Ice doll --- sc.062
血縁者であることを否定できない子供たちを見て、自覚が増す。
自分には血を分けた人間がいるのだと言う事。
それは、見たことのないコウにとってはとても不思議で、そして新鮮なものだった。
「やぁ。遅かったね」
行く、と聞いてから2時間と少し。
先に着いているはずだったコウたちは、にこりと笑う道化師によって迎えられた。
彼はフェイタンとフィンクスが腕に抱えている子供に視線を向け、笑みを深める。
まだ目を覚ましていない彼らの一人に近づき、その髪を掴んだ。
ぐい、と頭を持ち上げて顔を確認した彼は、なるほど、と頷く。
「コウそっくりだね」
「間違いはないだろうな」
「うん。コウの甥や姪は、全部で13人だからね」
こともなげに答えたヒソカに、一行の視線が集中する。
コウにいたっては、驚きすぎて言葉もないようだ。
「…ヒソカ」
「何だい?」
「アイス・ドールを知っているのか」
断定的な言葉に、彼はククッと喉を鳴らす。
「ドール自身は知らないよ。ただ…ちょっとした情報網から、ね」
そう言ってから、彼はクロロを見た。
視線を向けられたクロロが、軽い疑問をその目に浮かべる。
誰だ、と問うているのだろう。
「君も…コウも、知っている人だよ」
それ以上、彼は何も語らなかった。
コウは自分の名前が挙がった事に驚き、彼が口を噤んでからもその人物について考える。
彼女が知る人は、そう多くはない。
排他的な村で箱入り娘のように過ごしてきたからこそ、友好関係はまだまだ浅く狭いのだ。
一人ずつ顔を思い浮かべるのはそう難しいことではない。
順に知人の顔を浮かべ、その中からクロロとの関わりのある人物を探す。
一人、該当する人物がいた。
「イルミ…ゾルディック?」
零れ落ちたその名を肯定するように、ヒソカの目が細められる。
コウはどうして、と呟いた。
「アイス・ドールを知っているなら…何故…」
何故あの日、自分を捕らえるような真似をしたのだろう。
ハンター試験の最中は手を出して来なかったけれど、あの日の恐怖は忘れない。
もう一人を知っているのならば、何故自分に固執するのだろうか。
そんなコウの考えを読み取ったかのように、ヒソカが口を開いた。
「ドールの所持者は、ゾルディック以上の富豪だよ」
お金で解決できる問題ではないようだ。
では、強硬手段に出ないのだろうか。
そんな疑問を解決したのはヒソカではなかった。
「もしかして、エリスバークの事かな」
「正解」
ピンと何かに閃いた様に、シャルナークが声を上げた。
ヒソカの答えを聞くに、彼の考えは間違っていなかったらしい。
そのエリスバークがどのような人物なのか―――シャルナークが自身の記憶を頼りに説明する。
「歴史も、ゾルディックとも結構繋がりの深い家だよ。表の顔は世界トップのケータイ会社を経営したり、色々。
でも裏の顔は―――コレクターだね。珍しいものなら何でも」
人体収集家ではなかった事は、ある意味では不幸中の幸いだろうか。
人間にだけ興味を持っているわけではないのだから。
しかし、珍しいもの、と形容される種の人間であると言う実感が沸き、コウは自身の肩を抱いた。
ゾクリ、と背筋に伝う何かを感じたのだ。
「じゃあ、こいつらはエリスバークの差し金なのか?」
「まぁ、そう判断しても間違いじゃないと思うけど。起きてから、詳しく調べようか。いける?」
コウを覗き込むようにしてシャルナークが問いかける。
彼女は少しだけ躊躇った。
そんなコウを助けるように、クロロが口を開く。
「パクノダを呼ぶ。その方が確実だろう」
コウの念能力を疑っているわけではないのだ。
しかし、こんな不安定な状態では良い結果が期待できない。
わかっているからこそ、確実、と言う言葉を選び、パクノダの能力を使うことを考えたクロロ。
ありがとう、と告げた言葉に、彼は小さく頷いた。
アジトの中に入る一行の最後尾を歩き、色々なことを考える。
どれだけ考えても宙に飛散しているように的を射ない思考回路は、堂々巡りを繰り返した。
「ヒソカ」
「何だい?」
呼ばれることがわかりきっていたかのように、彼は即座に振り向いた。
「その、私は…姉?それとも…」
「姉、だね」
「…そう」
名も知らぬ片割れは、双子の妹。
最早、知らなかったでは済まされない所まで話が進んでいる。
コウは、自分自身の覚悟を決める時が迫ってきていると予感した。
一族の掟により別たれた片割れとの再会を、そして―――憎まれる事の、覚悟を。
外の空気を吸い、大切に育てられ…今まで生きてきた自分を、どれほどに憎悪しているのだろう。
邪心を向けられることはあっても、憎悪を向けられたことはない。
故に、そんな負の感情を想像しただけで…胃の辺りがズンと重くなるような感覚を抱く。
しかし、憎むな、恨むなとは言えない。
自分も家族や一族の者を失い、ただ一人残ったクラピカとの再会も果たせては居ない。
ある意味では彼女も十分不幸だっただろう。
だが、名も知らぬ妹は、そんな家族や友人すら持つことを許されなかった。
何もわからぬ生まれたばかりの時に外の世界へと売られ、その後は―――
コウに非はないとしても、向けられる憎悪は当然のものだ。
「コウ」
「何?」
「イルミが何でドールを貰い受けようとしないか…理由を教えようか?」
きょとんとしたコウに、楽しげに笑う彼。
「イミテーションに興味はないんだよ」
「……………」
「この意味を考えてみるといい。変に悩むのは、その後でも十分だよ」
ポン、と頭を撫でられた。
顔を上げたときにはすでに彼の背中しか見えない。
歩いていく背中を見ながら、コウはヒソカの言っていた意味を考えようとする。
イミテーション ――― 模倣。
その言葉の意味を、彼女は理解できるだろうか。
09.01.11