出会いは偶然か必然か -中編-

かなり距離はあったものの、元々野山を駆けるのに適した獣である。
不安定な地面を物ともせずに、ルシアは確実に距離を詰めていた。

「…接触した」

空気の変化を読み取ると、コウはそう呟く。
数秒後、ルシアは徐々に速度を落とした。
絶を使って、自分の気配を消すとルシアの背を降りる。
木の枝に手をかけると、瞬く間に十数メートルの高さまで上る。
しっかりした枝に腰を降ろすと、彼らのやり取りを見つめた。
ルシアもすでに木々に身を潜めている。











「幻影旅団だな」

リーダー格の男が、クロロにそう問うた。
おそらく賞金稼ぎの団体であろう。
それなりに腕には自信があるようだが……。

「(隙だらけだな。)」

少しは骨のある奴を期待したのだが……世の中は上手くいかないものである。
周りをぐるっと囲まれているクロロだが、その表情は変わらない。
それぞれに自分の得意な武器を構えて、クロロを見据えていた。

「(尾行していたのはこいつらじゃないな。)」

雑な気配の消し方に、クロロはそう感じる。
再び溜め息をつくと、右手に本を取り出した。

クロロの念能力“盗賊の極意スキルハンター”である。

彼が動いたのをきっかけに、周りを囲う奴らも一斉に動き出した。















「へぇ…面白い能力…特質系ね」

クロロの様子を見ていたコウは楽しそうに目を細めた。

「欲しいなぁ、あの能力」

コウの能力はコピーではなくクローン。
それらは全く同じものである。
そしてそれは念能力にも言える事だった。
ただし、クロロ同様に念能力を得るには何段階かの準備作業が必要なのである。
一つはたった今クリアした。

「残りの条件は三つ…。あの人相手にはちょっときついかもね」

クロロの動きを見て、コウはそう漏らした。
コウが認めるほど、クロロには隙がなかったのだ。

「って言うか…さっきから鬱陶しいなぁ…ずっと隠れてる奴」

戦闘が行われている場所のすぐ傍にずっと身を潜めている男の事である。
気配の絶ち方、念…どれにおいても他の奴らとは違った。
明らかな、プロである。
同類の仕事に就くコウだからこそ気づいたとも言える。

「ずっと機を窺ってるのよね……かなりの熟練者」

コウには気づいていないようだが、その男はずっとクロロを見据えていたのだ。
男から視線を外すと、クロロの方へとそれを戻す。
着々と増えていく人の山。
かすり傷一つ負っていないクロロを見て、コウはその実力を垣間見た。















「23…2、6……30っと!」

後ろを取ろうとしていた男に手刀を入れる。
その男が地面に伏すと、立っている人数はわずか三人になっていた。

「残り3人か…。さっさと来いよ」

服のホコリをパンッと叩くと、クロロは残りの三人を見据える。
その眼は、動物の自己防衛本能に直接響くような眼だった。
一瞬は怯んだものの、三人は一気にクロロに飛び掛っていく。

結果は、言うまでもなかった。













「凄いね…丁度2分ジャスト」

思わず拍手を送りたくなるコウだった。
だが、そんな穏やかな事も言っていられなくなる。

「!動いた」

先ほどコウが意識していたプロの男が、ここに来て動きを見せた。
クロロを見るが、彼は気づいていないようである。

「……………助ける義理はないんだけどなぁ…」

どうするべきかと思案している間にも、男とクロロの距離は確実に縮んでいた。
男が自分の武器に手をかけた。

「……もうっ!」

痺れを切らしたコウが、ヒラリと木の枝から身を投げた。
下で待機しているはずのルシアに指示を出そうと、コウが口を開く。















「これで全部か…。本当に俺を殺す気が合ったのか?こいつら…」

そう疑いたくなるほど、弱かった。
息一つ乱さずに、クロロが襟元を寛げる。

「さっき尾行してきていた奴はどうなったかな…」

そうして、周りの気配を探ろうとした…

その時――――

「ルシア!」
「!?」

女性独特の高めの声が響き、クロロの身体をルシアが突き飛ばした。
同時に、鼻先を鋭利なナイフが飛んでいく。
当然、ルシアはクロロを押し退けた後すぐに身体を反転させてナイフを避けた。
持ち前の運動能力で、すぐに戦闘態勢へと身体を持ち直すクロロ。
その視界に、銀色の髪が舞った。
クロロに背中を向けたまま、小型のナイフを3本殺し屋に投げつける。
額、喉、心臓を的確に射抜くナイフ。
うめき声すらなく、男は地面に伏した。
クルリと振り返ると、妖艶とも言える笑みを浮かべて、その形の良い唇を開いた。

「油断大敵」