Free act.20
「やれやれ…。こんな強情なお客は初めてだよ」
ゼブロは髪の薄くなり始めた頭を掻く。
前に立つ彼の目は引くと言う選択肢など初めから持ち合わせていないかのようだった。
彼はやれやれと溜め息を吐き出し、そして部屋の中にある電話を持ち上げた。
「連絡を取ってくれるの?」
「ええ。キルア坊ちゃんに直接お繋ぎする事は出来ませんが…あの方なら逢う位はしてくれるでしょう」
ゼブロの言う『あの方』と言う人物に、彼らは互いの顔を見合わせた。
慣れた手つきでボタンを押していく辺り、その番号の使用頻度は多いと見える。
ボタンを押し終えたゼブロは相手が出るまでの間ふと顔を持ち上げていた。
そんな彼を、ゴンとクラピカそしてレオリオの三人が見守る。
――リリリリン――
部屋に設置してある、敷地内専用の電話が鳴った。
高すぎない程度のベル音が室内を支配する。
コウは書類に滑らせていたペン先にキャップをすると、それをまだ半分ほど白い紙の上に転がした。
そしてカラ…とローラー式の椅子を引き、そこから立ち上がる。
壁に直接取り付けられた電話に手を伸ばして、その受話器に耳を寄せた。
「はい?」
『あ、ゼブロです』
「…どうも。また来客?興味本位の客ならお引取り願って」
職を持つコウにとって、こうしてゼブロが取り繋いでくる事は少なくはない。
どこから情報を手に入れたのか、それに釣られてゾルディック家を訪れる輩も後を絶たないのだ。
尤も、ゾルディック家敷地の門の所で、文字通りの門前払いにあう者ばかりだが。
『その事なのですが…』
「何か問題でも?話のわからない相手なら私が行くけど…」
『いえ、そうではなくてですね。実は、キルア坊ちゃんにお会いしたいと言う方が見えてるんです』
「…へぇ」
彼の声にコウはふっと口角を持ち上げた。
その背を壁に添えるようにして凭れ、優雅にその長い脚を組む。
「三人?キルアと同い年くらいの少年と、金髪の青年、それから…少し老けて見えるスーツの男性」
『ええ。よくお分かりですね。顔見知りですか?』
「先日のハンター試験で少し、ね」
そう答えるとコウはふと反対に位置する壁の時計を見やった。
長針と短針が刻む時刻を読み取り、そして視線を先程まで座っていた机へと向ける。
そこに残された書類の量から、大体の残り時間を見積もった。
『どういたしましょう?執事に通したんですが…』
「彼らには通すだけ無駄でしょう?今から私がそこまで行くから…少しの間持て成しておいて」
『わかりました。お仕事の方はよろしいので?』
「どうにでもなるわ。じゃあね」
ガチャン、と受話器を戻すと、コウはクスクスと笑い出した。
その表情は酷く楽しげ。
「ほら、ね?あの子達なら来るって言ったでしょう?」
その声を誰に届けるでもなく、コウは静かに呟いた。
受話器を置くとゼブロはふぅと息を漏らす。
そして背後で見守っていた三人を振り向いた。
「何とか連絡がつきましたよ。今から来てくださるそうです」
「ありがとう、ゼブロさん!」
「来てくれる…と言うのはキルアのご家族か何か…?」
クラピカの言葉にゼブロはいいえ、と首を振る。
「正式な家族ではありませんよ。まぁ、すでに家族同然ですがね」
「家族…じゃないのか?」
「詳しい事は本人からお聞きすればいいでしょう。あの方なら答えてくれますよ」
自分から話す事は出来ない、とゼブロは言った。
その言葉に三人は頷く。
どの道本人が来ると言うのだから、間に人を挟まずとも話は出来るのだろう。
少なくとも、先程の執事ほど頭の固い人物ではない…ハズだから。
どんな人物なのだろうと、各々今から来る人物を思い浮かべていた。
ルシアの背に横座りし、コウは森の中を進んでいた。
肩のスノウが風圧で転がってしまわないよう、その背に手を添えて。
やがて遠くに見えていた門が見上げるほど近くなり、ルシアは徐々に速度を落す。
