Free act.17
ハンター試験合格者第2号は、ゴンだった。
コウとの戦いの後、すぐにゴン対ハンゾーの試合が行われた。
「コウは尾行されていたのに気づいていたか?」
「初めはあそこの人。3日目の昼頃にあっちの彼に交代。5日目の夕方から最後まであなた、でしょう?」
クラピカに問われ、コウは一人ずつ指さしながら答えた。
それぞれが驚愕の表情を浮かべて大きく頷く。
それに視線を向けずに、コウは背中を預ける。
「まさか、こんな所で念を使うとは思わなかったよ」
「ヒソカだったら使わなかったわ。ゴンだから使ったの。不合格にはさせたくないから」
ハンゾーにやられっぱなしのゴンに視線を向けて、コウはそう言った。
どれだけ苦痛を与えられても、ゴンは「まいった」と言わない。
だが、コウの表情には心配、と言うものは映っていなかった。
「相変わらずいい能力だねぇ。益々戦いたくなるよ。是非とも僕を選んで欲しかったなぁ」
「謹んでご遠慮しておくわ。ヒソカとではこっちも無事ではすまないもの」
冗談じゃない、とコウは首を振る。
ゴンとの対戦の間離れていたルシアも、今ではいつも通りに彼女の傍らにいた。
そんなルシアの頭を撫で、コウはその試合の行方末を見守る。
結果、ハンゾーが「まいった」と言ったことでゴンの合格が決まった。
試合の終わりにハンゾーの激しいアッパーカットを食らって、ゴンは意識を失う。
「ゴンらしいと言うか、馬鹿正直と言うか…」
クスクスと肩を震わせて笑うコウだった。
試合は順調に進み、ギタラクルとキルアの試合になった。
前のポックルとの試合で勝っていれば、ギタラクルとの試合は免れた。
だが「面白くないから」と言う理由でキルアは戦線離脱。
そして、ギタラクル……兄との試合になったのだ。
「キルア、帰るみたいね」
「そうだね」
「さっき勝ってたら……連れ戻さなかった?」
「考えてもよかったけど…今更言っても仕方ないでしょ」
「そうね」
ギタラクルは試合が始まるとすぐに針を全て抜き取り、イルミに戻った。
結果として、キルアが「まいった」と宣言してイルミの合格が決定。
そして、次のボドロとレオリオとの試合開始と同時にボドロの心臓を貫き、そのまま部屋を出て行こうとした。
「キルア」
コウの声にキルアは虚ろな目を彼女へと向ける。
彼女がその目に哀しげな表情を浮かべたことなど、恐らく気づかなかっただろう。
「家に帰るならこれを使って」
そう言ってコウはポケットからキーを取り出して彼の方へと投げる。
それを簡単に受け取ると、彼は首を傾げた。
「私の飛行船の鍵。中に使用人が居るから、彼らに声をかけて家まで動かしてもらいなさい」
「…ありがとう。でも、これ返せないから…」
だから、と言ってそのキーを返そうとするキルアの手を己のそれで包み、コウは微笑む。
「次の仕事がゾルディック家の物なの。その時に返してもらうから…お守り代わりに持ってなさい」
ね?と首を傾げたコウに、キルアは少し悩んだ後頷いた。
また会えるのだと言う事に彼が心中で喜んでいたと、コウは知っているだろうか。
レオリオやクラピカの視線を特に強く浴びながら、キルアは今度こそ部屋を出て行った。
ハンター試験合格者は、簡単な講習を受けていた。
途中、意識の戻ったゴンの乱入はあったものの、講習は無事終了。
一同は解散となった。
「家の場所。教えてよかったの?」
「別にいいよ。どうせ辿り着けないから」
「……来るよ、あの子は」
真面目なコウの声に、イルミが歩いていた足を止める。
振り向いた彼に、彼女は更に同じ言葉を紡いだ。
「ゴンは来るよ。絶対来る」
「……まぁ、それでもいいんじゃない?住む世界が違うって事を思い知るだけだよ」
そう答えたイルミの手を取った。
右手首が赤く腫れ上がっている。
そこはゴンが怒りに任せて強く握った場所だった。
「折れているんでしょう」
「うん。折れてるね」
「全く……慣れてるだろうけど、仕事に影響が出ない程度にしなよね」
青い指輪の嵌ったほうの手をそこにかざし、コウは小さく口を開いた。
「“癒風。”」
短くそう唱え、小規模な風を起こす。
風が収まった頃には、イルミの腕は完全に治癒していた。
「詠唱しなくても使えるんだ?」
「ええ。一日の間なら詠唱無しに使える能力よ」
「便利な能力だよね」
イルミの声に頷き、コウ腕を動かすように彼に指示を出す。
問題なく動く腕を見下ろしてイルミは言った。
「うん。ありがとう」
「どういたしまして。さて……じゃあ、お客様が来る前に帰りましょうか」
そう言うと、コウはルシアに乗った。
前を歩き出したイルミに従い、ルシアはゆっくりと足を動かし始める。
帰る場所は、ククルーマウンテン。
コウの第二の家。
Rewrite 06.01.26