Free act.46
「Go!!」
掛け声と共に一斉にその場を駆け出す。
周囲の人ごみを物ともせずに、標的に向かって走る。
コウもクロロの後方で離れすぎない程度の速度を保っていた。
不意に、隣を走るルシアが短く吠える。
「来たか…」
ルシアが伝えた言葉。
それにコウは眉を寄せる。
「二人…」
「…………尾けられてるな」
コウが呟くとほぼ同時にクロロがそう言った。
これだけ近くを、これだけ無防備に追跡されれば彼が気づくのも無理は無い。
先程の距離を保っていればよかったものを…とコウは内心舌を打った。
「!!いつから!?」
「やば。追うのに夢中で気づかなかった」
マチとシズクが反応を返す。
それぞれに緊張が走る。
無論、強敵と対峙するからではなく、どちらが鎖野郎かと探るためのそれだ。
「前と後ろどっちが鎖野郎だ!?」
ノブナガは刀を取り出すとそのまま袋を放り出す。
そして前方、後方と交互に視線を彷徨わせ、最終的にクロロの方を向いた。
「団長!」
指示を待つようにノブナガが声を上げる。
「ノブナガ、パクノダ、コルトピ前を追え!」
前方を指してクロロがそう指示を出す。
それに返事を返して三人は速度を上げた。
「スノウ!パクノダに付いていって!」
その声を聞くと、スノウはコウの肩から飛び降りて三人の後を追う。
コウの声に気づき、パクノダが一瞬だけ追ってくるスノウを見ていたから気づいていないという事はないだろう。
帰って来るときにはちゃんとつれて来てくれる筈だ。
対して、クロロ、コウ、シズク、マチはその場で瞬時に振り返る。
追ってきていた二人が同時に左右へと分かれて飛んだ。
「(クラピカとゴン…か)」
「見えたか?」
「影だけ…姿までは。路地に一人」
「ゴミ箱の後ろに一人」
「OK。“凝”をおこたるなよ」
「「「了解」」」
どうやら姿が見えたのはコウだけのようだ。
徐々に歩を進めていくクロロの後に続いてコウも足を進める。
「(さて…どうするかな?このまま行くと二人を逃がすのは難しい…)」
とりあえず、ゴンだけでも…とコウは思考を巡らせる。
クラピカが鎖野郎だと言う事はすでにわかっている。
彼とは顔見知りで、弟を救うためにククルーマウンテンまで来てくれた人物でもある。
だが……それ以上にウボーを殺した犯人と言う事が大きかった。
ナンバーを持たないコウであっても、彼らが仲間である事に変わりはない。
許せない気持ちも大きく…クラピカに関してはクロロたちに手出しをするつもりはなかった。
そんな事を考えて歩み寄っていると、行き成りゴンの方が四人の前に姿を現した。
「ごめんなさい!!もう追っかけないから許して下さい!!」
両手をあげてゴンがそう言った。
その時、ルシアが静かにコウに伝える。
「(キルアまで来たのか…)」
「もう一人いるだろ。出てきな」
マチがそう言うと、路地の方からキルアが姿を見せる。
「…コウ。知っているのか?」
「……何で?」
行き成りそう聞かれて、コウは驚いたようにクロロを見上げた。
「念が僅かに乱れた」
「……そっか。まだまだね、私も」
肩を竦めて苦笑を浮かべると、コウはクロロの隣へと移動した。
その位置に立てば、自然とキルアとゴンと目が合う。
「弟。義理のね。無茶しないようにって言ったんだけど…蜘蛛を追うなって忠告の方がよかったかしら」
コウは二人を見下ろしてそう呟く。
彼女の冷静な眼差しが、まるで突き刺さるように感じた。
「なるほど…こいつが例の弟か」
キルアを見下ろしてクロロが言う。
マチとシズクはコウの弟発言に驚いた様子だった。
「…で、どうする、団長」
「捕まえろ。……………コウ、そんなに殺気を向けないでくれるか」
「…これでも抑えたんだから文句言わないで」
クロロが捕まえろといった時点で僅かに漏れたコウの殺気。
それは殺気と言うよりは怒気に近かったが…。
大人しくマチの念糸に捕まった二人を見て、コウは溜め息をついた。
そんなコウの隣で、クロロはケータイを取り出す。
「フィンクスか、俺だ。ベーチタクルホテルまで来てくれ」
そう言ってケータイを切る。
マチが二人を捕らえている念糸をしっかりと握って口を開いた。
「コウには悪いけど…ここで始末した方がいいんじゃない?」
一度コウに視線を送った後、マチはクロロにそう言った。
コウは彼女の気遣いに感謝しながらも少し困ったような表情を見せる。
「いや、俺はお前の勘を信じるよ」
迷う事なくそう言ったクロロ。
その言葉に、コウが少なからず安心した。
彼らを殺すと言うならば…コウとて黙ってはいられなかったのだから。
「1つ、聞きたいことがあるんだけど」
今まで沈黙していたゴンが口を開いた。
視線が彼の元へと集まる。
「なぜ、自分達と関わりのない人達を殺せるの?」
クロロの冷たい視線がゴンへと突き刺さる。
だが、それはすぐに緩められた。
「ふ…白旗を上げた割には敵意満々といった顔だな。なぜだろうな。関係ないからじゃないか?」
ぶつぶつと何かを考え始めたクロロを見て、コウはゴンの言葉を頭の中で反芻していた。
「(…それ以外に存在理由を見出すものがなかったから…かな。)」
生れ落ちた瞬間から、殺し屋としての道に立たされていた。
コウにとって疑問に思うことすらないほど日常的なもの。
そんな状態から本当の意味で解放されたのも数日前。
今までの考えを捨て去るには十分とはいえない時間だった。
「…コウ?どうした?」
「!…何でもないわ」
「大丈夫か?」
「平気。ごめん、聞いてなかったわ」
心配するクロロに微笑み返す。
クロロは納得していない様子ではあったが、先ほど述べた事をもう一度話した。
「このままホテルまで行きフィンクス達を待つ」
「OK」
「…こいつらは…逃げようとしたら殺す」
少しだけ躊躇いがちにクロロがそう言った。
「…一応、止めるからね。それだけはわかっておいて」
コウの言葉に、クロロは黙って頷いた。
05.03.22
Rewrite 06.03.17