Free act.39
翌日、コウはクロロと一緒にヨークシンの街を歩いていた。
クロロの方もコウの願いによって今は“団長”の姿ではなくクロロの姿である。
コウ曰く「あんな目立つ格好で一緒に買い物はしたくない」そうだ。
彼女も本業柄あまり人目につくような行動は避けたい方なのだ。
もっとも、コウとクロロの二人が揃えば歩くだけで視線を集めてしまうと言うのも事実だが。
「コウ、参加証の方はどうなった?」
「そっちの手配は完了してるよ。今ダークが取りに行ってくれてるからその内届くはずよ」
コウは空を仰ぎながらそう答えた。
「それで?これから何の準備をするの?」
「オークションに参加する準備」
「んー…じゃあ、服の準備ね。値札競売市には正式なのは置いてないから向こうの通りに出ましょう」
周囲を歩く人の山を見ながら、コウは向こうの通りを指しつつ言った。
クロロもコウの指す先を見て頷く。
その時、前方から歩いてきた男がコウの肩にぶつかって行った。
クロロは持ち前の反射神経でコウの肩を支えて一歩下がらせる。
「ぼけっと突っ立ってんじゃねぇよ!」
男は怒鳴ったが、クロロが睨むと息を呑んだ。
「失せろ」
この一言で、顔色悪くさっさと退散していく男。
大きな図体を必死で動かして逃げる姿に、コウは哀れみを覚えた。
「怪我はないか?」
「大丈夫よ。ありがとう」
「何で避けなかった?コウなら余裕で避けれただろう?」
クロロがコウを放しながらそう問う。
コウは困ったように微笑みながら、少し前方を歩く少女を指さした。
「あの子が丁度私の隣にいたのよ。私が避けたらあの子が男にぶつかったでしょうから…」
「…コウらしいな」
「褒め言葉をありがとう」
にっこりと微笑むと、コウは向こうの通りへ出る為に足を動かした。
市場の一角に見慣れた銀髪を見つけて、コウの視線が止まった。
「どうかしたか?」
コウが動きすらも止めた為に、クロロが問いかける。
「ちょっとだけ離れてもいい?」
「ああ、構わない。あの店に入るから、5分で来い」
「了解」
答えると同時に、コウは走り出した。
その背中が見えなくなると、クロロは先ほど指した店へと足を運ぶ。
「キルア」
「!コウ!?」
急に声をかけて驚いたのか、見知った人物だったために驚いたのか。
どちらとも取れる表情でキルアが振り返る。
だが、その表情は嬉しそうだった。
そのままコウの元へ走り寄ろうとしたが―――――
「こらこら。商品を持って行かんでくれよっ」
「あ、ごめん」
手に持ったままの商品を持って来ようとしたために店の人に止められた。
キルアの様子から盗もうとしたとは見られなかったようだが。
札に希望価格を書き込むと、それを元の場所に置いてコウの元へ駆けて来た。
「クスクス…」
「笑うなってっ」
「ごめ…っ…だって…キルア面白すぎるわ…。自分の持っているものを忘れて走ってくるんだもの」
「仕方ねぇじゃん…」
脹れてしまったキルアに、コウは微笑みかけた。
「こんな所で会えるとは思ってなかったわ。ゴンは?」
「ゴンもこの辺回ってるよ。お互い分かれてお宝探し」
「資金稼ぎ?」
「そう言う事!コウは何でここに?また仕事?」
「今日は違うわ。仲間と買い物に来たのよ。向こうの店で待ってくれてるわ」
「仲間…って仕事仲間?」
「…そんな感じね」
曖昧に言葉を濁したが、キルアは何とも思わなかったようだ。
と、キルアが時計を見た。
「そろそろゴンに確認を入れないとな」
「じゃあ、私も待たせてるし…」
「そっか。また連絡してもいい?」
「大歓迎よ」
そう言うと、キルアの頭を撫でた。
キルアは照れくさそうにしながらもそれを振り払おうとはしない。
「キルアが楽しそうだから嬉しいわ。でも…危ない事はしちゃ駄目よ」
「姉貴…」
「ゴンによろしくね」
そうして、コウはキルアの元を離れた。
クロロを待たせている店へと足を急がせる。
「あ、ノブナガにマチ」
「…どこだ?」
とある喫茶店の中で、コウがそう呟いた。
耳ざとくそれを聞いていたクロロがガラスの外を行く人々に視線を向ける。
「裏の路地を南から北へ移動中。行く?」
コウがカップに口をつけながらそう答える。
見えているわけではないとわかったクロロは探すのをやめて視線をコウに戻した。
「いや…あいつらには二重尾行させてるからな」
「んー……ああ、フィンクスとパクノダね」
目を閉じて数秒だけ集中すると、コウはそう言った。
クロロが驚いたように目を見開く。
「わかるわよ?まぁ、“絶”が上手いからスノウの力を借りたけど」
言いながら、コウはカップに視線を落とした。
気配を察知した事で、コウは気づいたのだ。
ノブナガとマチを追っているのがキルアとゴンだと言う事を。
「(危ない事はするなって言ったのに……。)」
コウの心の声が二人に届くことはない。
「他に寄る場所はあるか?」
クロロが声をかけると、コウははっとしたように顔を上げた。
「あ…本屋行きたい」
「…いいけど……俺の読んだ本でいいなら大量にアジトにあるぞ?」
「貸してくれるの?」
そう聞けば、クロロは当たり前だと言う風に頷いた。
「じゃあ、いいわ」
「だが、本屋に寄るか」
「何か用事?」
「俺の読む本がない」
「……そう言えばこの間10冊読み終わってたわね。じゃあ、行きましょうか」
隣の椅子に置いてあったポーチを持つと、コウは席を立つ。
そして先に出口で待っているクロロの元へと急いだ。
05.01.25
Rewrite 06.03.10