Free act.43
コウがアジトに戻った時には、すでに打ち上げは始まっていた。
それでも目ざとく彼女の到着に気づいたシズクの声により、皆が一斉に彼女を誘う。
そんな彼らに微笑を返し、コウもその打ち上げに参加した。
「ねぇ、ノブナガ…何を怒ってるの?」
旅団の皆が今回の成功を祝して缶を空けていく。
そんな中で一人不機嫌を露にしているノブナガ。
暫くは黙っていたコウだったが…彼の限界は意外と早く訪れた。
「聞いてくれるか!?実はな―――」
そうしてノブナガの説明が始まった。
とは言ってもそう長いものではなかったが。
まぁ、要約すれば面白い子供を二人ここへ連れてきたのだが逃げ出されたと言うもの。
その子供の特徴を聞いているうちにコウの笑みが深まっていく。
「…って訳なんだが……コウ?」
「ん?」
ルシアにもたれながら、膝の上のスノウの毛を梳く。
にっこりと向けられた笑顔はノブナガですら青くなるような物だった。
元が端整な顔立ちなだけに…こういう笑顔は恐ろしく綺麗なのだ。
「な、何か怒ってんのか?」
「気にしないで」
怒っているという事に対しての否定はしない。
つまりは怒っているのだという事だ。
ノブナガは自分の周りだけ気温が下がっているような錯覚すら起こす。
今更ながら、イライラに任せてコウに全てを話したとはまずかったと後悔するノブナガだった。
もっとも、彼は何故コウが怒っているのかを知っているわけではなかったが。
幸いだったのは皆が祝杯の方に意識が向いていてコウの様子に気づかなかった事だろう。
誰か……特にクロロが気づいていればノブナガが問いただされる事は間違いない。
変わりなく皆と缶を空けていくクロロを見て、ノブナガは人知れず息をつくのだった。
夜も更けてきた頃。
コウはケータイ画面を見ながらボタンを押していく。
酔いを醒ましてくる、と言って外へ出たコウは、建物の屋上へやってきていた。
内部同様に酷く草臥れた屋上だったが、特に問題はない。
今すぐに崩れ落ちそうなほどではない事を確かめると、コウは傍にあった瓦礫に腰を降ろした。
もちろん彼女は酔うほど酒を口にしていないし、飲んでもまず酔ったりはしない。
コウの足元から二対の眼が見上げてくる。
それに笑みを返すと、コウは再び画面に視線を戻した。
―――――――
明日朝一でゴンと一緒にデイロード公園までいらっしゃい。
―――――――
短い文面を見直すとそのまま宛名を入れて送信する。
色々と聞きたいことも言いたい事もあるのだが、とりあえず今のコウの心情が伝わるようにあえて短文にした。
普段は割と丁寧な文章を送るだけに、怒っていると言うのは如実に伝わるだろう。
送信完了、と画面に映し出されるとケータイをポケットに仕舞い込む。
そして、星の煌く空を見上げた。
――ピリリリリッ――
ポケットに仕舞い込んでいたケータイが電子音を奏でる。
「クラピカ?」
先ほどクラピカからの電話を切ったばかりなだけに、ゴンが反応を見せた。
クラピカが何か言い残したのか?と思ったらしい。
「こんな時間に誰だろ…」
そう言いながらキルアはケータイを取り出す。
画面を見たままピタリと静止したキルア。
隣でレオリオと話していたゴンが振り向く。
「キルア?」
穴が開くのではないかと言うほど画面を凝視しているキルアに、ゴンが控えめに声をかける。
名前を呼ぶゴンに応えず、キルアはただケータイをゴンに向かって差し出す。
「?……!!」
そこに並んだ文字を見つめるゴン。
そしてそれの意味を知ると、キルア同様ピタリと固まってしまった。
二人の顔色は心なしか………どころではなく誰が見ても蒼い。
残りのレオリオとゼパイルが顔を合わせて首を傾げる。
二人に届いた招待状は果たして天使からか悪魔からか…。
今日は眠れない夜になりそうである。
翌朝―――日の出の頃にはコウはすでに公園の傍までやってきていた。
元々コウの朝は早い。
ルシアとスノウを連れ立って公園の周りを歩く。
朝の冷たい風が心地よく、思わず目を細める。
適当なベンチを見つけるとコウはそこに座って本を取り出した。
彼らがやってくるまでの時間をのんびりと過ごす。
数分後、コウの足元に伏せていたルシアとスノウが首を上げた。
コウの耳にも近づいてくる二つの足音が届く。
開いていたページに栞を挟むと、本に落としていた視線を上げる。
そこにいたのは緊張気味のキルアとゴン。
表情が硬いのは気のせいではないだろう。
「おはよう、キルア、ゴン」
いつもと変わらぬ微笑を浮かべて、コウは二人に手招きした。
「「お、おはよ、コウ」」
見事に二人の声が被る。
一瞬顔を見合わせた後、二人はコウの前へと進んできた。
コウの足元を陣取っていたルシアとスノウが脇へと移動する。
「この男、見覚えがあるわね?」
ピッと一枚の写真を指で挟んで二人に見えるように出す。
そこに写っていたのはノブナガ。
コウにとっては仲間の、二人にとっては今は見たくない顔だろう。
二人の目が揺れた。
そんな反応を見て、コウは全てを知った。
「…はぁ…」
溜め息をつくと、右手をキルアに、左手をゴンへと伸ばす。
ビクリと肩を竦ませる。
「「!!」」
だが、二人に伝わったのは痛みではなくぬくもり。
コウは両腕に二人を抱きしめていた。
突然の…しかも予想外の事に、キルアとゴンは動く事を忘れる。
「怪我がなくてよかった…」
両腕に少しの力を込めて、コウがそう呟く。
その声は、心から心配したと言う彼女の気持ちを伝えていた。
「本当に……旅団がどう言う人たちか知らないわけではないでしょう…」
「…ごめん…」
「…ごめんなさい…」
キルアとゴンが同時にそう言う。
それを聞くと、コウは二人から身体を離した。
それぞれの手は未だにキルアとゴンの頬に添えられたまま。
にっこりと微笑むと、コウは両手を合わせるように力を込める。
――ゴッ!!!――
「「痛っ!!!!」」
二人で頭を強かに打ちつけ、涙目になりながら蹲る。
そんな彼らを見て、コウは足を組んだ。
「自業自得。それで済ませてあげるんだからいいでしょう」
容赦ない、と思いながらも実際にこれくらいで済んでよかったと思う二人は何も言えなかった。
痛む頭を擦りながら二人が顔を上げた頃には、コウはいつもの笑顔を浮かべていた。
「本当に成長したわね、二人とも。旅団に捕まって逃げられた子供なんて多分いないわよ」
そんな言葉を聞けば、今までの事も全て忘れられそうだった。
コウを挟むように両脇に座ると、捕まっていた時の事などを交互に話しだす。
キルアとゴンの止む事のない話を、コウは微笑を浮かべながら聞いていた。
結局、コウが解放されたのは日も昇った昼前だった。
05.02.07
Rewrite 06.03.15