Free  act.23

キキョウに許可を貰って、コウは独房へと来ていた。
扉を開けると、鞭を持ったミルキがキルアの前に立っているのが視界に入り込む。

「ミルキ、少し席を外して」
「コウ姉か…わかった。一時間だけだからな」
「ええ、ありがとう。これでも食べて時間を潰していて」

立ち去ろうとしたミルキに小さな紙袋を投げる。
中身はゴンたちにもご馳走したお菓子だ。
それを受け取ると、ミルキは足早に独房を出て行った。

「キキョウさんに許可貰ったから下ろしてあげるわ」

コウはそう言うといつの間にか手の中に持っていたナイフをヒュンッと鎖の付け根へと投げる。
綺麗に止め具だけを切り離されると、キルアは足取り軽く床へと降り立った。

「コウってお袋とも面識あるんだ?ブタくんもコウ姉って呼んでるくらいだし…何者?」
「しがない情報屋」
「明らかに嘘だし」

にこりと笑って答えたコウの言葉に即答するキルア。
そんな彼にクスクスと笑みを零すとコウは彼の手の上にもお菓子を載せた。

「…コウが作ったの?」
「そうよ。私の手作りなんだから、ちゃんと味わってね」
「さんきゅ」

キルアは少し頬を赤くしながら、二つ入っているうちの一つを取り出して、すぐにそれに齧り付いた。
柔らかく、口触りの良いそれはすんなりと喉を通っていく。

「すっげー美味い!コウ、料理の天才じゃん?あー、そう言えばコウだけは2次試験の通ったんだよな」
「料理には自信があるの。メンチにも美味しいって言ってもらってるからね」

置いてあった椅子に座って、コウが嬉しそうに言う。
キルアも勧められて同じように向かいに座わり、尚もマフィンを頬張っていた。
やはり自分が作った物を喜んで食べてもらえるほど嬉しい事はない。
優しい笑みを浮かべてコウはキルアを見つめていた。
そして、彼が一つ目を食べ終わった頃に口を開く。

「実はね、キルアに嬉しい情報を持ってきてあげたの」
「嬉しい情報?」
「…ゴンと、クラピカ、レオリオが来てるわ。今は試しの門を開けるために修行中」
「ゴンたちが…?」

驚いたように目を開くキルアに、コウは微笑みながら、いい友達を持ったね、と言う。
照れ隠しにキルアはふいっと顔を背けたが、その表情は嬉しさが溢れていた。

「キルアが試験を出て行った後の話をしてあげようか?」
「…うんっ!!」

眼を輝かせたキルアの表情は12歳の子供らしい生き生きとしたものだった。















一時間後、コウは約束通り独房を出ていた。
その足で自分の部屋へと戻った彼女は仕事机に向かう。

「あれ、メールが入ってる」

―――――――
From:レイシア=サファルヴィート
依頼内容は一週間の護衛。報酬は100億J。
―――――――

受信したメールの内容にコウは溜め息を一つ。

「サファルヴィート家か…有名な大富豪ね。報酬一週間で100億とは…穏やかじゃないわね。
一体誰に狙われてるんだか…」

一週間で100億など、今までこなしてきた仕事の中でも三本指に入る程に高額だ。
悪い条件ではない上に身辺警護もこれが初めてではない。
請けるか請けないか…コウはふむ、と腕を組んだ。
その時、計ったように部屋のドアがノックされる。

「俺。入るよ」
「どうぞ」

返事を返すと、すぐにドアを開けてイルミが入ってきた。
机に向けていた椅子を回して、コウは来訪者の方へと向きを変える。

「どうしたの?イルミが来るなんて、珍しいわね」
「ちょっとね。サファルヴィートの護衛の依頼が入ってる?」
「…入ってるわ。異常な高額報酬で護衛の仕事。誰に狙われてるのかしらね?」
「俺」

半分ふざけて言った言葉に、イルミが答えてきた。
コウは一瞬驚いた顔を見せるが、すぐに表情を戻すと机の方へと向きカタカタとキーを叩き始める。
イルミに何かを答えるでもなくパソコンに向かいだした彼女に、彼は首を傾げて近づいた。

「何してるの?」

一瞬のうちにコウの近くまで寄っていたイルミがパソコンを覗き込んだ。

「依頼お断りのメール」
「何で?」
「何で、って…。私、イルミと対立するのは嫌よ」

さも当たり前のように答え、彼女は早々にメールを送信してしまう。
これで契約破棄、今回の仕事は水に流された。

「選好みしてると依頼来なくなるよ?」
「私に依頼が途絶えたことはないわ。裏の世界でも名前が通ってるからね。
それに………気に入った仕事しかしないのが『ルシア』の方針」

笑って答えたコウに、イルミは「ふぅん」と気のない返事を発する。
別に喜ぶとは思っていなかったが、この反応は微妙だ。

「何、イルミは私と争いたいの?どっちも無事ではすまないのに?」
「そんなつもりはないよ。じゃあ、コウは引いてくれるんだ?」

彼の確認にコウは当然、と答える。
イルミは彼女の返事に僅かに口角を持ち上げ、自身の手で彼女の頭をポンポンと撫でる。

「よかったよ。コウを敵に回すのは俺も嫌だったんだよね」
「そう言ってくれるなら100億を捨てた甲斐があったわ」
「………本当に尋常じゃないね、その額」

苦笑を浮かべつつ、イルミは携帯から依頼相手に返事を送った。












ゴンたちを屋敷に招いて早20日。
仕事の合間を縫って彼らの相手をしていたコウ。
三人とも無事に試しの門を開くことが出来、漸く自身の力で屋敷への一歩を踏み出した。
コウが口添えをするかと彼らに問うが、返って来たのはNo。

「今まで世話になったからこれ以上迷惑はかけられない」

それが彼らの意見だった。
コウはそれを受け入れ、ゼブロらと共に屋敷を探すべく道を進みだした彼らを見送った。




カナリヤの所まで三人が辿り着いたと言う情報を耳にする。
それを教えてくれた執事に礼を言い、彼女はシルバの部屋を訪れた。

「仕事以外で自分から来るのも珍しいな…。欲しい物でもできたか?」

そう言って笑う彼は、コウにとっては父のような存在だった。
幼い頃から世話になっていることもあり、すでに赤の他人とは思っていない。
元々欲のない彼女だからこそ、彼女が望んだ事は殆ど叶えてくれていた。

「…シルバさん、お願いがあります」

彼を前に、コウは静かにそう紡ぎ出す。

Rewrite 06.02.01