Free act.51
『あんた達、なぜ逃げないの?』
足を止めたパクノダは、一瞬の躊躇いの後ゴンとキルアに向かって問いかけた。
『逃げるって?』
そう答えが返って来ると、足を止めて彼らを見やる。
コウはパクノダの行動を咎めるわけでもなく、ただ黙って聞いていた。
『おそらく手負いの私より、あんた達の方が足は速いわ』
事実を語る彼女は真剣な眼をしていた。
コウはパクノダの隣に立って彼女の横顔を見つめる。
『ここであんた達が逃げれば、こっちの切り札はなくなって鎖野郎は望み通り団長を殺せるのに。
なぜそうしようとしないの?アイツの仲間なんでしょ?』
そんな彼女の言葉に、ゴンが少し音量を上げて答える。
『仲間だからだよ!!』
彼らも真剣だった。
『仲間だから本当はクラピカに人殺しなんてしてほしくない!!』
『だから……交換で済むならそれが一番いいんだ!!』
その時のパクノダの表情を、コウが忘れる事はなかった
「…約束通り…じゃないわよ!?一人多いわ!」
飛行船の窓から下を見下ろしていたセンリツが声を上げた。
その声に反応するようにレオリオが窓へと貼りつく。
「大丈夫だ。コウだろう」
特に焦った様子もなく、クラピカは二人にそう言った。
レオリオがそれを確認した後で彼の方を振り返る。
「確かにコウだな…。呼んでたのか?」
「あぁ」
それ以上は何も言わず、クラピカも同じく窓の方へと近づいた。
「!あっちから誰かくる!!」
窓を見下ろしていたレオリオがそう言った。
同時にクラピカのケータイが着信音を響かせる。
クラピカはケータイを口元に近づけながらセンリツへと指示を出した。
「!!あれは!!!」
雨の中を歩いてきたのはアジトに居るべき筈の人物―――ヒソカだった。
「抜け出して来たのか?」
『安心しなよ、影武者を置いてきているから』
ケータイ越しにそう答えるヒソカ。
その場に緊張が走った。
だが、コウだけは予め予測出来ていたことである。
アジトに居たヒソカがイルミだとわかっていたのだから。
「ボクも飛行船に乗せてくれ。断ったら、この場でゴンとキルアを殺しちゃうかな?」
そうして、クラピカはヒソカの乗船を許可した。
二機の飛行船が硬い地面へと下りる。
――ピリリリリ――
コウのケータイが鳴った。
「何?」
『その携帯をキルアに渡してくれ。すぐに返す』
発信相手、クラピカはそれだけを言ってコウの行動を待った。
コウはそれに拒否するわけでもなくキルアに自分のケータイを渡す。
『キルア、携帯を胸にあてろ』
キルアがコウのケータイを胸に当てるのを見て、センリツがその心音を確認する。
何もされていないことがわかると、クラピカはコウにケータイを戻すようキルアに指示を出した。
「どうしたの?交換は?」
『…リーダーの事だ』
「…聞くわ。何」
『旅団との接触は死を意味する。コウならこれだけで十分わかるだろう』
「あなたの能力ね?」
『…ああ。だが、あくまでナンバーを持つ者に対してだけだ』
それを言うと、クラピカは一方的に電話を切った。
コウは音のなくなったケータイを一瞥する。
そして、その視線をクラピカの方へと向けた。
「交換開始だ!!」
クラピカはコウが何かを言う前にそう声を上げた。
キルアとゴン、そしてクロロは無事に仲間の元へと戻った。
クロロの肩に乗っていたスノウが嬉しそうにコウの肩へと飛び移る。
そんなスノウに、コウは優しい笑みを浮かべていた。
「ご苦労様、スノウ」
コウがそう呟いた時、クラピカ達を乗せた飛行船が空へと舞い上がった。
それを見上げながらコウがケータイを取り出し、アドレスからナンバーを引き出す。
『…何だ?』
「ありがとう。…ただ、それだけ言いたかったの」
すでに小さくなっているクラピカと視線を合わせながらコウは微笑んだ。
そして、そのままケータイを切る。
それをポーチに仕舞うと、彼女はヒソカの横を通りすぎた。
「程ほどに」
ヒソカにそう短く告げ、パクノダの傍へと歩み寄る。
「コウ、あなたには全てを伝えておくわ」
クロロとヒソカの会話を僅かに耳で捕らえながら、パクノダはコウに向かってそう言った。
コウを促がすようにして飛行船の内部へと入っていく。
窓のある部屋まで来ると、パクノダはコウを振り向いた。
そして、折れていない腕をコウへと差し出す。
「あたしの能力を使って頂戴。そして…もしあたしが死んだ場合は…」
一旦言葉を区切って微笑んだ。
全てを決心した眼に、コウは思わず言葉を失くす。
「皆にあたしの記憶、想いを全て伝えて」
「…約束するわ」
そうして、コウは差し出されたパクノダの手を取った。
05.04.16
Rewrite 06.04.01