Ice doll --- sc.064
アジトに侵入した子供たちは、目隠しをされた状態で椅子に固定された。
意識はもう間もなく回復するだろう。
いたいけない子供にこんな事をするなんて。
普段だったならば、コウはそう反論しただろう。
しかし、今の彼女には他者を気遣う余裕がない。
ヒソカがもたらした情報は、彼女の心中を激しく揺さぶっていた。
「――、―――コウ」
「!ごめん、何?」
名前を呼ばれていたことにすら気付かなかった。
はっとした表情で顔を上げた彼女に、シャルナークは気にした様子もなく続きを述べる。
「そろそろ目を覚ましそうだよって話。大丈夫?」
「…ええ、大丈夫」
とてもそうは見えないけれど、大丈夫と答える以上、何も言えない事も事実。
シャルナークは軽く頬を掻いてから、彼女の頭に手を乗せた。
「無理しないようにね」
「………ありがとう」
力なく微笑む彼女のために出来る事が見つからない。
予想とは裏腹に、子供たちは淡々と質問に答えた。
年は、8歳らしい。
5歳程度と思ってしまったのは、彼らが小柄だったからなのだろう。
生まれや育った場所については、わからないと答えた。
「幻術はどちらかの能力か?」
クロロの静かな問いに、子供たちが初めて沈黙した。
少しくらいは待つつもりなのだろう。
急かすでもなく、ただじっと二人に視線を向け続ける彼。
「どっちかの能力じゃない」
「僕たちは、二人で一つなんだ」
今までの回答と同じように、二人が交互に話す。
その内容はクロロにとっては想定内のものだ。
鍛えているとは言え、まだ子供の二人。
二人で積み重ねることにより、稚拙な部分を覆い隠したのだ。
「目的はコウを捕らえる事か?」
「僕たちの目的はこの人じゃない」
「この人を捕まえたら、会えるんだ」
子供の声で、大人びた内容を紡ぎだす。
不思議なギャップが視覚的な混乱をもたらしていた。
「誰に?」
ある意味では、答えが予想できる問いかけだ。
クロロの質問に、二人が声を揃える。
「「母さん」」
ドクン、と心臓が音を立てた。
「…エリスバークと言う名を知っているな」
最早問いかけではない言葉。
二人が、ただ一度だけ頷いた。
ぱんっと拳を手に打ちつけたフィンクスが、納得できたとばかりに得意げに口角を持ち上げる。
「決まりだな。エリスバークがコウを捕らえるべく送り込んできた刺客…か」
「エリスバークは手が足りてないか?こんな子供を使うなんて、馬鹿のすることね」
フィンクスに続いて声を上げたフェイタンは、まだ少し腑に落ちないようだ。
と言うよりも、彼の場合は子供たちがあっさりと吐いてしまったことが納得できないのかもしれない。
喋らないから拷問するという大義名分を失えば、貴重な証人に手は出せない。
不満げな様子の彼はさておき、今はこの子供たちをどうするか、と言う問題を解決しなければならない。
守られているだけでは駄目だ。
生きると決めた、自分自身で動かなければ。
「…私を捕らえると言うのは、どう言う意味?」
初めて、沈黙していたコウが自ら口を開いた。
緊張からか、乾燥している唇を開き、声を発する。
黒い布に目を覆われた二人が、声に反応してコウの方を向いた。
「幻術の中に閉じ込めるんだ」
「殺しちゃいけないって言われた」
「殺したら、母さんに会わせないって」
「精神を捕まえて、連れて来たら会わせてくれるって」
すらすらと淀みなく交互に答える様は、まるで一人の人間の口から紡がれる言葉のようだ。
ククク…と笑い声が聞こえ、コウの視線がそちらを向く。
そこでは、一番遠い位置で壁に凭れていたヒソカが、笑いを噛み殺していた。
「精神を、か。…正真正銘、“ドール”だね」
何が楽しい、と言う者は誰もいない。
ここに居る全員が、ヒソカがそう言う人間であると知っている。
あえてそこを言及するなど時間の無駄だ。
「話を戻すぞ。連れて来いと命じられているからには、場所はわかるな?」
「「わからないよ」」
当然だろうと思っていた質問には、否定が返って来た。
まさかここで予想外の答えを貰うとは思っていなかったのか、クロロは少しばかり目を見開く。
「僕たちは何も知らない」
「いつの間にか、“家”を出ていて、お仕事が終わると、いつの間にか“家”に帰ってるんだ」
「だから、“家”がどこにあるのかはわからない」
「あの人がどこにいるのかもわからない」
わからない、と繰り返したその言葉に、果たして偽りはないのだろうか。
コウはその真意を探るように二人を見つめる。
しかし、目隠しされて目が見えない状態では読み取れる表情など高が知れている。
彼女は、素直にクロロに助けを求めた。
「…場所を知らせないために、移動の間は操作されているんだな。恐らく、そいつとの連絡手段があるだろう」
「何なら、私が記憶を覗きましょうか?」
不意に、今までは聞こえていなかった第三者の声がした。
全員が警戒することなくそちらを見ると、ドアの所にパクノダが立っている。
コウが表情をパッと輝かせ、パクノダ、とその名を呼んだ。
「久しぶり」
遅れてごめんなさい、そう告げる彼女に駆け寄ったコウは、ゆっくりと首を振った。
「とりあえず…どの程度まで話が進んでいるの?」
「質問には概ね答えている。事実かどうかはわからないが」
「そう。じゃあ、おさらいついでに、全部確認しましょうか」
ニコリと微笑んでからコウの近くを離れた彼女は、そのまま子供たち二人の背後に立つ。
そして、各自の方に手を乗せて、クロロを見た。
「まずは―――年齢からか」
「そう。…あなた達の年齢を教えて?」
パクノダの、優しい問いかけが始まった。
09.04.25