今だけはこの手を離さないで 中編
60万Hit感謝企画
「結局エド達は何に仮装する事になったの?」
司令部の一室に案内された四人はテーブルを挟んで座る。
ウィンリィの言葉にエドとアルは顔を見合わせた。
「あー…何だった?」
「ピー…何とかだったよね」
「何それ?」
彼らは言葉を濁らせる。
言い難いとか言うわけではなく、単に覚えていないだけのようだが。
「何でも、空を飛んで…んで、更に成長しない奴…だったよな?」
「そうそう。どこかの国の童話のキャラクターならしいんだけど…忘れたね、兄さん」
「ああ。確か…ウィンリィみたいな名前の女も出て来るんだよ」
「「ウィンリィじゃなくてウェンディ」」
高さの異なる二つの声が重なる。
エド、アル、ウィンリィの三人はその声の主らの方を向いた。
一方はティーカップを傾けながら、もう一方はその毛並みを撫でられながら三人の視線を受ける。
「因みに童話の名前はピーターパンじゃない?」
「あ!!それそれ!!」
「知ってるのか?」
「実際にその童話を読ませてもらったから」
かちゃんと小さな音を立ててカップを戻すと、コウは彼らに微笑んだ。
その膝の上ではメラノスが呆れたように溜め息を吐き出している。
「つい半時間前に聞いたばかりなのに忘れるなんてね…。その記憶力には呆れるを通り越して感心するよ」
「うるせーな。別にいいだろうが。んな事覚えてなくてもよ」
猫に呆れられると言うのは傍から見れば何とも滑稽な姿である。
それがわかっているだけに、エドはふいっと視線を逸らした。
そんな空気を一掃すべくアルが声を上げる。
「僕は仮装しない事にしたんだ」
「え?どうして?」
彼の言葉にウィンリィは驚いたように目を開いた。
彼女の言葉に、アルは人間の身体を取り戻していたなら苦笑を浮かべていただろう。
「こんな身体じゃ仮装出来るのなんて限られてるからね」
「あ…。そう…よね」
「な、何もウィンリィが落ち込む事ないよ!?参加できるってだけでも嬉しいんだからさ!」
肩を落とした彼女を見てアルが慌てた様子で言う。
そして、助けを求めるように横に座る兄を見た。
やれやれとエドが口を開く ――― が、それよりも早くコウが言った。
「私、パーティーの前半はドレスを着るの」
突拍子もない言葉に思えるが、もちろん意図あってのそれだ。
メラノスを膝から腕の中へと抱き上げ、コウはその頭に顎を乗せるようにして続ける。
「って言っても、そのまま踊るから割とシンプルなんだけど」
「…何が言いたいんだよ?」
「つまり、私の仮装はお姫様って事」
ちなみにコウが決めたのではなく、踊り子と言う事で衣装が用意されていたのだ。
メラノスが彼女の腕の中で「はっきり言っちゃいなよ」と溜め息をつく。
「お姫様には騎士が必要、って事でしょ。コウ」
「そう言う事」
コウはにっこりと微笑む。
三人の中で一番先に反応したのはエドだった。
「…なるほどな。じゃあ、適当にマントでも見繕って…」
「そうそう。でさ、この辺りとか作り変えたら…それっぽくなるでしょ?」
「あぁ。それには材料が居るな」
「トゲの部分とかから寄せたら?」
「それをするには………」
アルの鎧を見ては顔を付き合わせる二人。
そうして話が進むうちに、漸く後の二人もコウの意図に気づいた。
「コウを守る騎士かぁ…。アル!なんかカッコイイじゃないの!」
ウィンリィはアルを肘で小突く。
「そう…だね」
彼の声は嬉しそうだった。
そんな会話を交わす間にエドとコウの話もついたらしい。
「そうと決まれば。アル!さっそくやろうぜ!」
嬉々とした表情でエドが両手を合わせた。
翌日、司令部内のとてつもなく広いフロアがパーティー会場として開け放たれた。
昨日までは所狭しと衣装掛けが並んでいた例のフロアである。
コウはウィンリィと共にフロアへ入った。
「広いー」
「これは迷わないようにしないといけないわね」
「で、エドとアルはー……って、コウ。あれってもしかして…」
