Ice doll --- sc.028
「これから二次試験の説明をするわ!二度は説明しないから、耳の穴かっぽじってよーく聞いておきなさいよ!」
声にあわせてツインテールを揺らしながらそう言ったのは、一次試験の試験官だ。
いや、誰もがそう思っただろう。
コウ以外の者は。
「…シャル」
「ん?聞き逃しても知らないよ?」
「それは大丈夫。あの試験官、別人よね?」
後ろの方に居た二人のおしゃべりに気づくものは居ない。
シャルナークは、コウの言葉に驚いた様子を見せ、試験官をじっと見つめる。
その目の真剣さと言えば、夢見がちな少女ならば勘違いしてしまいそうなほどだ。
「…違いが分からないんだけど」
「ツインテールの角度が違うわ。
まぁ、これは結いなおした可能性もあるけれど…目元が、今の人の方が少しつり上がってるの」
「そうなの?俺にはどっちも同じように見えるけどね。まぁ、コウがそう言うならそうなんだと思うよ」
別人であろうが、同じ人物であろうが、正直どうでもいい話だ。
連続して試験官を務める事は珍しい事だが、ありえないことではないだろう。
シャルナークの言葉に、それもそうね、と頷き、とりあえずは話に集中する事にした。
要約すると、二次試験はビー玉探しだ。
こう言うとまるで子供のお遊戯のようだが…実際は、結構ハードな代物である。
青、赤、白―――三色のビー玉が島の各地に隠されているらしい。
色が分けてあるのは、それぞれの色により点数が異なるから。
点数は1点、2点、5点の三種。
配点に関しては時間終了時に発表されるらしい。
つまり、どの色が高得点なのかが分からない為、一種類では安心していられない。
「ビー玉は1時間おきに、青、赤、白色がそれぞれ1つずつ爆発するわ」
また、一次試験と同じように時間が経つに連れて難易度が上がっていくらしい。
彼女はそれを言うと、己の腕を掲げて続けた。
「はい、自分達の腕時計を見て」
そう言われ、全員が己の腕に嵌めたそれを見る。
そこで、気付いた。
いつの間にか受験番号の周りをぐるりと一周するように、穴が開いているではないか。
その数は合計8個。
「見つけたビー玉はそこに嵌めるのよ。嵌ったビー玉は黒色に変化するわ。それは爆発しないから、安心して」
「ちょ…ちょっと待てよ!このサイズのビー玉を探せって言うのか!?」
受験生の一人からそう声が上がった。
そう言いたくなるのも無理はない。
現に、何人かは同じ事を考えていたらしく、強く頷いている。
時計に開いた穴は、直径が5ミリ程度。
「ハンターたる者、宝探しの一つや二つ出来て当然よ」
そう言って彼女はニヤリと口角を持ち上げる。
先輩ハンターの言葉とその笑みに、受験生は沈黙した。
「最後にもう一つ。ビー玉は時計の側面についてる突起を押すと外れるわ。
それから、黒いビー玉には、それぞれの受験番号が刻まれるシステムよ。
で、自分の番号と一致しない黒色は5点。―――言っている事、わかるわね?」
自分の番号と一致しない黒―――つまり、他の受験生の番号の入った黒いビー玉。
その意味するところは、考えるまでもない。
「期限は三日間。合格得点は15点以上。スタートは…一次試験の合格順にしましょうか」
そう言うと、彼女の隣にもう一人、同じ容貌を持つ女性が現れた。
驚きを隠せない受験生達を横目に、後から来た方が説明していた彼女にバインダーを渡す。
「受験番号222番!行っていいわよ。次の人は30秒後にスタート」
その声を聞き、コウは隣に立つシャルナークを見た。
「じゃあね」
「うん。また後で」
ひらりと手を振り、コウは島へと上陸する。
そのまま林道を歩く彼女の後姿は、すぐに見えなくなった。
「ビー玉探し…ねぇ」
小さな孤島と言っても、広さはそれなりにある。
直径が5ミリ程度のビー玉探しなど、とてもではないが真面目にやっていられない。
「やっぱり、他の奴から取るのが一番かー…」
配点の分からないビー玉と、5点と決まっていて、受験生が持っているので見つけ易いビー玉。
どちらを優先すべきなのかは、火を見るよりも明らかだ。
「ま、皆同じ事を考えるんでしょうけれど」
はぁ、と溜め息を吐き出し、コウはてくてくと道を歩く。
そうして暫く歩くと、後ろから足音が近づいてきた。
だが、彼女はそれに対して警戒を強めたりはしない。
足音が聞こえる前に、コウの“円”がその人物を察知していたからだ。
「ねぇ、シャル。どうしようか」
「手っ取り早いのは協力する事だと思うよ」
当たり前のように声を掛け、相手からも当たり前のように返事が返って来る。
漸く隣に並んだシャルナークの返事に、コウはその内容を問うように彼を見た。
「コウと俺。お互いに3つずつ集めて、交換するんだ」
「…あぁ、なるほど。それなら、最低個数で突破できるわね」
見つけたビー玉の色も何も関係ない。
納得したのと同時に、コウの右側の茂みがガサッと音を立てた。
そこから現れた巨体の影が彼女をすっぽりと覆う。
グァァ、と牙を剥いて来たのは、体長2メートルはあろうかと言う巨大な熊だ。
コウはそちらに一瞥をくれる事すらなく、ピンと指を伸ばした手で熊の身体を貫いた。
心臓を一突きすれば、いくら体格差があろうとも意味はない。
掠める事すらなく、熊がその場に崩れ落ちた。
「…グレゴリーベアだね。ってことは…この島、結構凶暴な野生動物が溢れてると見て間違いないよ」
倒れこんだ熊の傍らに膝をついたシャルナークは、その種類を読み取りそう告げた。
コウは熊の血で濡れた手を不愉快そうに見下ろす。
それから、すでに息絶えている熊を見て、何かに気付いた。
傍らに屈み、熊の目の辺りを探るようにしている彼女に、彼は首を傾げる。
「どうしたの?」
「これ」
立ち上がったコウがシャルナークの目の前で手を開いてみせる。
赤く濡れた掌に転がったのは、血に濡れた小さな玉。
汚れていない方の手でそれを拭えば、その色が青色であることがわかった。
「…これよね」
「嵌るなら、そうだと思うよ」
シャルナークの答えにコウは指先でそれを拾い上げ、腕時計の穴へと嵌める。
カチン、と小さな音がしたかと思えば、それがしっかりとはまり込んだ。
そして、いくらもしないうちに闇を落としたような黒へと変化する。
「まずは一つ。さて…残りはどうする?」
「面倒は嫌だし、ここは協力しておきましょうか」
「うん。俺も、それに賛成。…どのくらいで3つ集められる?」
「んー…そうね。シャルは?」
そういったコウの表情は、どこか悪戯を思いついた子供のようなそれだ。
彼はニッとその口角を持ち上げ、口を開く。
それにあわせるようにして、彼女も己のそれを開いた。
「「3時間」」
ぴったりと呼吸の合った言葉に、二人は同時に笑った。
08.01.03