Free  act.15

飛行船移動中の三日間。
長いとも短いとも言いがたい時間を、受験者は様々に過ごしていた。

自身を高める者もいれば、その身体に休息を与える者。
さすがハンター協会と言えるくらいに広い飛行船内では、顔を合わせようと思わなければ他人とは会わない。
三日と言う間、コウはその全てを仕事へと費やしていた。
現地調査の必要な分を除き、溜まっていた仕事を片付けていたのだ。
彼女は情報屋『ルシア』としてその名を轟かせているが、探し出せた全ての人が依頼を請けてもらえるわけではない。

まず、コウに直接連絡の取れるその方法を探し出す事。
その次の難関は彼女に出した依頼が通るかどうか、だ。
その基準は酷く曖昧で、依頼人の人柄であったり、仕事内容のスリルさ。
時には報酬が物を言う場合もある。
コウが仕事を選ぶのは、その仕事に対しての確固たるプライドがあるからなのだ。
言ってしまえば我が儘な仕事への姿勢ではあるが、それでも彼女の元に届く依頼は後を絶たない。
それは彼女の実力故に他ならないのだろう。



















ホールのような広い部屋に集められた受験者たち。
その各々に視線を向け、ネテロは口を開いた。

「さて、諸君。ゆっくり休めたかな?
ここは委員会が経営するホテルじゃが、決勝が終了するまで君達の貸し切りとなっておる」

彼のこんな言葉に、コウは謎が解けたとばかりに表情を緩めた。
どうも、このホールまでの道のりでホテル利用者に出会わなかったことが不思議だったらしい。
ネテロの言葉はそんな彼女の疑惑に考慮しての物と思われる。

「最終試験は1対1のトーナメント形式で行う。その組み合わせは、こうじゃ」

彼はそこで一旦言葉を区切ると、己の脇に設置してあったボードにかかっていた白い布を解く。
そこに書かれていたのは、トーナメント表。
その頂点は………一人。
各々の反応を示す受験者を見回し、彼は言葉を続けた。

「さて、最終試験のクリア条件だが、いたって明確。たった1勝で合格である!!」

要するに、勝った者が次々に抜けていき負けた者が上に上がっていく。
不合格者はたった一人ということだった。
誰しも一瞬は合格者が一人なのでは、と言う不安を抱いただろう。
僅かに安堵の表情を浮かべる者がいた事を、コウは見逃さなかった。

「(ネテロさんも人が悪いなぁ。態々不安がらせるなんて。)」

コウの率直な感想だった。
この時すでに彼女はある事に気づいていた。

「組み合わせが公平でない理由は?」

一人から声が上がる。
確かに、ある者には4回以上。
ある者は2回。
チャンスを与えられている数が違うのである。






と、ここで漸く彼女以外の受験者が違和感に気づいた。
番号が足りない。

「もう気づいておるかの」

そんな彼らの反応を見越して、ネテロが言った。
全員がその声の主に視線を集める。
ボードに足りない番号は一番覚えやすいのではと思われる――――――1番。
つまり、コウの番号だった。

「一つ言っておくが、コウが不合格な訳ではないんじゃよ。コウ自身はもうわかっておるじゃろ?」
「そうですね…思い出しましたよ。忘れていましたから」
「おいおい。こっちは全く状況がわからねぇんだよ。ちゃんと説明してくれよ」

その声に、コウがクルッと受験者達を振り返る。
そして、見惚れるような笑みを浮かべて言った。

「私、もう合格していますから」

その言葉には受験生の顔に驚愕の表情が浮かぶ。
ネテロ以外の試験官は、事前に聞いていなければ自分もこうなっていただろうと思った。
コウは驚く受験者を横目にゴンの方を向く。

「ゴンならわかるんじゃないかしら?」
「俺…?」

突然話題に載せられたゴンは己を指さして首を傾げる。
混乱する頭で思い出すのは難しく、答えを縋るように彼女を見つめ返した。

「ゴンも挑戦したみたいだったし。結果は残念だったみたいだけれど」
「???」

ゴンの頭に更に疑問符が浮かび上がる。
そんな彼の反応は思いのほか面白く、コウはクスクスと笑いながら更なるヒントを出した。

「ほら、3次試験の前、2次試験の後」
「……………あ!ネテロさんからボールを奪う奴!?」

ゴンの言葉にコウは「正解!」と笑顔を浮かべる。
彼女の返事に驚くのはゴンだけではなかった。

「嘘だろ!?あんなの取れたのかよ!?」
「嘘とは心外ね。って…キルアも知ってるの?」
「俺もやったし」
「へぇ…駄目だったでしょ」

ニッと挑戦的な視線を向けられ、キルアはそれが図星であると示すかのように顔を逸らしてしまった。
ゴンは素直に彼女の実力に感心しているようだ。

「だ――――っ!わかるように説明しろ!」

和やかな空気を纏う三人に、レオリオの限界が訪れた。
そんな彼の雄叫びに近い声を聞き、ネテロは笑い声と共に髭を弄る。

「ふぉふぉふぉ。わしからボールを奪えたら合格させてやる。というゲームじゃよ」
「ゲーム!?そんな適当でいいのかよ!!」
「わしが合格といえば合格じゃ」
「って事。ちなみにネテロさんはちゃんと両手両足使ったわよ」

ゴンとキルアの両名が驚いた顔を見せる。
そんな二人を置いて、コウはネテロの方を振り向いた。

「ところで、ネテロさん。私は最後まで参加すると言ったはずですけれど………強制合格ですか?」

やや不満の色を織り交ぜたコウの声。
合格と言う言葉が欲しい受験者からは信じられないような言葉だ。

「この試験、おぬしにはあまりに有利すぎての。参加してもらうわけにはいかんのじゃよ」
「有利……?」
「戦い方も単純明快。武器OK、反則なし。相手に「まいった」と言わせれば勝ち!
相手を死にいたらしめてしまった者は即失格!その時点で残りの者は合格。試験は終了。有利じゃろ?」

コウの念能力や今までの実績を考えれば、確かに有利ではあった。
ネテロは彼女の能力の一部を知っているだけに、その結論に達したのだろう。
結果、例のゲームにも勝っているのだから、と言う事で彼女の合格が決定したようだ。

「…まぁ、それならば私は納得しましょう。でも…他の人は納得いかないんじゃないですか?」

ネテロの言葉に頷き、そして他の受験者に視線を向ける。
納得している者の方が少ないことは明白だった。

「なぁ、コウがもしもそこに加えられた場合は……どの位置に入るんだ?」

キルアがボードを指しながら問う。
好奇心と言うよりは対抗心のようなそれが彼の目に見て取れた。

「294番の左隣じゃな。身体能力値、精神能力値、そして印象値。どれを取ってもここにいる全員より高い。
つまり、コウには一番多くチャンスが与えられるように試合が組まれる」

そんなにチャンスはいらんじゃろうがの、と一言だけ小さく添えて、キルアの問いかけに、ネテロが即答した。
これにはコウ自身も驚いた様子で彼を見る。
そんな彼女の視線に頷き、ネテロは髭の先を摘むように弄りながら口角を持ち上げた。

「これで納得がいかんようじゃったら……誰かと戦ってもらおうかの」

楽しんでいるような声色がホール内に不思議なほど響く。

Rewrite 06.01.26