「さて、と。久々に腕試しと行きましょうか」
トンッとルシアの背を降りると同時に、彼女の言葉を聞いたスノウはその肩を下りる。
地面に降り立ち、その足でルシアの背へと飛んだ。
そんなスノウらを横目で捕らえ、コウはゆっくりと門の前まで歩いていく。
鈍く重い音が守衛室まで届いた。
それの音源を探るべく視線を彷徨わせる三人。
だが、ゼブロには聞き慣れた音らしく彼はその腰を持ち上げる。
「どうやら到着されたようですね」
扉を出て行く彼に続き、三人も守衛室から足を踏み出した。
門と言うよりは壁のようなそれの前に立つ人物。
すでにその馬鹿でかい門は閉じられており、どこまで開いていたのかはわからなかった。
銀色の髪が風に揺らされて波打ち、陽を反射させて美しく光る。
緩やかな曲線を描くその四肢から人物が女性であるとわかった。
彼女の傍らに控える、酷く見覚えのある銀狼に三人はポカンと間抜けに口を開く。
「いやぁ、すみません。コウ様。お仕事中にお呼びしてしまって」
「別に構わないわ」
先に彼女の元まで歩いていたゼブロがコウに話しかける。
コウは柔らかく微笑んでそれに答えると、後ろで固まっている三人のほうへと視線を投げた。
にこりと笑みを浮かべ、口を開く。
「お久しぶり…って言うには、あまりに日が浅すぎるわね」
その微笑みに覚えがないとは言わない。
「「「………コウ…?」」」
断定することが出来なかったのは恐らく彼女の姿形が多少なり違ったから。
その容姿は少しばかり若返っていて、試験の時も澄んだ声だったが更に拍車が掛かっているように思う。
「改めまして…コウ=スフィリアと申します。以後お見知りおきを」
ウインクと共にそう告げるコウ。
その姿が酷く似合っていると思えるのはその容姿ゆえの事だろうか。
「な、何でコウが…?」
「それよりも、姿形が若干若くなっているように思うのは気の所為か…?」
「これで気の所為って言われても説得力ねぇけどな」
立て続けに言葉を紡ぐ彼らにコウは苦笑を浮かべる。
そして彼らの声をその片手を挙げることで制して、ゴンへと視線を向けた。
「一人ずつ聞くわ。まずはゴンの質問。何でここにいるのか…でOK?」
「うん」
ゴンが頷くのを見て、コウはルシアに凭れながら口を開いた。
「仕事と里帰りの為。ここは私にとっても家だから」
「家…ってことはキルアの親戚か?」
「いや、それはないだろう。先程守衛さんが家族ではないと言っていた」
「正解よ、クラピカ。私はキルアの親戚ではない」
心の中で「まだ、ね」と付け足すが。
そんな事を三人が知るはずもなく、疑問は更に深まったようだった。
「では、私からさっきの質問だ。“何故容姿が変化しているのか”」
「簡単に言うと、私の仕事上の都合。それから…キルアの目を欺く為」
「欺く必要があったのか?」
「その質問に答えるには、こちらも聞いておかなければならないわ」
そこでコウは一旦言葉を区切る。
三人を一瞥し終えると、彼女はゆっくりと問いかけた。
「ここから先は聞く必要のないことよ。それでも…聞く?」
「聞く必要がない?」
「ええ。寧ろ、聞かない方がいいかもしれない」
ゾルディックと深く関わりたくないならば。
そう言葉を続けたコウに、三人は一瞬言葉を失った。
ゼブロはただ何も言わず四人の会話に耳を傾ける。
彼はコウが何を言わんとしているのかがわかっているのだろう。
「俺は聞いておきたい」
「私も同意見だな。中途半端に知るよりはいいだろう」
「ゴンとクラピカはOKね。あなたはどうするの?」
コウはレオリオへと視線を投げかける。
それに釣られるかのように、ゴンとクラピカも彼に視線を向けた。
彼女の言っていた前置きに一度は心を揺さぶられたものの、二人の視線を受けて引き下がるような男ではない。
「…わかったよ!俺も聞く!それでいいんだろ」
「三人ともOKってことね」
Rewrite 06.01.30