Free  act.35

「キルアもゴンも念を覚えたのね。お疲れ様」

テーブルに付いた両手の上に顎を乗せて、コウはにっこりと微笑んだ。
久しぶりの再会は、彼ら二人の今までを聞くことですでに数時間が経過している。
市場の脇のとある喫茶店。
コウとキルアとゴンが三人で窓際の席に着いていた。
再会の時に一緒だったレオリオはと言うと……買い物のために別行動。

「コウは何してたの?」
「私?私はー……仕事ばっかりね」
「もう、コウは念を覚えてるんだよな?」
「当然でしょ」

キルアの言葉に、笑みを浮かべたまま答える。
聞くまでもないことだった。

「…凄く、綺麗なオーラ…」

ゴンがそう言うと、キルアも頷く。
淀みないオーラなだけではなく、自分を優しく包むような。
そんなコウのオーラを、二人は本能で感じ取っていた。

「(ホント…優秀な子達ね…。教えられたわけではないでしょうに。
これで念を覚えて………どれ位強くなるのかしらね。)」

コウは、二人の成長を心から喜んでいた。

「…ところでコウ」
「何?」
「グリードアイランドの事なんだけどさ…」
「ああ、あれね。どうなったの?」

キルアがそう話を始めた。
コウもキルアからそれの電話を受けていた事を思い出して、話を聞く体勢に入る。

「それがさー……何かめちゃくちゃ高いだろ?あれ」
「まぁ、当然よね。数が半端なく少ないから…」

苦笑を漏らすコウ。
もちろん、そのめちゃくちゃ高い値段を知っているからなのだが。

「コウでも…やっぱり手にはいんない?」
「……………私に手に入れて欲しい?」

手に入らないことはない。
旅団がオークションの金品全部を狙っている事は知っているのだから。
少しクロロに頼めば、簡単に複製できるだろう。
例え念能力者が集結して作り出したモノとは言え、コウの手にかかれば複製も困難ではない。
実物さえあれば、コウは念能力すらも複製できるのだから。

「キルアー…やっぱり自分で手に入れようよぉ…」
「わかってるよ!俺だってその方がいいけど…オークションになれば、値段が跳ね上がるんだぜ?」

二人のやり取りを、コウは目を細めて見ていた。

「(本当に仲がいいわね…。こんな表情のキルアは久しぶり。)」

小さい頃からキルアを見ているコウにとって、キルアの明るい表情は何より嬉しい事だった。
幼い頃に失った弟をキルアに重ねなかったか、と問われればそれは否だろう。
幾度となく、その存在をキルアに重ね見た。
今ではそんな事はないが…。
それでも、笑っているキルアを見る方が嬉しいに決まっている。

「やっぱ、どう考えても金だよなぁ…問題は」
「そうだねー…」

クスクスと、コウは笑い声を漏らす。
頭を捻る二人の様子が、本当に微笑ましかったから。

「仕方ないわね。どうしても煮詰まったら私にメールしてきて。ヒントをあげる」
「ホント!?」
「ええ。グリードアイランドが欲しいわけじゃなくて、ゲームが出来ればいいんでしょう?」
「そう…だけど」

キルアがわからないと言った風な表情を見せる。

「今日のヒントはここまで。後はー…頭を捻って」

にっこりとそう言う。
そして、コウはカタンッと椅子を動かして席を立とうとした。

「え…もう帰るの?」
「もうちょっといいじゃん」

それぞれに表情を変える二人に笑顔を返すと、コウは口を開いた。

「もう少し一緒にいたいけど…。時間でしょ?」

壁にかかった時計を指さすと、すでにレオリオとの約束の時間は目の前だった。
渋々ながらも立ち上がる二人。

「あ、ゴン。ケータイ買ったのよね?」
「うん。さっきね」
「じゃあ、私のアドレスはまだ持ってる?名刺に載せてあったはずだけど…」
「えーっと………」
「コウ、コイツくじら島に忘れてきたんだよ」

言葉を詰まらせたゴンに、キルアが横から答えた。
彼の言葉に続いて「ごめん」と頭を下げるゴン。

「別にいいのよ、ゴン。じゃあ、キルアに聞いて………やっぱり今もう一度書くわ」

鞄から手帳を取り出すと、コウはその一枚を切り取ってサラサラと書き込んでいく。
そして、それをゴンに手渡した。
キルアから聞けと言わなかったのは……。
人伝に聞くよりも本人から教えてもらった方が嬉しいだろうと言うコウの優しさである。

「ありがとう!」
「どういたしまして。今夜あたりにでもメールしてくれる?間違ってたらキルアに聞いて」
「うん!」

嬉しそうにアドレスを仕舞うゴンに、コウも微笑んだ。
そして、レジで三人分の勘定を済ませて外へと出る。

「姉貴!俺らも払うって!」
「そうだよ!」

外に出るなりそう言ってきたキルアとゴン。

「いいの。今日は会えて嬉しかったから…そのお礼」
「「でも…」」
「じゃあ、また一緒にお茶しましょう。その時にご馳走になるわ。それでいい?」

コウの提案に、一も二もなく頷く。
彼らの背中を見送ると、コウも人ごみへと姿を消した。

















――ピリリリリッ――

人気のない路地に抜けた所で、コウのケータイが電子音を奏でる。

「はい」
『そろそろ時間だ。戻れるか?』
「ええ、今から戻るわ。他の皆は?」
『今出発した。時間通りに会場に着くだろう』
「そ。じゃあ、私はアジトに帰るわ」

そう答えた時、背後に人の気配を感じる。
溜め息をつきつつ、振り向いた。

「スフィリア家の者だな。その琥珀色のペンダントはスフィリア家に伝わる世界に一つの宝石」
「はぁ…」

手に念を纏うと、そこに鋭利なナイフを作り出した。
暮れかけた夕日を反射させるナイフが光る。






『問題事か?』
「いいえ?何も問題ないわ。じゃあ、そっちに戻るわね」
『ああ、出来るだけ早くな』

ケータイを切ると、赤く染まるナイフを地面に落とした。
カランッと音を立てると、ナイフは跡形なくその場から消える。

「スフィリアに関わらなければ長生き出来たのにね…」

広がる赤に冷たい視線を落すと、コウは再び歩き出した。
銀色の髪が、風を受けてふわりと舞う。

夕闇がすぐそこまで迫っていた。

Rewrite 06.03.01