Free  act.13

『ただ今をもちまして第4次試験終了となります。受験生のみなさんすみやかにスタート地点へお戻り下さい。
これより一時間を帰還猶予時間とさせていただきます。
それまでに戻られない方は全て不合格とみなしますのでご注意下さい。
なお、スタート地点へ到着した後のプレートの移動は無効です。確認され次第失格となりますのでご注意下さい』

四次試験を通過した受験生は再び飛行船の中へと乗り込んでいる。
コウはぼんやりと眼下に見える風景を見つめていた。
ふと、近づいてくる気配にルシアが反応し、コウもそれに気づく。
知った気配に警戒することなく、その方向に視線をやった。

「どうしたの、イルミ」

廊下の角に向かって、コウが言った。
そこから姿を現したのは、顔中に針を刺したギタラクル。

「別に気配を消して近づかなくてもいいんじゃない?」
「コウならわかるだろ?」
「………気配くらい察知出来ないようならとっくに仕事をやめて平和に暮らしてるわ」

ルシアがギタラクルに駆け寄っていき、嬉しそうに尾を振った。
そんなルシアの頭をギタラクルが撫でる。
そんな彼の様子に、コウがクスクスと笑った。

「天下のゾルディック家の長男が動物を撫でるなんて…天変地異の前触れかしらね?」
「…ルシアは懐きすぎじゃない?」
「あら、誰にでも懐くわけじゃないわよ。懐くのは私が敵と判断しない事が最大条件」

コウが手招きしてルシアを呼べば、すぐに駆け寄ってくる。
擦り寄るルシアに優しい目を向けながら、コウが再びギタラクルに視線を戻した。

「それはそうと…何か用事?」
「あぁ、うん。実は「ストップ」」

用件を話そうとしたギタラクルを、コウが遮る。
すでに横まで来ていた彼から視線を外し、窓の外に目を向けた。

「戻ってほしいんだけど」
「……………………」
「あ、ちなみに念で結界を張ったから誰も来ないわよ」

ギタラクルの考えを見破るようにコウが言った。
そんなコウに溜め息を一つつくと、ギタラクルは顔の針を抜き始める。
骨の変形する音がその場に響く。

「ヒソカは面白いって言うけど…はっきり言って気持ち悪いわよね」

音が止むと、ギタラクルは元の姿へと戻っていた。
ストレートの黒髪が、彼の動きに合わせて揺れる。
その姿に満足したコウは、にっこりと微笑んだ。

「やっぱりその姿の方が落ち着くわ。念でわかるとは言え…イルミじゃないみたいだものね」
「そう。俺はキルにばれないか心配なんだけど…?」
「思ってもない事を」

クスクスと笑うコウに、イルミは本題だけど…と用件を切り出す。
僅かながら変化した雰囲気を読み取ったのか、彼女もその表情に真剣さを宿す。

「父さんからの伝言。『出来ればハンター試験後そのまま帰ってきてくれ』だって」
「何か不備でもあったの?」

直帰を求められると言えば仕事関連以外には思い浮かばない。
試験に行くと言って屋敷を出る前に頼まれた仕事に関してはキチンと終わらせたはずだが…と首を傾げる。
そんな彼女の反応にイルミは首を振った。

「新しい仕事を頼みたいって。今度は出来ればそのまま情報の説明と操作をしてもらいたいみたいだよ」
「あぁ、なるほど。珍しいわね。シルバさんがそのまま真正面から行かずに情報を操作するなんて」

元々実力を持つゾルディック家の彼らがあれこれと裏工作をする必要など殆どない。
実力で押し切ればいいだけの話なのだから。
それをしない時といえば…相手の数が数百ではなく千単位まで行く時。
もしくは、相手組織が大きすぎる時くらいだ。
今回もそのどちらかなのだろうと、コウは瞬時に判断する。

「で、返事は?メールで返さなきゃならないから」
「あぁ、そうね。もちろんYesよ。試験の後特に用事もないから問題ないわ」
「じゃあ父さんにはそう連絡を返しとくよ。あ、それから…。帰りは俺の飛行船で帰るから」

ポケットからケータイを取り出し、それを操作しながらイルミがそう付け足す。
その言葉にコウが嬉しそうに笑った。

「ありがとう。助かるわ。試験の後はこの子をゆっくり休ませてあげたいと思っていたから」
「そう言えばずっと具現化したままだよね。疲れないの?」

空いた手でルシアの頭を撫でながらイルミが問う。
コウはゆっくりと首を揺らした。

「大丈夫。もう具現化は日常の物になっているから」
「ふぅん…所でスノウは?」
「今は休んでもらっているわ。ルシアだけでも十分だったし…ハンター試験とは言え、何があるかわからないから」
「保険、って事?」

イルミがそう問えば、コウは「そんなところね」と答えた。
彼女の返事を聞くとイルミはそれ以上興味をなくしたのか、顔から抜き去った針に手を伸ばす。
その様子を見てコウが口を開いた。

「もうギタラクルになるの?」
「このままで居たらキルが気づくでしょ」

顔に刺そうとした針をピタリと止め、その腕を下ろしてイルミは答える。
そんな彼の淡々とした返事にコウは少しだけつまらなさそうに視線を落とした。

「そう…よね」
「……………コウ」

彼女の様子にイルミは沈黙の後その名を紡ぐ。
ふと彼が前に立った気配とその声により、コウは顔を持ち上げた。
彼が目に映ると同時に、その唇にふわりとした感触を受ける。
珍しくもそのまま目を見開く彼女を前に、イルミは身体を引くとさっさと針を顔に差し込んで行く。

「………お、驚いた…。珍しいわね」
「あまりにも残念そうだったから」

あまり聞きたくない骨の変形する音と共に彼の顔はとても端整とは呼べないそれへと変貌する。

「もう、結界解いてもいいよ」
「あー…了解」

コウが細い指をパチンッと鳴らす。
同時に、どこかの出入り口から入り込んだと思しき風がふわりと二人の間を通り抜けていく。

『え――これより会長が面談を行います。番号を呼ばれた方は2階の第1応接室までおこし下さい。
受験番号1番の方。――――1番の方。どうぞ、応接室までおこし下さい』

口を開いたコウの声が出るよりも一瞬早く、頭上のマイクからそんな声が伝わってきた。
二人して無機質なそれを見上げる。

「…何か呼ばれたわ」
「みたいだね。行かないの?」
「行くけど…」

何と間の悪い、とコウは小さく文句を言う。
そんな彼女にイルミが肩を竦めた。

「これが最終試験?」
「さぁ?私も最終試験の内容は知らないから…まぁ、とにかく行って来るわ」

ギタラクルに手を振ると、コウはルシアを連れて第1応接室へと向かうべく歩き出した。

Rewrite 06.01.24