出会いは偶然か必然か -後編-

一定の距離をおいて、二人で切り株に腰を落ち着ける。

「…さっき、尾行していた奴だな」
「ご名答。さすがね。ま、気づいてないとは思わなかったけど」

ルシアの毛に指を通しつつ、コウが答えた。











コウとクロロ。
何故か、お互いに警戒していない。
それは本人達にとっても疑問ではあった。
どうやら、お互いに本能的な何かで敵でないと判断してしまったようだ。

「この男、殺しのプロだったみたいだけど…さすがの旅団も気づかなかったんだ?」
「!」
「あ、知ってるわよ。これでも情報屋としては中々優秀なのよ?」
「…………」
「あなた、クロロ=ルシルフルね」

クロロの名前を言うと、驚愕の表情を浮かべる。
そして、少し間を置いてクロロも口を開いた。

「情報屋……コウ=スフィリアか」
「あら、知ってたの?」
「裏では結構有名だな」
「それは光栄至り。よかったわね、偶々私があなたを尾行していて」
「ああ、感謝している。ありがとう」

素直にお礼を述べるクロロに一瞬呆気に取られるものの、コウは微笑を見せた。

「それで、何で俺を尾行していた?」
「んー…興味本位」

簡単に答えるコウに、今度はクロロが呆気に取られる番だった。

「お前……旅団がどういう団体か知らないのか?」
「まさか」
「興味本位で尾行する奴なんて……初めて見た」
「だってさ、知りたかったのよ。私の情報網を駆使しても調べ尽くせない謎のある幻影旅団が、ね」

要するに情報屋としてもプライドも少しは関係したのだ。
もっとも、プライドで命を捨てるほどの馬鹿をするつもりはなかったが。

「面白い奴だな、お前」
「お前じゃなくてさ、コウ」
「じゃあ、コウ。旅団に入らないか?」

突然のお誘いに、コウは目を見開いた。
尾行をしてどうするつもりもなかったコウ。
まさかこんな所で勧誘されるとは…夢にも思っていなかったらしい。

「……確か、メンバーは足りてるはずよね?」
「そこまで調べてあるのか…」
「生業だし」
「それだけの腕なら大歓迎だ。どうだ?」

笑みすら浮かべて、クロロが再度コウを勧誘した。
その笑みは先ほどの争いからは想像も出来ないような笑みである。

「嫌」

単語で断るコウに、クロロが言葉を失った。
先ほどから何度この驚き、驚かせの繰り返しをすれば気がすむのだろうか、この二人は。

「くっ…あははっ!」

堪えきれない、と言う風にクロロが笑い出した。

「本当に面白い奴だな。一応、断る理由を教えてくれないか?」
「…私がゾルディック家にお世話になってるから。旅団に縛られるのはご免だわ」
「ゾルディック…だからそれだけ気配の消し方や殺しが上手いのか…」
「元々、スフィリアも結構な殺し屋だからね。小さい頃から鍛えられたわ」
「コウ」

改めて呼ばれて、コウはクロロに視線を固定する。

「旅団である事の証は?」
「蜘蛛のイレズミでしょう?ナンバー入りの」
「ああ。やはり、そこまで知ってるんだな」
「当然だってば」
「お前には、ナンバーを与えない。ただ、旅団に入らないか?」
「……それって、旅団を中心にしなくてもいいって事?」
「そうだ」
「何でそこまで私に拘るかなぁ…」

わからない、といった表情を見せるコウ。

「コウと同じ、興味本位だよ」
「ああ、なるほど」

自分が理由無しに危ない橋を渡ってクロロを尾行しただけに、至極納得のいく答えだった。

「んー…本業は情報屋の方だからね?」
「問題ない」
「じゃあ…別にいいよ、入っても」

案外簡単に頷いたコウだが、その笑みには別に考えが隠されていた。

「ただし、条件があるよ」
「…なんだ?」
「クロロの念能力、私が貰うわよ?」
「………俺と似た能力か…」

瞬時にそう理解したクロロ。
彼が考えている間、コウは黙って返答を待っていた。

「俺が使えなくなるのは困る」
「ああ、安心して。それは大丈夫だから。…私の能力はクローンだからね」
「クローン…そいつらもだな」

ルシアとスノウを見て、クロロがそう言った。
コウは、笑みを深めるだけだった。

「条件があるんだろ?」
「そうね。結構難しいから…クロロ相手じゃ多分無理」

頷きながらコウが答える。

「いつでも相手になる」
「……それは自分で取れって事ね」

クロロの表情を見て、コウは溜め息を付いた。
そして、顔を上げるとクロロを見やる。

「いいわ。その言葉、忘れないでよ」





彼を追ったのは偶然で。
彼女を誘ったのは必然。
複雑な運命の交錯の中で、二人は出会った。

これから先、二人の道が分かれるか否かは、二人には予測できない事である。