Free  act.10

「………ん…」

コウがゆっくりと目を開いた。
一番に視界に入ったのは、銀色の尻尾。

「…ルシア………おはよ」

コウは頬を舐めていたルシアの頭を撫でる。
んー、と腕を伸ばして軽く伸びをすると、きょろきょろと周りを見回した。
コウが寝ていた間に、何人かの受験生が集まってきていたようだ。
時計で確認すると、残り時間はすでに5分を切っていた。

「うわー…かなり寝てた…?」
「うん。ぐっすり寝てたね」
「……………そう言えば、ヒソカの隣で寝たんだっけ」

独り言のつもりだったのに、返事が返ってきてしまった。
その聞き覚えのある声に、コウが顔をしかめる。

「我ながら大胆なことしたね…。命はともかく貞操の危機だよ………」
「………言うね」
「まぁね。……で、ゴンたちはまだ?」

コウはゴンたちの姿がないことにようやく気づいた。
ヒソカは何も言わない。
その沈黙を肯定ととって、コウはルシアに手をついて立ち上がった。

「あー…イルミはちゃんと来てるね」

コウの声が聞こえたわけではないだろうが、ギタラクルがふとこちらを向いて歩いてくる。
その奇怪な容姿からか、受験者が彼と目線を合わさないようにしている様子が何とも笑いを誘う。
尤も、それで笑えるのはコウくらいのものだが。

「やっと起きたんだ?」
「うん。おはよ」
「………寝るのは別に構わないけどね。コイツの傍で寝るのはどうかと思うよ」

コイツ、の部分でちらりとヒソカに視線を向け、ギタラクルは言う。
ヒソカが「酷いなぁ」と愉快そうに笑みを深めるのを横目にコウは頷いた。

「私も思ったわ。ま、ルシアがいるから大丈夫だけど」

そう言ってコウは微笑む。

「君が見張ってたんだから手を出せるはずがないだろう?」
「…そうなの?」

ヒソカのクツクツと言う笑いと共に紡がれた言葉に、コウが驚いたようにギタラクルを見た。
彼はふいと視線を逸らして歩き出す。
その行動が否定ではないとわかるのは彼女くらいだろう。

「大事にされてるなぁ、私」
「クロロに話せば面白いことになりそうだね」
「………お願いですから止めてください」

心底嫌そうに眉を寄せたコウに、ヒソカは笑みを深めた。











「キルアも居ないのね…まぁ死んだって事はないだろうし…。気にするほどでもない、か」
「いいのかい?弟だろう」
「義理の、ね。そんなに柔な弟じゃないし…ゴンだってあの人の息子だし。…いらぬ心配でしょ」

寝ていた所為で緩んだ紐を、シュルッと解く。
コウの綺麗な銀髪がさらりと重力に沿って流れた。
今まで色々な方向を見ていた受験生達が、その髪に視線を奪われる。
慣れた手付きでその髪をほぐすと、今度は低い位置で髪を束ねた。














――ゴォン――

鈍い音をさせて、数ある扉のうちの一つが開いた。
中から出てきたのは、血を流しよろけている男。

「フ フ フ 。間に合った………ぜ」

そう言って、男は地面に倒れこんだ。
コウはその様子に視線すら向けない。
三人組の男が倒れている男の傍に寄るが、彼らの反応を見るなりどうやら男は力尽きたようだ。


その時、ルシアが反応を示す。
それと同時に、コウも扉の一つを凝視した。

――と、その扉が鈍い音を立てて開く。

出てきたのは、ゴンとキルア。
それと、金髪の男だった。

「(かなりギリギリみたいだけど…合格に変わりはないし。あの金髪の子は…クラピカ…だったかな。)」

ゴンたちの無事を自分の目で確かめたことで、コウは安心した表情を見せる。
彼らの後から二人の男が到着した。
どうやら彼らは同じ道を来たらしい。

『タイムアップ―――!!第3次試験、通過人数26名!!(内1名死亡)』

スピーカからの声がその部屋に響く。





















「コウ!!」
「んー?あ、ゴン」

船のデッキから海を見ていたコウは、後ろからゴンに呼ばれた。
どこか不自然な笑みを浮かべているゴンに、コウが目聡く気づく。

「どうしたの?」
「ね、コウは何番引いた?」
「んー…何番だったかな…。ま、ゴンじゃないから安心していいわよ」

ごそごそとポケットを漁ると、目当てのものを見つけてゴンに投げる。
ゴンはそのカードをキャッチすると番号を見る。

「198番…?」
「そ。誰のかはわかってるから問題ないわ」
「俺と一番違いじゃん」
「「!!」」

突如聞こえた別の声。
二人が顔を上げると、そこにはキルアがいた。

「へぇーじゃあ、キルアは197番?」
「外れ!俺のは199番。コウは誰だかわかるのか?」
「目星は着いてるよ」

コウの答えにキルアはにこっと笑う。
嬉しそうと言うよりは悪戯を企む少年のような表情を浮かべた弟に、コウは彼が次に何を言うのかがわかった。

「教えて」
「嫌」

一秒と間を置く事なく、コウは見惚れるような微笑みを浮かべて切り捨てる。
途端に膨れた表情になる彼が可愛くて仕方がないコウだった。

「………何も即答しなくてもいいだろ!」
「自分の力で取らないと面白くないでしょうが」
「確かにそうだけどさー…情報くらいくれても…」
「はいはい。不貞腐れないの」

頬を膨らませたキルアの頭を、コウは優しく撫でた。
その時、キルアは気づく。

コウの纏う、素直に甘えたくなる空気が義姉に似ているのだと。
意地や恥ずかしさなど全て放り投げて縋りたくなるような、そんな優しい雰囲気。

「(他人と思えって方が無理だろ…。)」

そんな事を考えながら、キルアは髪を梳くコウの指を楽しんでいた。
そして、二人は思い出したようにゴンを振り返る。

「「で、ゴンのターゲットは?」」

二人の声が被る。

Rewrite 06.01.21