今だけはこの手を離さないで 後編
60万Hit感謝企画
大総統との打ち合わせを終えたコウは、漸くエド達と会う事が出来た。
一部を残して軍属は強制参加と言う事もあり、フロアは人で溢れかえっている。
「「コウ!」」
「エド!!アル!!と・・・・・・大佐?」
兄弟に呼ばれたコウは彼らの方へと歩み寄る。
人の波で見えなかったのだが、彼らと共にロイの姿もあったらしい。
「やぁ、コウ。本当に将来が楽しみだな、君は」
コウの姿を見たロイは笑顔を浮かべて彼女の手を取る。
跪いて彼女の手にキスを落す姿は予想外に様になっていて、周囲の視線(主に女性)を集めた。
「ロ、ロイさん・・・大佐が一般人に膝を付いちゃ駄目ですよ・・・」
頬を染めるでもなく慌ててとロイを立たせようとする。
問題はそこなのか?と周囲の人物は思う。
どこぞの公爵かと言う出で立ちのロイ。
全体を闇色に統一した彼に周囲の女性は頬を染めて眺めている。
こうしてみると、彼のオールバックと言うのも中々捨てたものではない。
「・・・ロイさんは何の仮装を?」
見た目ではわからなかったのだろう。
コウは首を傾げながらロイに問う。
彼はにっこりと微笑み、横から彼女の肩を抱き寄せて耳元で口を開いた。
――― 傍らで怒鳴るエドなど全く無視した状態である。
「お嬢さん、血を頂けますかな?」
「・・・・・・吸血鬼?」
「正解!」
誰かが声を掛ける間もなく、褒美とばかりにコウの頬にキスをすると、ロイは彼女の背を押した。
「さぁ、そろそろ出番だろう。行きたまえ」
「あ、はい」
促がされるままに、コウは先程聞いていた場所へと急ぐ。
「大佐!!悪ふざけが過ぎるぜ!!」
「ホントですよ。まぁ、本人は全く気にしてませんけど・・・」
「・・・全くだな。あそこまで手応えがない女性も初めてだ」
「それがコウのイイ所なんだよ。で、さっきは何をしてくれたのかな、焔の大佐殿?」
背後から聞こえた声に三人はぎくりと身体を強張らせた。
コウの凛とした声と、静かな・・・それでいて激しい音楽がフロアを支配する。
何十、何百と言う視線を集め、踊る。
ふわりと裾が翻り、白いドレスの上を浅葱色の髪が滑る。
フロアの時が、止まったかのようだった。
コウは流れる踊りの中で両の手を触れさせ、左手を腰に巻いた飾り布に当てた。
音楽の終わりに合わせ、錬成反応が一瞬コウを包み込んだ。
―― バサ・・・ ――
純白の翼がその姿を現す。
「・・・天使・・・」
誰かが呟く。
背中に翼を纏い、コウはシャンッとその動きを止めた。
天使の名に相応しい笑みを浮かべ、深々と頭を下げる。
一瞬の静寂の後 ――― 割れるような拍手が巻き起こった。
「ルデンタさん!是非お話を!!」
「お前なんかお呼びじゃねぇよ!!」
「あの、お名前を教えてもらえませんか!?」
「歳は!?」
フロアに進むなり、瞬く間に周囲には幾重にも人だかりが出来上がった。
時折優雅に揺れる翼の断片が見えるおかげで、漸くコウが中心にいるのだとわかるほどである。
様々な仮装に身を包んだ人々に囲まれ、場馴れした彼女も思わず顔を引きつらせた。
普段とは勝手が違う。
「通していただきたいのですけれど・・・」
と言う声も掻き消されてしまう。
どうしたものか、とコウは頭を捻らせた。
その時 ―――
バチッ!!と言う錬成光が起こったかと思えば、人の波を掻き分けるようにして床が盛り上がった。
同時に小規模な爆発が起こる。
「何だ!?」
周囲の視線は一斉にそちらへと集中した。
さすが、軍人率が高いだけの事はある。
一斉に視線を浴びた錬金術の使用者、エドとロイは顔を引きつらせるのだった。
コウも視線をそちらに向けようとしたが、それよりも早く腕を引かれる。
「!」
「静かに」
引かれるままに体制を崩したコウはそのまま彼の腕の中に納まる。
漆黒の着衣に、同じく漆黒の髪。
藍の目がコウに微笑みかけた。
それに安心したのか、彼女は彼の名を紡ごうとする。
しかし、彼の指がコウの唇に乗ってそれを遮った。
コウの膝裏に腕を通して軽々と抱き上げる。
「・・・天使は貰っていくよ!」
シニカルな笑みを作り、彼は高々とそう宣言してフロアから駆け出した。
その場に沈黙が走る。
憤りの矛先が、彼女を逃した原因・・・小さな錬金術師らに向くのも無理はなかった。
数多の視線を受け、彼らはたじろぐ。
「・・・・・・あんな黒い笑顔で脅されて断れるかーっ!!!」
フロアの片隅でコウの踊りの話に盛り上がっていたウィンリィやリザの元に、彼の叫び声が届いた。
トンと軽い音を立ててコウが地面へと下ろされる。
すでに日は沈み、辺りは闇が支配していた。
月明かりの中に彼女が背に纏う翼がくっきりと浮かび上がる。
「ありがとう。メラノス」
「コウが助けて欲しそうだったからね」
闇に溶け込むような漆黒の髪を掻き揚げ、メラノスは口の端を持ち上げる。
その時になって、コウは漸く彼の背にあるモノを見とめた。
「・・・翼?」
コウの背にある鳥のようなそれではなく、蝙蝠のような翼。
「コウとは正反対の存在、かな」
風を切って走った所為か、酷く乱れた彼女の髪に手を伸ばす。
結い上げていた飾り紐に手をかければ、まるで滑るように彼女の背中を浅葱色の髪が覆い尽くした。
その一房を掬い上げ、唇を落す。
「まるで“禁忌”だね。天使に焦がれる悪魔」
「・・・・・・禁忌なんて、所詮は人が定めた虚偽の理だわ。神の加護を受けようとする人間の傲慢な心理」
「コウは神の加護はいらないのかな?」
「そんな遠い存在よりも、こうして手の届く人々を愛するわ」
伸ばした左手は確かに彼の着衣を握る。
血の通わぬそれに、彼のぬくもりを感じた気がした。
「進む先がイバラ道だろうと、コウが行くならついていく」
誓いにも似た決意を紡ぎ、メラノスはコウの額にキスを落す。
ちなみに・・・。
メラノスの衣装を用意したのはロイ。
彼の翼を作り出したのはエド。
気づかれていなかったが、フロアの床を盛り上がらせる為に錬成陣を書いたのはアル。
三人の尊い被害の元に、天使は悪魔に攫われたのだった。
Thank you 600,000 hits!!
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05.08.23