今だけはこの手を離さないで 前編
60万Hit感謝企画
久々に訪れた司令部は異様な熱気に包まれていた。
思わず入り口に足を踏み入れた時点で足を止めてしまったコウとエドとアル、そしてウィンリィの四人。
そんな彼らの背後から、聞きなれた声が届いた。
「「「「仮装パーティー?」」」」
四人の声が綺麗に重なった。
目の前のリザは、自身が持ってきた招待状を見下ろしてそう紡いだ彼らの言葉に頷く。
「ええ。大総統の茶目っ気だそうだけど…国家錬金術師も参加出来るのよ」
「とは言っても俺だけじゃあな…」
エドは他の三人を気にして、断ろうとした。
彼らに「どうする?」などと聞けば、「楽しんできなよ」と言う答えが返ってくるのはわかりきっている。
「あら、その件に関しては大丈夫よ。ほら、ここ」
そう言ってリザは招待状の後半部分の一行を指差す。
―― この招待状を持つ者は一名の同伴を許可する。 ――
「…それにしても、だよ。結局誰かが残る事になるなら…」
「コウちゃん、ウィンリィちゃん」
エドの言葉を無視してリザはコウとウィンリィに話しかける。
彼が頬を引きつらせたのを視界の端で見とめ、コウは苦笑交じりに彼女の声に返事をする。
「大佐があなたに同伴して欲しいんですって。
『誘いたい女性が居ないのでね。一人寂しいのもいただけない。是非同伴して欲しい』だそうよ」
ウィンリィが遠慮する事はわかっていたのだろう。
あえて“自分の為”と言うニュアンスで語る事で彼女が断らないようにしている。
実に彼らしい言付けだ。
それなら、と彼女が頷くのを見届け、リザはコウの方を向く。
「コウちゃんには大総統からお誘いが」
「「「だ、大総統!?」」」
「あー…何故ですか?」
「中々腕のいい音楽家を呼ぶ事になったらしくて…踊り手が欲しいそうなの。ほら、ルデンタは有名だから」
リザの言葉にコウを除く三人が「あぁ、なるほど」といった表情を浮かべる。
確かにアメストリスで一番有名な踊り子といえば彼女だろう。
その踊りは地方まで届いているのだから。
「…どうしよう?メラノス」
「行けば?楽しいのは嫌いじゃないでしょ」
「…まぁね」
「それに、大総統の誘いを蹴れるはずがないんだから…考えるだけ無駄でしょ」
メラノスの言い分は正しい。
普段は見せる為に踊るわけではないので躊躇ったコウだが、渋々といった様子で頷いた。
彼らと旅を続ける以上、大総統に睨まれるのは喜ばしい事ではない。
――― と言うのもあるが、何よりコウ自身こういった賑わいは嫌いではないのだ。
「……はぁ。じゃあ、コウは大総統からでウィンリィは大佐。アルは俺の同伴って事で参加だな」
あまり気が進まないのか、エドは肩を落としてそう言ったのだった。
国中から集めたのではないかと思えるほどのソレを前に、四人は立ち尽くした。
「…何だか…凄く反応に困るんだけど…」
「仮装パーティー…なんだよね」
「……あぁ。らしいな」
「でも、これって用意しすぎじゃない…?」
「考えるまでもなく、しすぎだね。明らかに」
ウィンリィ、アル、エド、コウ、メラノスと言葉を紡ぐ。
彼らの視界を占領すべく立ちふさがるのは一面の衣装の海。
煌びやかな物から、どこか怪しげな雰囲気を醸し出している物まで様々である。
「何て言うか…ここまでいくと凄いね」
圧倒されるなと言う方が無理だろう。
コウは口元を引きつらせてそう言った。
「で、コウはどれに仮装するんだい?」
「そっか。そうだよね。参加するなら仮装しなきゃいけないのよね」
呆気に取られていた事で頭から抜け落ちていたのだろうか。
ポンと手を叩くコウにメラノスは溜め息を落す。
そのしなやかな身体を動かすと、彼は軽やかにコウの肩から降り立った。
「じゃあ、取り合えず一時自由行動っつー事にするか?」
「それがいいね。男性用と女性用は分けてあるみたいだし…。じゃあ、後でね。コウ、ウィンリィ」
「コウ!一緒に選びましょ!!」
「うわっ!急に引っ張ったら危ないって」
ウィンリィがコウの腕を引っ張って走り出した。
それを追おうとしたメラノスを慌てた様子のエドが止める。
酷く暴れる彼を抱き上げ、エドはアルと共に歩き出した。
こちら女性用フロア。
「これは?」
「うーん…この衣装も捨てがたいし…」
「じゃあ、こっちはどうかしら?」
「……コウ!どっちがいいと思う?」
女性に渡された衣装を自分の前に当てながら、ウィンリィがコウを振り返る。
コウは少しの間それを眺めた後「緋色の方」と答えた。
衣装に囲まれる。
通常の女性ならば一度でいいから体験したいと思うのだろうか。
しかし、コウはそれに当てはまらなかった。
彼らと別れてから一時間、前後左右を衣装に囲まれた状態もすでに限界だった。
疲れた様子で長椅子に座り込む。
長椅子が用意してあるあたり、しっかりと配慮されているなぁとコウは思った。
「衣装を全部見て回るだけで明日になりそう…」
こんな時にメラノスが居てくれれば適当に選んでくれるのになぁとコウは呟いた。
一方男性フロアでは…。
「何するんだよ!この豆!!コウに置いていかれたじゃないか!!」
「豆言うな!!女性用フロアに行ってどうするんだよ!!」
「コウに付き添うに決まってるじゃないか」
「衣装選びだぞ!」
「…あぁ、そう言う事が言いたかったのか。お生憎、僕はコウ以外には全然興味ないんでね」
「そういう問題じゃねー!!大体それが一番問題ありだ!!」
前の衣装掛けを倒さんばかりにぎゃあぎゃあと騒ぐエドとメラノス。
呆れた様子で傍観者と成り代わっているアルが、向こうから歩いてきた人物に気づいた。
「賑わっているな、鋼の。向こうの廊下まで聞こえているぞ」
「げ!!」
「この豆の所為で…」
メラノスはウンザリした様子で椅子の上に乗った。
クルリと身体を丸めると、これ以上騒ぎたくないとばかりに目を閉じる。
中途半端に止められてしまったエドは興奮を向ける相手が居なくなった事で不完全燃焼だった。
その矛先がロイに向くのは当然の事だろう。
…全く相手にされないのだが。
05.08.21