出会いは偶然か必然か -前編-
「幻影旅団?」
シルバの口からその名前が出て、コウは首を傾げた。
すでに、コウはゾルディック家に世話になったまま情報屋として名前を広めている。
もちろん、形だけは『イルミの婚約者』となってはいるが。
「ちょっと待ってくださいね」
シルバの話す事を一つも聞き逃さずに聞き終えると、コウはすぐに机に向かった。
慣れた調子でパソコンを叩く。
導き出された情報をシルバに差し出した。
コウの情報屋としての技量は、ゾルディックでも一目置かれるほどのものだった。
少女の領域を抜けた彼女は、大人の魅力と言うものを徐々に持ち始めている。
その若さで、コウは闇世界に名前を広めるほどの実力を手にしたのであった。
「それでどうでしょう?」
「…ああ、十分だ。さすがだな、コウ」
どこか優しさを含む声色で、シルバがコウの頭を撫でた。
一見子供扱いのようにも思えるが、コウは嬉しそうに目を細める。
コウの情報を手に、シルバが部屋を去った。
そのまま机に向かうコウだったが…ふと先ほどのページを開く。
「幻影旅団か…何か、見てみたいかも」
コウの情報網を駆使しても、その団員の一部しか探ることが出来なかった。
それが、逆にコウの好奇心を駆り立てる。
悩んだ時間も少なく、コウは嬉々として準備を始めるのだった。
「ルシア、スノウ。あんまり遠くへ行っちゃ駄目よ」
走り回っているルシアとスノウに優しい視線を向けながら、コウがそう言った。
答えるように一声鳴く二匹に安心し、コウはベンチに座る。
「この辺りよね。昨日の目撃情報は…」
帽子を深く被りなおすと、コウは自然な振る舞いを見せた。
こんな所でパソコンを開くわけにもいかない為、時間つぶしに本を開く。
分厚い本を膝に固定すると、その指でページを捲った。
活字を追う視界に、時折楽しくじゃれ合うルシアとスノウが入ってくる。
元気な様子に、コウも自然と柔らかい表情を見せていた。
道行く人々は皆、彼女に目を奪われていた。
流れる銀髪は風に揺れては頬を優しく撫でる。
まるで絵画のような美しさの中に、コウはいた。
少女と女性の間を行き来する美しさを垣間見る。
そうして、コウがベンチに腰を落ち着けて数十分が経過した
一人の男性が、コウの前を右から左へ横切っていく。
男性は一瞬だけ彼女を気にした様子を見せたが、すぐに前方へと視線を向けた。
男性の姿が見えなくなると、ルシアとスノウがコウの元へと駆けて来る。
「ビンゴ。見なかった顔だけど…多分間違いないわね」
そう言ったコウは、至極楽しそうな笑みを浮かべていた。
「さすがは幻影旅団。纏にも抜かりがない」
何かを伝えるようにコウの肩へと上るスノウ。
スノウの純白の毛並みを撫でつつ、コウはそう呟いた。
そうして、ようやくコウはベンチから立ち上がる。
手の中の帽子は、すでにその姿を消していた。
「さて…じゃあ、行こうか」
男性の歩いていった方へと、コウもゆっくり足を運ぶ。
街中を抜け、ちょっとした林を進む。
そうして数時間移動しているコウだが、一度も男性の背中を視界に入れなかった。
常に気配を辿れるギリギリの位置を進む。
スノウやルシアの力を借りれば、さらに距離を開く事も可能だった。
だが、コウは自分の力を試す為にあえて二匹に頼らなかったのだ。
「(思ったより移動するわね。私を警戒してる…?)」
そう考えて、少しだけ集中力を高める。
だが、周りの空気に変化は微塵も感じられなかった。
「(………気づいては、いないみたいね。)」
足音すらその場には聞こえず。
ただ、どこまでも静寂が辺りを包んでいた。
その時――――
「!」
ふと、コウが足を止めた。
「(…7・・8……10……34人!?)」
どんどん集まってくる気配に、コウは警戒を強めた。
しかし、それらはコウに向かっては来ない。
「…あの人が狙いか…」
小さく呟くと、コウはルシアに乗った。
「察知されない程度の距離まで走って」
その言葉を聞くと、ルシアは地面を蹴って驚くべきスピードで走る。
肩のスノウに手を当てながら、コウは真っ直ぐ前を見据えていた。
一方、男性ことクロロ。
「中々の奴だな。…この距離だと断言できない」
一応、尾行には気づいていた。
気づいてはいるものの、それがはっきりとわかっているわけではない。
“尾けられている気がする”程度のものだった。
それだけ、コウの実力が凄いという事ではあるが。
「……おまけに団体さんの登場だな」
歩きながらも読んでいた本を閉じると、クロロは溜め息を一つ。
気配を隠す事なく、真っ直ぐに自分の方へと向かってくる奴ら。
「……33人」
オールバックにしていない前髪を無造作に掻き揚げ、足を止める。
少しだけ開けた場所。
そこで、クロロは団体さんの到着を待った。
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