Free  act.47

「―――ええ、わかったわ。じゃあ、ベーチタクルホテルのロビーでね」

そう言って、コウはケータイを切った。
隣で報告を待つクロロに向き直り、口を開く。

「鎖野郎の顔と名前はわかったそうよ。能力に関してはまだ不明。あと…残りの仲間は3人」

今パクノダから聞いた事を簡潔に話すと、ケータイをポケットに押し込む。
ふと視線をゴンたちに向ければ、彼らは何かを考えている様子だった。

「行くぞ」

そのクロロの声で皆が一斉に動き出す。




「マチ…少しだけ代わってくれない?」
「…いいけど…」

そう言ってマチは返事を濁しながらクロロの方を向く。
代わってもいいのかという判断を彼に仰いだのだろう。
考える素振りも見せずに頷く彼を見てマチはコウに彼らを捕らえる念糸を渡す。

「大丈夫、逃がしたりはしないわ。私もこの子達を殺したくないから」

コウの言葉にマチは頷きながら二人の背後を彼女に譲る。
二人の背後に立つと、小さく…彼ら以外には聞こえないくらいの声で話した。

「変な動きをするなら…私でも助けられなくなるわよ」
「「!?」」
「大人しくしていれば旅団だって無闇に殺しはしないわ。…いいえ、させないから。でも……」

そこで一旦言葉を区切る。
二人は背を向けていたために見ることはなかった。
コウの、その冷たい眼を。

「大切な人を傷付けるなら…あなた達でも許せない」

二人の背中を冷たいものが流れ落ちる。
だが、その冷たく重い空気は一瞬にして消え去った。
慌てて振り向いた二人の目に映ったのは、困ったように微笑むコウ。

「私にとっては、大切な仲間なのよ。それだけはわかって」

それだけを言うと、コウの視線は二人ではなく仲間の方へと向いた。
どうやら彼女に気を使って少し前方を歩いていたらしい。
それだけで、コウと彼らの関係が窺えるようだった。

「ごめんね?」
「いいって。それより…もう話は済んだの?」
「うん。とりあえずは大丈夫。ありがとう」

そうして二人を捕らえる念糸は再びマチの手へと戻る。
コウは足を速めてクロロの隣へと落ち着いた。
彼女と共に走り出していたルシアが嬉しそうに尾を振っている。

「…もういいのか?」
「うん。…皆優しいね、本当に」

旅団にとって敵であるかもしれない彼ら。
それなのに、コウの気持ちを優先してくれる。
それが、ただ嬉しかった。











コウとクロロのやり取りを、キルアとゴンは少し後方から見ていた。
彼らが世間を騒がせている幻影旅団とは思えない。
その理由は…彼らを纏う雰囲気。
先ほどゴンがクロロに質問した時には背筋の逆立つ思いをしたのだが…。
今のクロロにそんな雰囲気は微塵も感じられなかった。

「キルア…」
「…多分同じ事考えてる」

その雰囲気を作り出しているのは言うまでもなく、コウ。
コウとて殺し屋の家で生まれ育ったのだから、もっと荒んでいてもおかしくはない。
だが、彼女の纏う空気はいつまでも優しかった。
殺し屋の時の空気は一瞬で消えうせる。
普段はそんな物を少しも感じさせない……それがコウだった。

「どうすればいいんだろ…」

ゴンが小さく呟いた。
コウの表情を見る限り、旅団が彼女にとって無二の物だと言う事は想像するに容易い。
そして、それは彼らにとっても言えることであった。
旅団が血も涙もなく、コウの笑顔すらも消していると言うのならば。
キルアとゴンも心置きなく敵対することが出来たのだ。

――知らなかった。

その言葉だけで片付けられるならばよかったのに。
コウの笑顔を引き出しているクロロに、キルアは僅かな嫉妬すら覚えたのであった。
















「ここで待とう」

ベーチタクルホテルに着いた一行。
大きな柱に背を向けてメンバーの到着を待つ。

「ねー。義理の弟ってどう言う事?」

シズクがコウに尋ねた。
雑談していてもいいのかとクロロに視線を向ける。
クロロは許可の意と取れるように頷いた。

「警戒は怠るな」
「了解」

そう言うと、コウは再びシズクに視線を戻す。
そして言葉を選ぶように少しだけ考える素振りを見せ、口元に笑みを作る。

「義理のって言うのは…私の婚約者の弟だからよ」
「コウって婚約者いたの?」
「…一応、形式だけね。縛るつもりはないから、好きにしてていいって言われてるの」

そう言って、コウは哀愁を纏った笑みを見せる。
胸元に光るペンダントを持ち上げてそれに視線を落す。
そんな彼女を横目に見つつ、キルアは只管センリツに向かって声を出していた。
が、不意にキルアの耳に低い唸り声が届いた。

「!」
「…コウ、ルシアどうしたの?」

キルアとゴンを捕らえるマチがコウに向かって問うた。
一方、その唸り声を一身に受けているキルアの頬には汗が伝う。
冷たい肉食獣の眼が、キルアを睨みつけていた。

「…ルシア、いらっしゃい」

コウが一声かければ、ルシアは先ほどの気配など全く見せずにコウの元へと歩み寄った。
ルシアからキルアの行動を聞いたコウは静かに彼を見据える。
だが、何も言わなかった。

「お客様、少しよろしいでしょうか?」

一人の命知らずなホテルマンがコウに向かってそう言った。
コウが視線を上げれば、ホテルマンの頬が若干赤く染まる。

「何かしら?」
「と、当ホテルでは規定サイズ以上の動物はこちらで預からせていただいております。お客様の中には…」

要するにルシアをこちらに引き渡せと言っているようだった。
コウは溜め息混じりにポーチを探ると、小さな手帳のような物をホテルマンの前で開く。
そこに挟んであったカードをホテルマンに見せたのだ。

「ハンター協会に常時同伴獣として許可を取ってあるわ。文句があるなら協会に直接言いなさい」

コウが冷たく言い放つ。
その許可証を突きつけられると、男はすごすごと引き下がって行った。
パンッと許可証を閉じると、再びポーチに中に戻す。

「…怒ってるの?」
「当たり前。相棒を物扱いしたんだから」

眉を寄せてシズクにそう答える。
時刻は間もなく6時53分を指そうとしていた。

05.03.25
Rewrite 06.03.20