キョロキョロと周囲を見回したウィンリィ。
右も左も前も後も人に溢れているのだが、人によっては誰だかわからない。
仮装パーティーならではの光景と言えるだろう。
そんな彼女が、一方を指出してコウの衣装を引いた。
「リザ…さん?」
「よね!?うっわー…可愛い…っ。ね、あっちに行こう!!」
そう言ってウィンリィはコウの返事を聞かずに駆け出す。
肩を竦め、コウもその後を追った。
「リザさーん!!」
「あら、ウィンリィちゃんにコウちゃん。二人とも綺麗になっちゃって…。妖精…あぁ、あの童話のね」
ウィンリィの衣装は緋色のショートドレス。
髪はポニーテールに結い上げ、背中には向こうが透けて見えるような生地で作られた羽がついている。
鳥のようなそれではなく、どちらかと言うと蝶の様な作りになっていた。
妖精を思わせる衣装は、もちろん言うまでもなくピーターパンの相棒の彼女だ。
「コウちゃんはお姫様かしら?」
「そうらしいですね。衣装の方、用意していただいてありがとうございます」
コウがぺこりと頭を下げれば、それに伴ってふわりと浅葱色の髪が揺れる。
純白のドレスは足首までの長さで膝上までの深いスリットが入っている。
恐らくは踊り用にと作り直されたのだろう。
高く結い上げた髪を纏め上げる飾り紐は長く、その先に付いた鈴が動きにあわせて澄んだ音を奏でる。
左腕の機械鎧は綺麗な刺繍を施された布によって隠れていた。
いつも踊りの時につけているブレスレットとアンクレットも、それぞれ手足に光る。
「リザさんのそれは…?」
「あぁ、これも童話のキャラクターらしいわね」
「…選んだんですか?リザさんがその服を?」
「…上司命令でね」
彼女に似合わない、とは言わない。
中々可愛らしい服も似合うものだと思ったくらいだ。
しかし、リザ自身はやはり自分のタイプではないと思っているのだろう。
僅かに頬を染めて苦笑交じりに答えた。
「何て言う童話なんですか?」
「えっと…「不思議の国のアリスっすよね」」
その声に三人が振り返る。
そこには―――
「うわぁ…ガラの悪いウサギが居る…」
スーツを適度に着崩し、ウサギ耳をつけたハボックが居た。
むろん、トレードマークのタバコを銜えた状態で。
背中に背負った馬鹿でかい懐中時計も衣装の一部なのだろう。
童話の内容を知っているだけに、コウは上のように呟いた。
リザがアリスで、ハボックが彼女を不思議の国まで誘導(?)するウサギのようだ。
やたら真面目そうなアリスと、やたらガラの悪いウサギ。
笑ってしまいそうなのを必死に堪えるコウだった。
「ガラの悪いって…失礼だな、コウ。あと…そっちはエルリック兄弟の幼馴染…だっけか?」
「初めまして、ウィンリィ・ロックベルです!ウサギ…ですか?」
「…上司命令でな」
ここにも一人被害者が居た。
彼がガシガシと頭を掻けば、ウサギ耳がゆらゆらと揺れる。
……中々面白い光景である。
「っと。コウ。大総統が呼んでたぜ。打ち合わせがあるらしい。一緒に来てくれるか?」
「はい。あ、でも…」
「どうした?」
「メラノスが居ないの。きっとエド達と一緒にいると思うんだけど…」
「メラノス…あぁ、あいつか。んー…あー………あいつなら大将たちと一緒に来るだろ」
歯切れの悪い言葉ではあったが、コウはそれなら大丈夫かと納得した。
何かを隠しているのは間違いなさそうだが…メラノスならば自分に害があれば返り討ちにするだろう。
ウィンリィに断りをいれ、リザに挨拶をするとハボックと共に大総統の下へ向かう。
彼女らから「頑張ってね」と言う声援を受けて。
「――― これだが…出来るかね?」
「……へぇ…面白いですね。錬金術でどうにかなると思いますよ」
「そうか。何か必要な物は?」
「…腰に巻く飾り布でも用意していただければ」
「直ちに用意させよう。…楽しみにしておるよ、ルデンタ」
「ご期待に沿えるよう頑張ります、閣下」
05.08.22