Free act.28
コウには双子の弟がいた。
しっかりした弟で自分が妹のような錯覚すら起こすような、そんな存在。
大切な、この家の者の中でただ一人の理解者だった。
弟と言うよりは親友のように育った。
「ザキ!」
父親の部屋に呼ばれるのは毎日の日課。
優秀な暗殺者に育て上げるために、血を分けた子供にすら容赦ない特訓を施される。
男として生まれたザキはコウよりも酷かった。
そして何より、両親共に琥珀色の髪を持つのだが、コウだけは一人銀。
双子なのだから、血の繋がりに間違いはない。
しかし、異端な存在を認められるほどに甘い家ではなかった。
存在すらも否定するかのように、両親が見ていたのはコウの能力値の高さだけ。
「コウ…。大丈夫だよ?」
血塗れになって部屋に戻ってくるザキに、コウは何度も涙を流した。
自分が代わってあげられればと何度思ったかわからない。
しかし、それは他ならないザキによって止められていた。
そうして、何も出来ないよりはと、彼女は自分の半身の為に必死で治療を覚えたのだ。
怪我をして、お互いに治療しあって。
そんな毎日が続く。
変化は、コウが念の基礎の習得を終えた頃に起こった。
「あ、あの…?」
念を見せた時、ライドは何も言わなかった。
その沈黙の意味する所を理解するには、コウはまだ幼すぎたのだ。
「コウを跡継ぎにする」
幼い双子を前にして言われた言葉。
今までただの一度も彼自身が直接コウに技術を教えようとはしなかっただが、それは一転する。
その日から、コウが父親の部屋へ呼ばれる回数が0から突然二桁へと増えた。
この頃、初めてゾルディック家に行った。
もちろんコウには婚約の意味など全くわかっていない。
母親に連れられるままに試しの門をくぐり、そして屋敷へと案内された。
―――怯えた所を見せるな。
そう教え込まれたコウ表情のない顔で部屋へ案内された。
「失礼のないようにしなさい」
そう母親から背中を押される。
中にいたのは父親と同じくらいガタイのいい男性。
銀色の髪にコウが目を奪われていた。
「ほぅ……スフィリアの娘か…」
「……初めまして、コウ=スフィリアです」
教え込まれたとおりに頭を下げる。
だが、持ち上げられた視線は彼の髪色に向けられていた。
それに気づいたシルバは喉の奥で低く笑う。
「…銀髪が珍しいか?」
彼がそう問いかければ、コウはフルフルと首を横に揺らす。
次いでその理由を問われると彼女は躊躇いながらも口を開いた。
「私と…同じだから、です」
「別に敬語は必要ない。好きなように話せばいい」
「………シルバ…さん、の娘に生まれていたら…この髪でもちゃんと見てもらえたのかなって…」
途中詰まらせながらも、コウは最後まで紡ぎきる。
彼女の境遇はその父、ライドからの言葉によってよくわかっていた。
それだけに、彼女の言わんとしている事は簡単に理解できる。
「お前の髪は美しい。それだけを誇ればいい」
「…ありがとう…」
「ライドの教育は中々だが…頭が固すぎる。髪色に本人の能力が左右されるはずはないからな。
要は、本人がどれだけの力量を持っているかだ。俺の家にしても…お前の家にしても」
「…あなたも、暗殺者…?」
コウが首をかしげてそう問いかけた。
その事実を聞かされていなかったらしい彼女に、シルバは頷く。
一瞬は怯えるかと思ったが、彼女自身すでに「殺し」に触れているのだからありえない事だと考え直す。
思ったとおり、彼女は怯えの色など一瞬すらも見せることはなかった。
逆に、安心したように微笑む。
「じゃあ……私を殺してもらう時にはあなたに頼むね」
幼い子供から放たれるにはあまりに現実離れした言葉。
軽く驚くシルバだが、次には満足げな表情を浮かべた。
「ふ……殺してもらう、か…。その思い切った性格は中々だな。気に入ったぞ、コウ」
「…そうなの?」
「ああ。お前が殺してほしいと願うなら、叶えてやろう。いつでも来ればいい。もちろん、それ以外の用でもな」
「…本当?」
確かめるようなその視線と共に紡がれた言葉にシルバは歓迎する、と答える。
コウは先程とは違う、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「俺にも子供がいるんだ。コウと同じ年頃の奴もいるぞ。ただ……コウほど表情を出さんが」
「ふぅん…。一度逢ってみたいな…。ねぇ、シルバさん。ザキも連れて来てもいい?」
コウはシルバの傍に寄った。
見上げる視線は期待に満ち溢れている。
「ザキ…?ああ、コウには双子の弟がいるんだったな」
「うん!私と同じなの。ザキも強いんだよ?でも私のほうが強いの」
「そうか…。先が楽しみだな。いつでも二人で来るといい」
「ありがとう!」
父親に可愛がれた覚えのないコウはシルバに懐いた。
その日は日が傾く頃にゾルディック家を後にする。
珍しく機嫌がよかったコウ。
機嫌がいいというよりは、楽しそうだった。
子供らしい笑顔を浮かべていた。
「シルバさんがね、また来なさいって」
「そう…よかったわね。そのうちシルバさんのご子息とも会えるでしょうから…仲良くなさい」
「うん!」
珍しく母親も優しかった。
だから、気づけなかったのだ。
母親の行動の本当の意味も、その結末も。
「ザキに教えてあげなきゃ!一緒に来てもいいって言ってくれたの」
「…そうね。一緒に行けるといいわね」
家に帰った時、コウを迎えるのはザキの優しい笑顔ではなかった。
Rewrite 06.02.10