Ice doll --- sc.061
考えて、考えて、考えて。
そして、ふと気付く。
あぁ、この子達は―――似ているんだ。
それに気付いた時、コウは自然とクロロのシャツを握っていた。
「団長…」
「どうした?」
子供たちを警戒することなく、彼はコウを振り向いた。
背中の辺りを握っていた手を離し、彼の視線と正面から向き合う。
「…気付かない…わけ、ないわよね?」
彼に限って、そんな事はないだろう。
コウの問いかけに、クロロは沈黙した。
そんな二人の反応を見て、その場に居た団員がそれぞれの反応を示す。
その反応だけで、彼らの心中が見えるようだった。
「………身に覚えは」
「ないわ」
「なら―――」
少し思案するように黙り込んだ彼は、そのまま部屋を出て行こうとする。
フィンクスがその背中に声をかけると、彼は端的に答えた。
「アジトを移す」
短い言葉の中に、それぞれが取るべき行動が含まれている。
まず、一番に動いたのは両手が空いているシャルナークだった。
ケータイを取り出し、手馴れた様子でマチへと電話をかける。
数コールで繋がり、用件のみを手短に話した。
「次はどこだろ?」
「…順番的に、4番じゃないか?」
「4番だって。うん。俺たちもすぐ移動すると思うから、よろしく」
暗号めいた答えに頷き、シャルナークはマチにその内容を伝える。
電話が切れたのを見計らったかのように、絶妙なタイミングでクロロが部屋へと戻ってきた。
「マチには4番って伝えたよ」
「そうか。まぁ、妥当な所だな」
距離や規模などを思い浮かべ、頷くクロロ。
シャツと革のパンツスタイルだった彼は、戻ってくる時にはしっかりとコートを着込んでいた。
準備ができたのだと言う事は明らかだ。
「問題なければ、すぐにでも出発する」
そう言ってから、彼がメンバーに目配せする。
誰一人として反対の声は上がらなかった。
「何で移動するんだ?」
どこからか盗んできたワゴン車で移動中、フィンクスが疑問を口にした。
呆れた表情をしていないことから、フェイタンも完全に理解しているわけではないようだ。
そんな彼らの疑問を解消すべく口を開いたのは、この状況を生み出した張本人。
「こいつらを見て、誰かを思い出さないか?」
「……………」
「あぁ、そう言う事ね」
子供の顔に興味などなかったのだろう。
二人がジッと子供達の顔を見つめる。
先に気付いたのはフェイタンだった。
「…コウ、か?」
彼女自身に直接問いかけたわけではない。
しかし、彼女は居心地悪そうに視線を逸らした。
やや不安ながらも紡がれた言葉に、クロロが頷く。
「だが、コウは覚えがないらしい。
そもそも、ずっと村で大事に育てられてきたコウに子供が出来る暇はない」
「コウとよく似た…それこそ、殆ど同じ顔をした人間の子供の可能性が高い。
つまり―――こいつらは、コウの片割れの所有者が送り込んできたかもしれないって事だね」
クロロの言葉に続き、運転中のシャルナークがそう答えた。
コウ…アイス・ドールの所有者は、世界でも有数の富豪であると見て間違いはない。
もしくは、相当の実力者。
或いは…その両方か、実力者を抱えているか。
とにもかくにも、並大抵の人間ではないのだ。
先遣隊として子供を送り込み、そこから情報を得るつもりだった。
クロロは、そう予想を立てたのだろう。
「しかしよぉ…それなら、発信機か何かが付いてるんじゃないか?」
「それに関しては―――」
「大丈夫よ。調べたわ」
沈黙していたコウが、口を開く。
「この子達が着ているもの、身体…どこにも、他の人間の念を感じなかった」
「隠してる可能性は?」
「ないわね。私の能力で確かめているから、内部であろうと、異なる動きがあればわかる」
そう断言した彼女に、なるほど、と納得する。
通常時は操作系である彼女は、他者の肉体に自身のオーラを流し込むことにより、直接的に肉体を操作する。
他にも能力はあるが、クロロ以外のメンバーが知っているのはそこまでだ。
オーラを流せば、他からの干渉がある場所は特定できる、と言うわけである。
「まだ起きそうにない?」
もう、かれこれ2時間は移動している。
移動の妨げになることを考え、子供たち二人は気絶させられていた。
「あぁ、気持ち良さそうに寝てるぜ」
「へぇ。ま、下手に起きられるよりはいいよね。一撃で倒れてる方が」
ガタン、と道の悪さに車のタイヤが奪われる。
派手に揺れたけれど、問題なく走行できているようだ。
もう一度窓へと視線を向けようとした所で、コウが握っていたケータイが音を発した。
「シャル、メールなんだけど」
「あぁ、見てくれる?」
いいの?と確認する事はなかった。
見てはいけないならば、頼んだりしないと知っているからだ。
迷いなくメールを開いたコウは、その内容に軽く目を見開く。
「誰から?」
「…ヒソカ」
「…珍しいね。何て?」
「マチから面白い話を聞いたから、行くって」
マチにはアジトにコウ狙いの侵入者があった、と言う程度しか伝えていない。
その情報から、あの勘の良い道化師は何を悟ったのだろうか。
ニコリと微笑む顔文字は、まるでコウがそれを読んでいることを見透かしているようだ。
「…面倒な奴が気付いたな」
コウの隣に座っていたクロロが呟いた。
ヒソカが状況をかき回さないことを祈るのみだ。
08.12.19