Free act.14
第1応接室、と言うプレートを提げた部屋の前。
コウはその扉を一瞥し、次にルシアへと視線を向ける。
「外で待っている?」
そう問いかければルシアはコウに身体を摺り寄せる。
片時も離れるつもりはない、と言う意思表示のように見えた。
そんなルシアの仕草にクスリと微笑むと、コウは右手を上げてその扉を指の第二関節で叩く。
木で出来たドアは思ったよりも軽いノック音を耳に届けた。
中からの「入ってよいぞ」と言う声を聞いてコウはそのドアノブを捻る。
「こんにちは、ネテロさん」
「1番はコウか…。座りなされ」
「はい。失礼します」
座敷に上がると、コウは机を挟んでネテロの前に用意された座布団に腰を降ろす。
ルシアは座敷に上がる事なくドアの付近に腰を落す。
ゆらゆらと尾を揺らしながらネテロを見つめていた。
「まさか最終試験は面談のみで終了。なんて事はないですよね?」
「これはあくまで参考じゃよ。ちょいと質問するだけじゃ」
「それはよかった。面談でハンター試験が終わるなんて冗談じゃないですからね」
安堵の表情を浮かべるコウに、ネテロは「当然じゃな」と笑う。
そしてその長いひげを指で弄りながら彼女に問いかけた。
「時に、コウはハンター試験の内容をどこまで知っておったんじゃ?」
「……………これがその質問ですか?」
「これはわしの興味じゃ。情報屋『ルシア』がどの程度知っておるか気になってのう」
「………隠しているつもりはありませんけど、そんな事まで知ってるんだね」
「安心してよいぞ。誰にも言っておらん」
「あぁ、別に構いませんよ、言いふらされて困るような物でもありませんし」
そうなれば己を膨大な情報の中に隠せばよいだけの事。
そんな事まで出来る自信があるからこそ、今こうしてその職についているのだから。
「さっきの質問の答えは…最終試験以外全部。って所ですね」
「やはり全部知っておったか」
ネテロが面白そうに口の端をあげる。
「どこでそのハンター試験の情報を得てくるのか、教えて欲しいもんじゃのぅ」
「あはは…。さすがにそれは企業秘密ですよ」
「受験者にその情報を流す事はあるのか?」
彼の質問にコウはきょとんと言葉を失う。
だが、次には「まさか」と言う風に肩を竦めて首を振った。
「実力のないハンターほど迷惑な存在はありませんよ。ハンターと呼ばれるには試験程度は自力でクリアしてもらわないと」
その辺りはちゃんと弁えています、とコウは言う。
彼女の返事は予想通りだったのかネテロは満足げに首を縦に動かして頷いた。
「それを聞いて安心したわい。次回からは難易度を上げねばならんかと思っておったんじゃ」
「その点はご安心ください。ハンター試験の情報は流さないと、『ルシア』の名に誓います」
この時ばかりは受験生としてのコウではなく、情報屋としての顔を見せていた。
その真剣さを見たネテロはしっかりと頷く。
「さて、それでは本題に入ろうかのう」
漸く本題に入った頃には、コウが入室してすでに5分が経過していた。
「まず、何故ハンターになりたいんじゃ?別に仕事に困ってはおらんじゃろう?」
「敢えて言うならば勝手に応募されたからなんですけど…」
苦笑を浮かべてコウは頬を掻く。
視線を彷徨わせるのは、やはり応募理由に後ろめたさがあったからだろうか。
「でも、楽しかったです」
「ほぅ…楽しかったとな。何がじゃ?」
「自分で得た情報の確かさと、情報はその実力があって初めて生かされるのだという事を改めて確認できましたから」
最終試験以外の試験内容は全て把握していた。
だが、いくらその対処法を考えた所で結局の所その対処が出来るだけの力がなければ意味がない。
それを、身をもって体験できただけでも、この試験に参加した価値はあったとコウは語る。
彼女の言葉をネテロは時折笑みすら浮かべて聞いていた。
「そうか。そう言ってもらえるとこちらも試験の考え甲斐があるのう。
では、次の質問じゃ。おぬし以外の9人の中で一番注目しているのは?」
その質問内容にコウは「注目…」と呟いて暫し沈黙する。
咄嗟に浮かんだのはキルアとゴンの両名。
次いで浮かんだのはヒソカやイルミなのだが…ここは一番に浮かんだ者にしておこう、とコウは口を開く。
「先が楽しみなのは…ネテロさんと同じく405番と99番ですね」
「あの二人か。なるほどなるほど。最後の質問じゃ。9人の中で今、一番戦いたくないのは?」
サラサラと何かを書き込みながらネテロは質問を続ける。
一番戦いたくないと問われれば浮かぶのはやはり彼ら。
「さっきの二人。あとは…44番と301番。これは一人ですか?」
「何人でもよいぞ。ちなみにあとの二人の理由は?」
「44番なんかと戦ったらこの辺一体破壊してしまいますよ?それは301番も同じことですけど」
そこまで話してコウは一旦口を噤む。
彼女の言葉に続きがあると気づいていたのか、ネテロはその沈黙の間も口を挟む事なく待った。
「その四人の中でも特に99番と301番は嫌です。どちらも私にとって掛け替えのない存在ですから」
「戦え、と言われても戦わんか?」
「いいえ。戦わなければならないなら戦います。出来れば避けたいと言うだけですから」
「うむ。では下がってよいぞ」
何やらメモを取っているネテロを横目にコウは立ち上がる。
壁に掛けられた時計を見上げれば、すでに長針が数字三つ分移動していた。
意外と時間が経っていたと言う事に僅かに驚く。
だが、面接と言うからにはそれくらいは当然か、と思い扉に手をかけた時、ふと後ろを振り返った。
「ネテロさん。最終試験、期待していますね」
微笑みを浮かべたままそう言うと、コウはルシアを連れ立って部屋を出て行った。
「ふむ…。これは気合入れんといかんのぅ」
苦笑気味に紡がれたネテロの声を聞く者は居ない。
Rewrite 06.01.24