Free  act.42

文句があるわけではないが、気持ちの良いものではないなと思う。

「クローンだから皆じゃないってわかってるんだけど……こうして傷つけるのって憚れるわね」

そう言いながら、コウはクロロを石の壁に殴りつける。
クロロの身体はいとも簡単に吹き飛び、ぶつけた頭から血が流れた。

「まぁな。でも、コウがいてくれて助かった。さすがに自分を攻撃する気にはなれないからな」

コウの背後からクロロが姿を見せた。
先ほどまでのスーツの残骸は脱ぎ、いつもの団長の姿に戻っている。

「そっちは?」
「片付いたって言うか…とりあえず予定通り」
「そっか。オークションの方はもう始まってるみたいね。騒がしくなってるそうよ」

ルシアがクロロに止めの一撃を食らわせているのを見ながら、コウはそう言った。
それを背後のクロロが何とも言えない表情で見つめる。

「…ルシア…俺が嫌いなのか?」

血まみれになる自分を見ながら、クロロがルシアにそう声をかける。
ルシアが返事に一声返すが、彼にはそれが肯定か否定かすらわからない。
是非とも否定である事を祈りたいものだ。

「そんな事はないって。手を抜いたらコミュニティーにばれるから、だそうよ」

コウがクロロの為に通訳を果たす。
ややこしいので、ここで説明を加えるとしよう。
先ほどコウが攻撃したクロロは、コウの念で作り出したクローン。
クローンはクローンだが、精神は入っていない人形のような物だ。
もちろん、身体が傷つけば血も流れる。
本人でないとわかっていても、知人に攻撃するのは中々やりにくい物がある…と言う事だった。
本物のクロロは他の団員のクローンを同じように片付けてコウの所へ戻ってきたらしい。







「はい!私の方も無事完了」

パンッとコートを叩くと、コウはクロロを振り返った。
首筋に流れた銀髪を後ろに払いながら彼に向かって口を開く。

「どうする?オークションの手伝いに行く?」
「いや…必要ないだろう」
「コルトピがいるから私はお呼びじゃないでしょうね。じゃあ、先に上がらせてもらおうかしら」

そう言って、コウはルシアの背に横座りする。
そんな彼女にクロロがどこに行くんだと問いかけた。

「さっきお得意様からメールが入ったの。少し出るわね」
「お得意様?」
「ええ。情報屋の2割くらいはあの家からの依頼だから」

コウが言った言葉はこれ以上無いくらいなヒントだ。
元より勘の鋭いクロロはそれで誰と落ち合うのかがわかったらしい。

「今夜は打ち上げだ」
「あぁ、そう言えばそうね。打ち上げの間には帰るようにするわ」
「そうしてくれ。皆もコウの参加をせがむだろうからな」

クロロの返事を受けると、「それじゃあ」と残してコウはすぐにルシアを走らせる。
彼女の背中が見えなくなるまで見送り、彼も見つからないうちにと足を動かし始めた。
彼が闇夜に消えてから数分後、この場で旅団のメンバーの死体が発見される事となる。
















タカタカと走りながらゴンは悩んでいた事をキルアに告げる。

「キルア…コウに話した方がいいかな?旅団に捕まっちゃったって…」

その手にはケータイが握られている。
彼の言葉にキルアはぎょっと目を見開き、次に取れるのではないかと思うほどの速さで首を振る。

「は、話すなよ!?」
「何で?」
「コウに怒られるだろうが!ただでさえ危ない事はするなって言われたばっかりなのに…ぜってー怒る!」
「……コウって怒るの?」

ゴンが信じられないという風に言った。
ゴンからすれば、コウはいつも優しいお姉さんと言う感じだ。
血の繋がりはないものの、自分達を対等に扱ってくれる存在。
でも言う事ははっきりと言うのでかなり付き合いやすいし、頼りやすかった。
そんなコウが怒るなど……今一想像できない。

「滅多な事がない限り怒らねーけど……怒ったらすっげー恐いぜ。正直、兄貴よりも恐いかも」

キルアが答えた。
流石に付き合いの長い彼はコウを怒らせた事があるらしい。
一体何をして怒らせたんだ?と気にはなったが、ゴンは口を挟まずに続きを聞いていた。

「怒鳴られるのは殆ど怒ってない時。本気で怒ったら………周りの空気が凍るんじゃないかってくらいだからな」
「そ、そんなに恐いんだ…?」

引きつったゴンの言葉に、キルアは大きく頷いた。
それを見てゴンは無言でケータイをポケットに仕舞う。

「ただでさえ危ないことはするなって念を押されてたのに、旅団に捕まったなんて話したら…」

言葉の途中でキルアは口を噤む。
それが、余計にキルアの心情を語っていた。
その怯え様と言ったら……先ほど旅団に捕まっていた時以上の様に思えた。
あの時は生命の危機すら感じたわけだが…。
コウが怒れば、ある意味それ以上に厄介である。

「…黙っておこうね」
「ああ…」

薄暗い夜道に顔色と言うものを落として、キルアとゴンは走った。

















「こんばんは、お得意様」

とある廃屋の屋上。
背後から近づいてきた人物に向かって、コウはそう話しかけた。
隣ではルシアが嬉しそうに尾を振っている。

「早かったね」
「イルミこそ。もっとかかるかと思ってたわ」

待つ準備は万端だったのに、とコウが缶コーヒーを持ち上げて見せる。
ポケットからブラックコーヒーを取り出すと、イルミの方を見ずに放り投げる。
危なげなく受け取ると、イルミはコウの横まで歩いてきた。

「んで、依頼は?今晩会いたいだなんて…よっぽど急いでるの?」
「これ。月末までによろしく」
「月末…?これなら一週間かからないわ」
「別に優先しなくていいよ。全然急ぎじゃないから」

そう言うと、イルミは壁に背中を預ける。
コウは不思議そうな視線を寄越した。

「…何で急ぎじゃないのにわざわざ持ってきたの?忙しいでしょうに…」
「俺が会いたかったから。って言うのは理由にならない?」

イルミの瞳にコウが映る。
その言葉を聞いて、コウは微笑を見せた。

「私も、会えて嬉しいわ」
「元気そうでよかったよ。まぁ、そう簡単に弱らないって事はわかってるけどね」
「小さい頃から鍛えてますから」

クスクスと笑って、コウもイルミに倣うように壁へと背中を預ける。
そうして、未だに煙を上げる夜の街に視線を向ける。
それ以上の会話はなく、冷たくなりつつある風が吹き抜けるだけだった。

05.02.07
Rewrite 06.03.15