までのツナが本当の彼ではなかったと切り離して考えられる山本に、獄寺は素直に感心した。
「沢田。念のために聞いておきたいんだが…。今回の点数は、自分の実力だな?」
その一言で、カンニングを疑われているのだと理解するには十分だった。
ツナは迷いなく「そうです」と答える。
そんなはずはないだろうと言及されることも覚悟していた。
しかし、教師は彼の予想を裏切り、そうか、と頷き、そして。
「勉強方法を変えたのか?」
「…腕の良い家庭教師がいるんです」
それが今回の高得点の理由ではないけれど。
ツナの心中など知らず、教師は納得した。
「…そうか。よく勉強したな。もう行っていいぞ」
「え。あ…はい。失礼します」
拍子抜けした様子で、けれども待たせていることを思い出してそのまま踵を返すツナ。
その背中を見送り、数学教師が溜め息を吐き出す。
「あの子って沢田くんですよね。ダメツナって呼ばれてる。何かあったんですか?」
「えぇ、そうですよ。今回のテストで随分良い点数を取ったんで、一応確認しておきたくて呼んだんです」
社会教師が彼の元へと近付いてくる。
説明すると、社会教師が驚いたような顔をした。
「数学もですか?社会も今までにない高得点で、カンニングじゃないかって話していたんですよ」
「そりゃあ、本人に聞いても否定するに決まってますよ。
でもまぁ、こんなにいきなり点数が上がったんじゃ、カンニング以外ありえませんからね」
他の教師まで便乗して、今回のテストはカンニングだろうと言う話で盛り上がる。
数学教師が溜め息混じりに声を上げた。
「おそらく、彼の実力ですよ」
教師の声がぴたりと止んだ。
「前回の試験で満点を取られてしまいましてね。今回は、最後の問題を難問にしたんです」
「よくある話ですよね。満点はいましたか?」
「いいえ、いませんよ。ただ、その問題を正解したのは学年で一人―――彼だけですよ」
正解者がいない問題をカンニングは出来ない。
あの難問を自力で解けるならば、90点台を取れない筈がなかった。
その日から、教師のツナを見る目が変化した。
「あら、凄いじゃない!!」
テストの結果を見た奈々は、素直にツナを褒めた。
やれば出来る子なのよ、と手放しに褒める彼女に、ツナは迷惑そうにしながらも笑う。
カンニングなど考えもしない母が、やはり嬉しいと思うからだ。
「今日はごちそうにしましょうね」
意気揚々と買い物に向かう母を送り出し、自室へとあがる。
紅の部屋を通り過ぎようとしたその時、絶妙のタイミングで扉が開いた。
「お帰り、綱吉。お母さんが何か喜んでたみたいね。どうしたの?」
「ただいま。テストが帰ってきたんだよ」
「結果は?」
「ケアレスミスがちょっと。でも悪くないよ」
そういって笑うと、彼女が手を伸ばしてツナの頭を撫でた。
恥ずかしさからすぐに逃げてしまったけれど、離れてから少しの寂しさを感じると言う矛盾。
「子ども扱いしないでよ」
「そうね。でも、よく頑張ったわ。順位が楽しみね」
そうだね、と頷くと、彼女は嬉しそうに笑った。
10.01.06