Free  act.36

「お待たせ。っと、電話中?」

コウがアジトへと戻ってきた。
ケータイを口元に近づけているクロロを見て、コウは近くにいたパクノダにそう聞いた。

「そうね。ウボーからみたいよ。何でも、競売の品物がないとか…」
「品物が…?」

怪訝そうに眉を寄せると、コウはパソコンを取り出した。
ルシアの上に横座りして膝の上でキーを叩く。

「コウ」
「ん?」

不意に、クロロがケータイを口元から離してコウを呼ぶ。

「“陰獣”の梟、調べてくれ」
「任せて」

再び視線を落すと、次々に画面を切り替えていく。
記号の羅列を読み取り、キーワードを打ち込んでいった。
その間にも、クロロはウボーと話を進める。
コウは数分もしないうちに、数枚にわたる情報を取り出した。
それをプリントアウトすると、丁度電話を終えたクロロに手渡す。

「“陰獣”出動要請が出てるわよ」

コウが画面に映し出された文章を読み取る。

「好都合だな。適当に暴れるように言っておいた。向こうから現れてくれれば手間が省けるだろう」
「…ウボー辺りが喜びそうね。ね、梟だけでも生け捕りに出来ない?」
「何故だ?」
「面白そうな念能力だから」
「………まぁ、品物の場所も聞く必要があるからな」
「ありがと。他にも色んな念能力を持ってるみたいだけど……使えそうにないね」

クロロの見る陰獣の情報を横から見つつ、コウはそう言った。
それに納得したのか、クロロが頷く。

「シャルナークにメールを送っておいてくれ」
「了解。『陰獣の梟は生け捕りで』これでいい?」
「ああ」

それを聞くと、コウは自分のケータイに先ほどの文字を打ち込んでいく。

「送信完了。さて…これから何するの?」
「待機」

そう言って本のページを捲るクロロ。
コウは溜め息をつくと、情報屋の仕事を始めた。





――ピリリリリッ――

「あ、シャルからだ」

前足の上に顎を乗せていたルシアが首をもたげる。

「はい。どうしたの?」
『コウ?あのメールの事だけど』
「あぁ、そっちはどう?そろそろ陰獣が到着する頃だと思うんだけど」
『まだ着てないんだよね。いるのは雑魚の団体さんばっかり』
「そう。陰獣の出動要請が出てるからそのうちに行くと思うわ」
『わかった。じゃあ、その梟って奴だけ生け捕りにすればいいんだ?』
「ええ、残りは好きにして」
『…目当ての奴らの到着みたいだよ。ところで、梟の容姿はわかる?』
「黒髪の大柄の男。サングラスをかけてる事が多いみたいね。念能力は…風呂敷を使う。コレくらいかな」
『………いないね。全部で四人だけど…。ま、ウボーが全員始末すると思うよ』
「くれぐれも梟だけは殺さないで。品物の在り処も聞き出したいから。あ、スノウは近くにいる?」
『うん。肩の上にいるよ。コウの声が聞こえてるみたいだね』
「そう。じゃあ、ちょっとこっちに呼ぶから…代わりにルシアを送るわ」

そう言うと、コウはケータイを口元から離す。

「ルシア、スノウと代わってくれる?」

ルシアから下りると、そう声をかける。
了解とばかりに頷くルシアを見て、コウは再びケータイを近づけた。

「あ、シャル?ルシアとスノウが代わるから、スノウを肩から…『うぎゃあっ!!』」

スノウを下ろした方がいい、と言おうと思ったのだが…若干遅かったようだ。
先ほどまでルシアがいた位置には、スノウが行儀よく座って尾を振っている。
ルシアはコウが乗れるくらいの大型の狼である。
逆に、スノウはコウの肩に乗れるほど小さな狼。
この二匹が入れ替わればスノウを肩に乗せていたシャルが潰されるのも無理はない。
ケータイの向こうで「大丈夫かー?」とシャルを気遣う声が小さく聞こえる。
それに、コウは苦笑を浮かべていた。
ルシアと入れ替わったスノウは、瓦礫を利用してコウの肩に飛び乗る。

