Free act.37
廃墟と言うこともあって音が酷く反響する。
それが気に入らなかったコウはケータイをマナーモードへと変えていた。
カタカタとキーボードを叩いていた彼女のポケットの中でそれが震える。
キリのいいところまで打ち込み終えると、彼女はポケットからそれを取り出した。
「梟確保だって」
「そうか」
コウがケータイの画面を見ながらそう言った。
本に視線を落としたまま、クロロが答える。
そんな彼の返事を気にした様子もなくコウはメールをスクロールしていく。
そして、自身も目を疑うような内容の一文を見つけてしまった。
「…それから…」
「………どうかしたのか?」
彼女の様子に異変を感じたのか、クロロが漸く顔を持ち上げる。
それに伴ってメンバーも視線を彼女へと集めた。
「……ウボーが攫われた…みたい」
躊躇いがちに紡がれた言葉は、アジトにいた全員を黙らせるには十分すぎた。
クロロがシャルと連絡を取り、その詳細を確かめる。
わかった事といえば、一瞬のうちに彼の身体を鎖が絡めとったこと。
そして陰獣とは別に行動していて、かつ単独ではなく複数であると言うこと。
「大した念使いね」
「ああ。ウボーが大人しくしているとは思えないからな…あいつの馬鹿力を封じるだけの念と言うことか…」
クロロとコウ、どちらもそれを瞬時に理解したらしい。
僅かながら遅れをとったが、他のメンバーもその事実に気づいていた。
「コウ、シャルたちと合流してウボー助けに行ってくれ」
少しばかり悩むように顎に手をやった後、彼はコウに向かってそう告げる。
もちろんコウがそれを嫌がるはずもなく、彼女は二つ返事でそれを了承した。
「スノウ、ルシアを呼んで」
肩に乗ったままのスノウに言う。
了解の声を上げると、コウの肩を飛び降りてアジトの外へ走り去った。
その時、スノウの口に鏡が咥えられていたのに気づいたのはクロロ一人。
数分後再びアジトに戻ってきたスノウは、機嫌良さ気にルシアの上で尾を振っていた。
「コウ!こっち」
ひらひらと腕を揺らすシャルナークを見つけ、ルシアはコウに指示されるよりも早くそちらに向かう。
彼女を乗せたルシアは彼らが集まっている所までやってくると彼女が降りやすいようにと身体を折った。
「メールの内容はわかってくれてるよね」
「ええ。一瞬冗談かと思ったわ」
「俺たちもまさかウボーが攫われるとは思わなかったよ」
シャルの言葉に一同が頷く。
確かに蜘蛛の中でも一際ガタイがいいし、何より彼は常人離れした力の持ち主だ。
彼を攫うとなるとまず彼を確保する物から用意しなければならないのだから…相当だろう。
「さて…どうやって助けようか」
「あ、それなら楽な方法があるわ」
救出メンバーが集まった時、コウが意見を出した。
一同の視線が彼女に集まり言葉の続きを促す。
「競売を襲った賊だから、コミュニティーに差し出せば結構な礼金が貰える事になってるわ。
上に胡麻を擂っておく絶好のチャンスだし…まず、間違いはないわね」
「そっか。コミュニティーの代わりにお邪魔すればいいわけだ」
「そう言うこと」
「でも…どうやってその情報を得るか…」
――ピピピピッ――
シャルの声を遮るように、ケータイが電子音を奏でる。
着信中のケータイを手に持つと、コウは不敵な笑みを浮かべた。
「ここに来るまでの間に少し回線を操作してコミュニティーの電話を盗聴出来るようにしておいたの。
因みに着信お知らせ機能付き」
追記するなら、このケータイ。
殆どコウの自作のケータイと言っても過言ではない。
市販の物を使いやすいように中を改造してあるので、名残があるのはその外見だけである。
ピッとボタンを押すと、会話中の音声がそこから聞こえてきた。
すぐさまハンズフリーへと切り替えて全員が内容を聞けるようにしておく。
『こちらはノストラード組のダルツォルネだ。競売を襲った賊の一人を捕まえたのでお渡ししたい』
