空色トパーズ
Target  --002

「あれ、10代目の家の前に誰かいますね」
「ん?母さんかな」

獄寺の声に顔を上げながらそう答えたツナ。
人影が家の中に向かって動いたため、彼の視界にその人が映ったのは、ほんの一瞬だった。
殆どシルエットしか見えなかったその人に、どくん、と心臓が動く。

「…10代目!?」

走り出したツナの背中に、驚いた様子の獄寺の声がかかる。
しかし、ツナは走る事をやめない。
吹き飛ばす勢いで玄関のドアを開き、靴を脱ぐ間も惜しむように慌ただしく家の中へ。
その際、玄関のタイルに、見覚えのない黒いショートブーツが並んでいるのを見た。

リビングを覗く―――いない。
その足でキッチンへと走る―――いない。
トイレ、洗面所と順に移動して、階段を駆け上がる。

「10代目!敵襲ですか!?」

ツナの様子に、ただならぬものを感じたのか、ダイナマイトを構えた獄寺が追ってくる。
彼の事など気にしている暇はなかった。
けれど。

「獄寺くん。そのダイナマイト、火をつけたら許さないから!」
「え?」
「もし、あれが紅だったら…紅を傷つけたら、君を許せない」

それだけを言って、階段の中腹で止めていた足を動かす。
そう、あの人影は、紅に見えた。
もしかすると…いや、恐らく自分の願いがそう見せたのだろう。
無駄なのだとわかっているけれど、それでも希望を捨てきれない。
ダダダ、と階段を上がりきって、自室へと走る。
そして―――

「――――っ!!」

開かれたままのドアの所で、ドア枠に手を引っ掛けるようにして、止まる。
部屋の中のリボーンと、そしてその人が振り向いた。










「―――ねえ、さん…」

長く伸びた髪は、子供の頃よりも少し赤みが増したように見える。
手足はすらりとしていて、顔立ちからも幼さが抜けた。
面影しか残っていない。
けれど、面影が残っているだけで十分だ。
急に居なくなってしまって、悲しくて、でも大好きな。
そんな彼女が、目の前にいる。

「…俺は…夢を見てる…?」

声が震える。
紅が目の前にいる―――これが現実だと思えない。
驚いた表情をしていた彼女が、笑った。
柔らかく…記憶の中の“紅”と、同じように。
スッと彼女の手が伸びてきて、ツナの頬を挟みこむ。
にこり、と微笑んだ彼女は、その指でツナの頬をギュッと摘んだ。

「いっ!!」
「これでも、夢だと思う?」

悪戯に笑った彼女は、勢いよく首を振ったツナを見て指を解いた。
そして、軽く腕を開いて、小首を傾げるように微笑む。

「綱吉」

おいで、と声には出さない彼女の声が聞こえた。
我慢なんて出来る筈がない。
迷いも何もかも放り出して、彼女の腕に飛び込んだ。

「!」

驚いたのは紅の方だ。
思っていたよりも成長していたらしいツナに飛び込まれ、受け止めきれずに後ろに倒れ込む。
二人を受け止めたベッドが迷惑そうに鳴いた。

「はは…綱吉も大きくなったのね」

まさか倒れるなんて、と呟きながら自分の上にいるツナを見る。
抱きしめていると言うよりは、抱きしめられている。
歳の差2年など、男女の差の前には無力だ。
中学生とは言えある程度の骨格が出来てきているのか、自分よりも少し肩幅が広い。
そんな彼が、母親に縋る赤子のように紅を抱きしめている。
紅は苦笑を浮かべ、ポンポンと彼の背中を優しく撫でた。











「うわ、10代目…」

何がどうなってこんな事になっているのか。
ベッドの上で女性を抱きしめるツナに、獄寺は慌てた。
しかし、邪魔をしてはいけない空気だと言う事はわかったのか、小声でリボーンに問いかける。

「リボーンさん、あの人は?」
「…ツナの姉だ」
「10代目のお姉さま!!」

危なかった、と冷や汗をかく。
彼の忠告なしにこの場に来ていれば、もしかすると大事なツナの姉を攻撃していたかもしれないのだ。
そこでふと、彼はツナの言葉を思い出した。

「10代目のお姉さまは、もしかして…」
「あぁ、8年ぶりの再会だ」

やっぱり、と頷く獄寺。

―――ビアンキのこと、大切?
―――じゃあ、ビアンキが突然消えたら、どう?


全ては、彼女のことを示していたのだろう。

「…所で、リボーンさん…なんか、怒ってますか?」
「………気にするな」

ちょっと気に入らねーだけだ。
帽子の下の呟きは、獄寺には届かなかった。

09.11.18