Free act.38
「へぇー…レオリオって中々頭が切れるのね」
窓枠に腰掛けて、コウがそう言う。
画面に映っているメール。
「でも…折角のヒントは答えまで結びつかなかったみたいね」
困ったような笑みを浮かべる。
先ほどシャワーを終えたばかりなので、未だに銀糸の様な髪からは透明の雫が落ちる。
首にかけたタオルでそれを拭うと、窓枠を下りた。
丁度その時、ホテルのドアのベル音が室内に響く。
「はい?」
『俺だ』
マイクを通して、聞きなれた声がコウの耳に届く。
「(どうやっても名乗らないのよねー…。)」
そう思いながら、ルシアにドアを開けてくれるように頼んだ。
そして、自分は隣の部屋へと入る。
理由は客を迎えるには少々問題ありの服装だったからである。
「さすがにTシャツ一枚で迎えるわけにはいかないわよね」
本人は特に気にしないのだが。
迎えられた側としては非常に困る部分があるだろう。
「目の保養にはいいと思うけど…ね」
性質の悪い確信犯だ。
「手土産だ」
「ありがとう」
すでにソファーで寛いでいたクロロからワインを受け取る。
それの栓を開けながら、コウはグラスを用意する。
二つのグラスをテーブルに置いて両方にワインを注ぐと、コウも向かいのソファーに座った。
片方をクロロに勧めながら、問う。
「ウボーは?」
「夜明けまでに戻らなければ予定変更だ」
ワインを喉に通して、クロロが答えた。
その返事が意味するところを知るのは簡単だ。
「…まだ帰らないのね」
「ああ」
「そっか…」
グラスの中の液体を揺らしながら、コウが夜景へと目をやった。
ネオンや電灯が夜空の星を隠してしまっている。
「これからどうするつもり?」
「戻らなければ、2人組で鎖野郎を探させるか…。あまり時間を掛けずに短期戦で終わらせたいからな」
コウの横に座りこんだルシアの毛を指に絡めつつ、コウがクロロに視線を戻す。
クロロはワインを揺するだけでコウの方は見ていなかった。
「…勧誘するつもり?」
「さぁな」
短い返答に、コウは視線を落として考え込む。
「それで…私はどうするの?」
「ノストラード組の娘の情報が欲しい。それから…準備も要るな」
「……要するに、クロロに着いて行けばいいのね」
「そう言うことだ」
「了解。ノストラード組の娘の情報ならここにあるわ」
そう答えて、コウは数枚に及ぶ紙を取り出す。
それをクロロに渡すとワインを口に運んだ。
「なるほどな」
「アイツがそこまで上り詰めたのはほぼ娘の念能力のおかげね。どう言う能力かまではまだわからないけど…調べる?」
「いや。直接見に行く」
「なるほど…それの準備ね」
コウがそう言うと、クロロは頷いた。
先ほどの準備はどうやらノストラード組の娘…ネオンとの接触の準備らしい。
「それでだけど…」
――ピリリリリッ――
コウの声を遮るように、机に置いてあったケータイが電子音を奏でる。
クロロが促がした事から、コウもそれを取りに立ち上がる。
「ごめん。着信だから話してくる」
「ああ、気にするな」
そう言うと、コウは隣の部屋へと歩いていった。
「もしもし」
『ゼノじゃ』
「お久しぶりです。仕事ですか?」
相手がゼノとわかると、コウは笑みすら浮かべて話を続ける。
『実は依頼があっての。丁度ヨークシンに居るんじゃろ?』
「はい。誰からです?」
『十老頭じゃ』
「……………蜘蛛ですか」
『話が早いの。まぁ、ぬしがつるんでおるのは承知じゃ。無理にとは言わん』
「じゃあ、お断りします」
『…そう言うと思っておったがの…』
「すみません…こっちも仕事が溢れてますし…。彼らを相手にするのも面倒ですので」
苦笑交じりにそう言えば、電話口の向こうからも笑い声が返って来る。
「――はい。では」
二・三話して、コウは電話を切る。
溜め息を一つ漏らすと、ケータイを閉じる。
見上げてくるルシアを撫でると、コウはクロロの待つ部屋へと歩き出した。
コウが部屋に戻ると、クロロは読書に勤しんでいたようだ。
彼女に気づくと、ページを捲る指を止めて本を閉じる。
「―――で、さっきは何を言おうとしたんだ?」
「え……ああ、オークションの参加証が必要でしょうって話をしようと思ったんだけど…」
「“だけど”?」
「何も聞かないの?電話の話…」
コウがそう聞くと、クロロは口に笑みを浮かべた。
「聞かないよ。必要ならコウから話すだろう?もっとも、予測が立っていないと言えば嘘になるか」
いとも簡単にそう言ってのけたクロロに、コウは呆気に取られた。
そして、笑顔を見せる。
「ありがとう。何も聞かないで信頼してくれて」
「…どういたしまして」
そして、二人は明日の予定の確認を始める。
夜明けを迎えても蜘蛛の一人が戻ってくることはなかった。
05.01.17
Rewrite 06.03.06