Free  act.48

「何時だと思ってんだテメェ!!」

ホテルのロビーに怒鳴り声が響く。
ロビーにいた全員の視線が声の主の方を向いた。
コウは覚えのある声に思わず眉を寄せる。
視線を送っていたクロロ達に絡むように凄んだ後、再びケータイに向かって声を荒らげる。
それは見紛う事なくレオリオだった。

「(次から次へと…。)」

眉間を押さえるようにして、コウは黙り込む。
クロロが一言「邪魔だ」とそう言えば、彼の命はここでいとも簡単に終わると言うのに…。
キルア達が捕まった事といい、レオリオの行動といい…。
事態は悪い方へと進んでいるような気がしてならないコウだった。

「ったく、まぬけな手下を持ったおかげで俺のお先「真っ暗」だぜ!!」

ふと、先ほどまでは聞き流していたレオリオの言葉が、その時コウの耳に留まった。

「いいか!?「目ェつぶる」のは今回だけだ。次、ヘマしたらわかってんな!?
よく聞けよ!!「7時きっかり」だ!!それまでにホテルに来い!!」
「……………」

その後の言葉は全く耳に入っていなかった。
耳に残った言葉のみを頭の中で反芻する。

「(…「真っ暗」「7時きっかり」……「目ェつぶる」って言うのもメッセージか…。)」

再び新聞に隠れてしまったレオリオを一瞥すると、コウは口元に僅かに笑みを見せた。

「(7時に何らかの作戦があると見て問題ないわね。恐らくは闇に乗じる事。)」

伊達に女身一つで生き抜いてきたわけではない。
持ち前の頭の回転の早さを生かしてその答えを導き出した。

「ルシア」

コウが小さく呼べば、ルシアはすぐに反応を見せた。
見上げる一対の眼に微笑を返すと、再び小さな声で囁く。

「クラピカの匂いを探して。この近くにいるはずよ」

それを聞くと、ルシアはコウの隣に座ったまま周囲の匂いに集中する。
ロビーと言う事もあってすぐには見つからないだろう事は、コウもよくわかっていた。
時刻は間もなく7時3分前を刻もうとしている。
















「パク達が来た」

シズクがそう言った。
ロビーの入り口にはパクノダとノブナガ、そしてコルトピの姿が見える。
パクノダの肩に乗っていたスノウが嬉しそうにコウへと駆け寄り、いつもの指定席へと落ち着いた。
捕まっている二人を見て、ノブナガが嬉しそうな声を上げる。
よほど二人の事が気に入ったと見える。

「ま、仲良くやろーぜ。な?」
「やだね。懸賞金があったからこそ追っかけてたんだ。本当ならお前らなんか顔も見たくないんだからな」

そう言ってキルアがそっぽを向いて目を閉じる。

「俺もだね!」

次いでゴンも同じく。
そんな彼らを見て、コウは小さくクロロを呼んだ。
クロロが振り返ったのを見て、コウは言葉を続ける。

「ルシアが怪しい気配を見つけたみたい。私はそっちに集中するから」
「…わかった」

それだけをクロロに告げると、コウは彼の隣を離れて柱へと背中を預ける。
そして、ゆっくりとその目を閉じた。
時間まで後1分。








先ほどまでずっとクラピカを探していたルシアが声を上げる。

「―――え?」

コウはそれを聞いて思わず目を開きそうになった。

「さあ、質問よ。何を隠しているの?」
『ピ―――ン』

パクノダの声に一瞬遅れて、7時を知らせる音が響いた。
コウは瞬時に閉じていた目を開く。
目を閉じていた事で闇に慣れていた彼女の視界に映ったのは―――

「スノウ!」

コウの声と同時にスノウが肩を蹴る。
骨の折れる音が耳に届き、コウは慌てて振り返った。
目が慣れていない所為でキルアとゴンを逃がしかけているマチがいた。
パクノダの腕も異様な方向へと曲がっている。

「ルシア!」

キルアを押さえ込んだマチを攻撃しようとしたゴン。
ノブナガがゴンの足を掴もうと手を伸ばした――
だが、それよりも一瞬早くルシアがゴンを床に押し付ける。
ルシアは激しく牙を剥いて前足でゴンの胸を押さえつけ、彼の動きを制する。
喉元に噛み付きそうな程毛を逆立てるルシアに、さすがのゴンも抵抗をやめた。

「…ルシア、退きなさい。ノブナガ、この子を捕まえておいて」
「おう」

ルシアが唸りながらも渋々ゴンの上から退く。
ノブナガはゴンの両足を持ち上げて口元を上げた。

「残念だったな。ま……けっこういいセンいってたぜ」

そう告げたノブナガの横をナイフが通り過ぎる。
それを簡単に避けると、ノブナガが再度声を上げた。

「入り口の方からか…。最後っ屁のつもりか!?来るなら来いや」
「ラジオの奴もグルだよね。まだ残っているとは思えないけど」
「今のがそうだろ。ほっとけ。こいつらさえいればOKだ。そろそろ目も慣れる」

二人が言葉を交わしている間、コウはずっとスノウの気配を追う事に集中していた。

「あれ?団長は…?」

一瞬の雷が皆の姿を浮かばせる。
その中にクロロの姿はなかった。











ノブナガに向けた最後の攻撃。
それはパクノダにメッセージを伝えるための物であった。

『2人の記憶、話せば殺す』

それにより、パクノダは沈黙を貫くこととなった。
一方、フィンクス達の到着を待つ事になった一行に対しコウは―――

「コウ?どうしたの?」
「…………………」

シズクの声も届かぬほど、これからについて思考を巡らせていた。
もちろんスノウの気配を追うことも忘れない。

「………クロロ…」

いつものコウからは想像出来ないほど、小さな声。
その声は消え入りそうなほど弱く、誰の耳に届くこともなく空へと散った。

05.03.28
Rewrite 06.03.20