Free act.41
「皆本当に派手に暴れてるわね…溜まってたのかしら…」
ガラスに当てた手の平を通じて届く振動に、コウはそう呟いた。
広がる夜景の其処此処で爆発が起こる。
「コウ、行くぞ」
「はーい」
間延びした返事を返すと、すでにドア付近で待つクロロの傍まで歩いた。
途中、呆気ないほど簡単に敗北した男の亡骸を横目で捕らえ、彼女は口を開く。
「暗殺チームだけど…あんな弱い奴ばかりじゃない」
「コウが言うほどの奴が来てるのか」
「そう言う事。で、私はどうする?」
「皆に競売会場に行くように伝えてくれ。後は…適当にしていていいぞ」
「そうなの?」
コウが数歩後ろを歩くクロロを振り返る。
そんな彼女に、彼は真剣な目を向けて問いかけた。
「…嫌だろ?」
「?」
「ゾルディックと戦うからな」
「あぁ…そうね」
クロロの言いたい事がわかって、コウは素直に頷いた。
そして、彼のささやかな計らいに感謝して微笑む。
「ありがとう」
お礼を言いながら微笑むと、コウはルシアに跨った。
「殺られないでね?」
「もちろん」
クロロが口の端をあげて答えると、コウは満足そうに笑ってルシアを走らせる。
数秒と経たずにコウはその場から姿を消した。
「やれやれ…殺られたらコウに怒鳴られるな」
そう呟くと、クロロはと広いホールに足を踏み入れる。
「うん。皆順調にこっちに向かってるわね」
ルシアの聴覚を頼りに、コウは団員の位置を把握していた。
玄関ホールで仲間の到着を待ちながら、ケータイを弄る。
「コウ!」
「あ、シャルお疲れ様」
ルシアの上に横座りしながらコウが振り向いた。
「全然疲れてないけどね」
「あはは。当然よ。あれ?パクは?」
「先に会場に行ってるよ。俺もそろそろ行くけど…コウは?」
「…そろそろ終わる頃だと思うし、クロロを迎えに行くわ。先に準備しておいて」
「わかった」
シャルが去ったのを見て、コウはルシアにクロロの場所へ運ぶように頼んだ。
丁度扉に触れようとした時、異様なほど大きな力を感じた。
それを露骨に感じ取ったスノウがコウの肩で毛を逆立てる。
スノウを宥めつつ、コウは扉を押し開けた。
「丁度終わった所ですか…」
酷く崩れ落ちたホールに苦笑を漏らしつつ、コウが中の三人に声をかける。
「やはりコウもおったか」
「はい。お久しぶりです、シルバさんにゼノさん」
戦闘の所為でボロボロになったゼノがコウに答える。
ゼノの後ろから、同じくボロボロになったクロロが瓦礫を退けて出てきた。
「……派手にやったわね」
「全くだ」
そんな事を言いながらも、無事なクロロを見てコウは嬉しそうに微笑んだ。
「コウ」
「あ、はい!」
シルバに呼ばれると、コウは返事を返して彼の傍に寄る。
そうすると、シルバから無線機を渡された。
「?」
「イルミだ」
「わかりました。お借りします」
そう頷いて無線機を受け取ると、イヤホンを耳に当てる。
向こうから聞こえてきたのは、少しばかりいつもの声とは違ったそれだった。
それでも、本質的なところは変わらない。
「イルミ?」
『久しぶり。二週間ぶり?』
「久しぶり。そっか…私の方が仕事で離れてたからね。二週間ぶり」
『用件だけど。ある奴の情報が欲しいんだよね。暇ある?』
「暇なら作るから大丈夫。人物にもよるけど…」
『よかった。じゃあ、詳しい事は後からメールで送っておくよ』
「了解です。イルミの方は仕事完了?」
『うん』
「お疲れ様。あ、シルバさんの無線機だし…もう終わりね。メールよろしく」
無線機が切れると、イヤホンを外す。
そして、それをシルバに返した。
「ありがとうございました。仕事の話だったみたいです」
そう言うと、シルバは納得したように頷いた。
「怪我はするなよ」
「くすくす…もう子供じゃないですよ、シルバさん」
まるで幼子の様な扱いだが、コウは嬉しそうに微笑んだ。
シルバは自分よりも色素の薄いコウの髪を撫でると、そのまま扉へと向かう。
「シルバさんもゼノさんもお元気で!私、しばらく帰れませんから。また連絡します」
去っていく二人の背中に、コウはそう声をかけた。
了承とばかりに頷く二人。
そして、開かれた扉から出て行った。
彼らが消えた途端、クロロが床に横になった。
そんな彼を見ながらコウはクスクスと笑う。
いつもの団長の服装でない所為か、彼の表情はどこか幼く少年のように見えた。
「お疲れ様。ボロボロね」
「ああ…疲れた…」
「あの二人から盗もうなんて、甘いわよ。クロロより遥かに機会の多い私が出来てないんだもの」
「…だな」
「シャルとパクはもう会場入りしてるわよ。後何人か入ってると思うわ」
クロロの隣に立つと、コウはそう説明をつけた。
視線だけがコウを捉える。
コウはその視線を受けつつ、具現化した鏡から指輪を取り出した。
自分の瞳と同じ色の指輪を細い指に通し、クロロの傷口に手をかざす。
「“癒風”」
短く唱えれば、クロロを風が包む。
風が治まった頃にはクロロの傷は癒えていた。
「ありがとう。その念は便利だな」
「欲しい?私も複製した能力だから…出来るかしら?」
「また時間のある時に試すか」
それに頷くと、コウはルシアを傍に呼ぶ。
ルシアは崩れた瓦礫の傍にいたが、すぐにコウの元へと駆け寄ってきた。
「コウは行かないのか?」
「時間になれば適当に始めるでしょう。私はクロロを迎えに来たのよ」
「そうか。ご苦労さん」
そう返事すると、クロロは反動をつけずに身体を起こした。
どういたしまして、と返しつつコウも彼に倣って腰を上げる。
「行くぞ」
「お供いたしますわ、団長」
ふざけた様に口元に笑みを乗せて、コウはクロロに続く。
05.02.07
Rewrite 06.03.15