『本当か!?』
「ほら、ね」
ニッとその口角を持ち上げてコウは笑う。
面白いほどに、彼女の読み通りに事が進んでいる。
「シャル、パス」
「え?」
未だ会話を拾うケータイをシャルに投げ渡すと、コウはルシアにもたれてパソコンを操作する。
画面にノストラード組の情報を出した。
そうしている間に、電話は終わったらしい。
「あ、場所を聞いてなかったけど…皆は聞いてた?」
「バッチリ」
「じゃあ、行きましょうか」
ビル前でコミュニティーの使いの服を頂戴すると、メンバー全員がそれを着込む。
コウがにこりと笑い、それに見惚れた瞬間には地面に伏していると言う何とも情けない状況だった。
こんなに弱くて大丈夫なのだろうかと、その場に居た全員の心の声は重なる。
「…フィンクス…あなた絶対その方が似合ってるわ」
「そ、そうか?」
普段帽子…のような被り物のようなものを被っている為に、それを取るとかなり印象が変わる。
コウの真面目な一言に、フィンクスは僅かながらもその頬を染めた。
そんな彼を見つつ、全員に視線を巡らせる。
ノブナガもちょんまげを下ろしている為に、一見すると誰だかわからない。
そんな感じでそれぞれがコミュニティーらしい服装に着替え、準備は整った。
かく言うコウは、スーツを着込んだだけである。
元がかなりの美人なだけに、その服装も相当似合っていた。
「ん?どうしたの、ルシア」
不意に、服の裾を引いたルシアに視線を向ける。
コウの作り出した念ゆえに、考えを読み取る事は朝飯前。
そして、それは他の誰にも理解できない。
「……(クラピカの匂い…?)」
ルシアがそう教えてくれた。
コウはクラピカの目的も、彼がクルタ族であることも知っている。
「(そう言えば娘が人体収集家…。緋の眼も今回のオークションに出品されてたわね。)」
「…コウー。行くよ?」
「あ、ごめん」
考え込んでいたコウに、シズクが控えめに声をかけた。
それに返事を返すと、エレベーターへ向かう。
「ルシアがどうかしたの?」
「別に?確かにここにウボーの匂いがするって教えてくれたの。地下で間違いないわ」
笑みを浮かべてそう返す。
誰も、コウの言う事を疑いはしなかった。
「(……もう少し様子を見ましょう。)」
エレベーター独特の浮遊感を感じながら、コウは目を閉じた。
フィンクスが部屋まで案内してくれたところでその男を殺し、ウボー救出はあっけなく幕を閉じる。
しかし、それで終了と行かなかったのは彼のプライドだ。
「コウ!鎖野郎の居場所がそいつならわかるだろ!?」
ウボーが怒鳴る。
その声の大きさに苦笑を浮かべつつ、コウは首を横に振った。
「居場所って言っても…ルシアは鎖野郎を知らないから無理よ。どの匂いがそいつの物かわからないでしょ」
ウボーの声に耳を伏せるルシアを撫でつつ、コウが答えた。
もっとも、その鎖野郎の容姿的特長から判断するに、それがクラピカだと言う検討は付いているが。
「もう、戻るぜ。目的は達したし」
「陰獣は始末したし、お宝も手に入れたしね」
シャルとマチがそう言うが、ウボーは耳を貸さなかった。
そして、一人その鎖野郎を追うと言う。
「私は戻るよ。クロロにもすぐに戻るように言われてるし」
「私も。シャルはどうする?」
「仕方ないからウボーに付き合うよ。居場所の特定までだけど」
溜め息交じりにそう言うシャルを見送って、コウはビルを抜けた。
「コウはすぐに帰る?」
「ごめん。ちょっと仕事を済ませてから行くよ」
「了解。団長は知ってる?」
「一応、言っては来てあるから大丈夫」
「じゃあ、ここでね」
マチがそう言って闇へと姿を消した。
その背中を見送ると、コウはルシアに跨る。
そして、依頼主の場所へ向かうべく、同じく闇へと姿を消した。
05.01.09
Rewrite 06.03.06