Restart

―――銃なんて面白くねぇだろ?剣にしろよ!

ガゥン!

一発の銃声と共に、的の人形が僅かに揺れ、頭部の中央に穴が開く。

―――馬鹿野郎!お前らみたいに筋肉馬鹿じゃねぇんだ。俺と同じスタイルが良いに決まってる。なぁ?

ガゥン!ガゥン!ガゥン!

両手の銃から迷いなく立て続けに放たれた弾丸は、人形の両肩、心臓部を正確に撃ち抜く。

―――でもよ、それだと接近戦に弱ぇだろ。ほら、これなら重くねぇぞ。

背後の気配に気付き、右手の銃を真上に放り投げ、空いた手で腰の木刀を抜く。
既に振り降ろされている男の木刀を受け止め、角度を変えて脇へと往なした。
と同時に、流れるように木刀を男の腹へと埋め、走り抜けながら木刀を腰に戻す。
膝から崩れ落ちる男の陰から飛び出してきた、別の男の銃口がコウを睨み付ける。
上半身を捻って銃弾を避けると、膝を付いた男の肩に手を置いて、もう一人の顔面に回し蹴りを入れた。
コウの体重では大したダメージは与えられないけれど、怯ませるには十分だ。
顔面を押さえつつもう一度コウへと銃口を向けようとした男の目の前に、二つの銃口。
いつの間にか、彼女の手には二つの銃が戻っていた。

「―――私の勝ち、ですね」

にこりと笑うと、彼女は銃をくるりと回し、太腿のホルダーへと戻す。
すらりと伸びた四肢には不似合いだが、彼女がここに来たばかりの頃よりは随分と目に馴染んだ格好だ。

「あー…畜生!また連敗記録が伸びた…」
「これで何敗目だよ?もう数えてねぇ…」
「諦めろよ、お前らじゃ話にならねーって」
「伝説の100人組手を忘れたかー!?」

ゲラゲラと沸く外野の声を聞き流しながら、腰の木刀を外す。
そして、立てかけていた自分のレイピアとダガーを持ち上げ、訓練所を後にする。

「…しかし、コウの無敗記録はどこまで続くのかねぇ」
「5年…か?あの時はガキに負け続けるなんざ、考えてもなかったな」
「だよなー。ガープ中将の孫ったって、何をどうすりゃあんなに強くなれんだか」
「―――来月…だったよな」
「ああ、大将戦だろ?」
「コウは強いがなぁ…相手は能力者で大将だから、どうなるかな」
「でも、アイツは勝つ気なんだろうな。ああやって毎日鍛錬を怠らない。この5年間、ずっとだ」

たった5年、されど5年。
初めの頃こそ、子どもらしく笑っていた彼女は、最近ではどこか一線を画している。
ただでさえ少なかった子どもらしさが、完全に失われたと言っても良いのかもしれない。
無理もない―――彼女は、既にこの海軍本部内で、確固たる地位を築いている。








廊下を進んでいると、部下と話をしているガープに気付いた。
丁度良い、と彼らの話が終わるのを待って、声をかける。

「ガープ中将」
「おお、コウか!今日の鍛錬は終わったのか?」
「はい」
「すまんのぅ、最近はあまり構ってやれんで」

そう言って、ガープの大きな手がコウの頭を撫でる。
こうした家族扱いはやめてほしいと言うのだが、彼は聞いていないのか覚えていないのか。
今となっては諦めてしまっているコウは、素直にその手を受け入れた。

「ところで」
「おぉ、そうじゃった。この海域で良かったのか?」
「はい、そうです」

ぺらりと渡された書類に目を通して頷く。
海軍内で階級を持つコウは、本部内での自由と引き換えに色々な制限を受ける。
海に出るにも申請が必要で、ガープの部隊に所属する彼女は彼の許可を求めたのだ。

「こんな所に何の用があるんじゃ?」
「…ほしいものがあるんです。来月までに手に入れないと」

それがなければ、来月のクザンとの一戦は厳しい―――というより、不可能だ。
来月というキーワードに何かを察したのか、ガープもそれ以上は何も聞いて来なかった。

「無理を聞いていただきありがとうございます。その海域で暴れている海賊が居れば、捕まえてきます」
「うむ。ただし、無理のないようにするんじゃぞ!部下を何人か連れて行くか?」
「いえ、大丈夫です。用意をして、さっそく出発します」
「コウ」

敬礼をしてからその場を去ろうとしたコウだが、引き止める彼の声に首を傾げて足を止める。
クイッと顎ですぐにあるドアを指す彼に従い、廊下から一室へと場所を変える。

「無理はしとらんか、コウ?」
「うん、大丈夫だよ。おじいちゃん、いつもそれだね」

人目のある所では、彼女は絶対に部下という立場を崩さない。
本音で語り合うには、こうして二人きりになる場所を選ばなければならなかった。

「私は大丈夫。正直、大佐なんて階級を貰っちゃって、どうしようかと思ってるけど」
「お前が勝手に出て行っては名立たる海賊を連れて帰ってくるからじゃろうが」
「実力を上げるには手っ取り早くて」

最終的には階級を得ることは目的ではあった。
だが、こんなにも早く、しかもこんな年齢で大佐の地位を築くことになるとは思わなかった。

「本当に、おじいちゃんのお蔭だよね。ありがとう」
「わしは何もしとらんわい」
「嘘ばっかり。子どもを連れてきたって上から色々言われてたって…知ってるよ」
「…昔の話じゃ!今となっては褒められておるし、ワシも鼻が高い。ルフィも海軍を目指してほしいものじゃが…」

小さく尻すぼみになっていく語尾に、上手くいっていないんだな、と苦笑する。
あの子が海賊を目指しているのは昔からだ。

「シャンクスさんの影響は大きいから…仕方ないよ」
「赤髪なんぞに影響されおって…!」
「(そもそもルフィに規律厳しい海軍は無理だと思うけどなぁ…)」

自分だって息苦しいときもある、と肩を竦める。

「じゃあ、おじいちゃん。私もう行くね」
「くれぐれも」
「怪我だけはないように!…もう何度聞いたかわからないよ?」

少しは信じて、と笑うコウに、ガープの心配も少しは緩和されたようだ。
ほんの少し表情を緩めた祖父を見て、コウはドアに手をかける。

「来月…勝てるとは思ってないけど、負けたくないんだ。だから、頑張るよ」










この翌日、コウは海軍に持つ船ではなく、借り物の船を動かし、本部を後にした。

「さて…と。あんまり時間はないから、急がないとね。アレが手に入らなかったら、元も子もないし」

風向きよし、と空を仰ぎ、マストに凭れてバサリと新聞を広げる。
そこに書かれた日付を読み取った。

「…うん、5日後で間違いない…はずだよね」

もう随分と古い記憶になってしまったから、不安がないと言えば嘘になる。
けれど、この時を逃せばもう、自分の手には入らないかもしれない。

「…待ってて、相棒。必ず手に入れるから」

18.07.07