「大丈夫?」
『……何とか』

潰されたものの、とりあえず大事には至っていないようだ。














それから少しの間話を続けると、コウはケータイを切った。
そして彼女は本を読み続けているクロロに視線を向ける。

「陰獣と接触。今はウボーが暴れてるみたいよ」
「そうか。梟は?」
「いないって。後で来るんでしょ。梟だけを気にしておいてもらったわ」

先ほどの電話を簡単に説明する。
クロロは本から眼を離さずに頷いた。
他の人ならば本当に聞いているのかと疑いたくなる所だが、彼に限ってその心配は無用だろう。

「コウ、どうしてシャルのところにルシアを送ったの?」
「まぁ…保険かな。スノウとルシアは繋がってるからね。だから、時々こうやって単独行動させるの」
「そうだったの。だから入れ替わる事ができるのね」

パクノダがスノウに視線を送りつつそう言う。
その言葉に、コウは微笑を返した。

「あっと、忘れてた」

思い出したように、ヒソカが立ち上がる。
コウも釣られてヒソカへ目を向けた。

「今日、人と会う約束をしてたんだ。行ってくるよ?」
「ああ、構わない。明日の午後6時までに戻ればな」

クロロはそう答えながらも視線は本へと落としていた。
そして、口元を緩めつつ言う。

「………悪企みか?ヒソカ」
「もちろん」

そう言うと、ヒソカがアジトを出て行った。
彼の背を見送っていたコウだが、思い出したようにその腰を上げる。

「……ちょっと席を外すね」
「どこに行くんだ?」

先ほどは顔を上げなかったクロロが、コウを視界に捉えた。
コウは口元に笑みを浮かべて答える。

「ヒソカに話があるの。すぐに戻るわ」

そう言うと、コウはスノウを肩に乗せたままヒソカを追ってアジトを抜けた。

「…団長、行かせて大丈夫なの?」

相手はヒソカだし…とパクノダが心配げな声を上げる。
だがクロロは黙って首を振った。

「コウなら大丈夫だろう。…まぁ、ヒソカにも気に入られているしな」

先程よりもペースはかなり落ちているが、クロロはその本を読み進めた。














「ヒソカ!」
「…コウ?」

コウの声を聞くと、ヒソカは足を止めて彼女を振り返った。

「どうしたんだい」
「ヒソカに聞きたい事があったの」
「聞きたい事…?」

ヒソカがコウの言葉を繰り返して目を細める。

「背中の蜘蛛は本物?」

その問いかけに、ヒソカは三日月形に細めた目でコウを見る。

「何故だい?」
「…スノウが教えてくれたから」

肩のスノウを撫でつつ、コウはそう言った。
スノウは念に長けている。
故に、ヒソカの背中から僅かな念を感じ取ったのである。

「なるほど。便利だね、その子は」
「否定しないのね」
「うん。否定しても、君とその子は誤魔化せないだろう?」
「……目的はクロロと戦う事?」
「相変わらず、大した洞察力だ。惚れ直したよ」
「…それはどうも」

若干嫌そうな声色だったが、それを微塵も表情には出さなかった。
ククッと喉で笑うヒソカに眉を顰めるコウ。
そんなコウを見届けると、ヒソカはコウに背を向けて足を動かした。

「口止めしないのね」
「君は団長には言わないだろう?」
「変な所で信用されてもねぇ…」
「コウの事は全面的に信用してるよ」
「……もういいわ。蜘蛛に害さえなければ」

溜め息をつくと、くるりと踵を返す。
そして「悪企みも程ほどにね」というとコウはアジトの中へと戻っていった。

「僕の興味は団長だけに限らないんだけどね」

そう呟くヒソカの眼には、コウの背が映っていた。

Rewrite 06.03.01