Free act.09
『1番、コウ。3次試験通過第二号!!所要時間6時間20分!』
広い空間の中に、スピーカからの声が響いた。
数十個もある扉の一つから、ルシアに乗ったコウが姿を現す。
彼女はその部屋の中に着くと、ルシアの上から降りて適当な壁際まで歩いた。
「やぁ。やっぱり君が二番だったね」
「…ってコトは…ヒソカが一番?」
壁に背を預けて座り込んだところで、コウはヒソカに声をかけられた。
少し面倒そうに顔を上げたコウ。
コウの問いかけにヒソカが頷くのを見て、より一層眉を寄せた。
「…負けるつもりなかったのになぁ…遊んだ分が余計だったわね」
「何かあったのかい?殺気が出てるよ」
「………わかってるならあんまり私に近づかない方がいいわよ」
今酷く機嫌が悪いから、とコウは言う。
そんな彼女に、ルシアが心配そうに寄り添ってくる。
ルシアの毛に指を絡めて、コウはただ視線を落としていた。
ふと、ポーチの中のケータイが光っているのを見て、コウがそれに手を伸ばす。
カチカチとボタンを操作してメールの確認をした。
その画面を見つめるコウの視線が和らいだのを、ヒソカは見逃さない。
ここで漸くコウの放っていた殺気が跡形もなく消え去った。
「……クロロかい?」
「ん」
殺気が消えたのをきっかけに、ヒソカがコウより少し離れた位置に腰を降ろした。
コウはケータイをパタンと閉じると、軽く身体を伸ばす。
そして、横に座っていたルシアにもたれて、目を閉じた。
「………変なことしたら消すから」
「はいはい。ゆっくり休みなよ」
ヒソカに釘を刺すと、コウは眠りの世界へと落ちていった。
コウが身体を休めるために仮眠を取っている頃――
ゴンたちはとある部屋の中で50時間を過ごしていた。
中にいるのは、ゴン、キルア、レオリオ、クラピカそしてトンパである。
彼らが進んだのは多数決の道。
囚人と時間をチップにした賭けにより負け分を払うために、一日以上の時間をその場で過ごさなければならなかった。
「………キルア、さっきの技はどうやったんだ?」
クラピカがキルアにそう問いかけた。
さっきの、と言うのは囚人との勝負中の話だ。
キルアが懲役968年の大量殺人犯相手に、そいつの心臓を抜き取ったのだ。
その鮮やかな手さばきは、気がつけば相手の心臓が身体を離れていたように見えた。
「技ってほどのもんじゃないよ。ただぬきとっただけだよ。ただし、ちょっと自分の肉体を操作して盗みやすくしたけど」
キルアが手を前に出すと、それがビキビキと音を立てて変形していく。
そして、キルアの爪が鋭く伸びた。
その様子にゴン、レオリオ、クラピカが驚いている。
「殺人鬼なんて言っても結局アマチュアじゃん。オレ、一応元プロだし。
オヤジはもっとうまく盗む。ぬきとる時相手の傷口から血が出ないからね」
鋭く尖った爪で床に傷をつけながらキルアは話す。
そしてふと思い出した人物に、自然とその表情を緩めた。
「ま、それ言ったら姉貴も結構すごいんだけど。心臓だけじゃなくて、他の内臓の位置まで全部覚えてるから」
「え…キルア、お姉さんいるの?」
驚くゴンに彼は頷く。
操作した肉体を元に戻し、己の指同士を絡めながら彼は続けた。
「まぁ、兄貴の婚約者だから…義理の、だけどな」
「へぇー。どんな人?」
「めちゃくちゃ美人」
どんな人?と尋ねられて即座に美人と答えるキルア。
それ以外に彼女を示す言葉がないようにも思えるが、何よりもそれが抜きんでていると言う証拠だろう。
キルアの回答に食いついたのは他でもないレオリオだった。
「何ぃ!?どんなお嬢さんだ?」
「あー…雰囲気は………コウに似てる」
「「コウ?」」
新しく聞く名前に、レオリオとクラピカが声を合わせた。
そんな彼らの反応に、ゴンとキルアが「あぁ」と思い出したように言う。
「話してなかったっけ。すごく綺麗で優しい人!受験番号は…何番だっけ?」
「受験番号、1番だよ。銀髪ででかい狼を連れてる奴。リミ…何やらって言う狼だっけな」
さすがにあの長い名前を一度で覚える事は出来なかったらしい。
キルアは思い出すように視線を彷徨わせるが、結局は無駄に終わった。
彼女の特徴を耳にしたクラピカが口を開く。
「あぁ…確か1次試験で前の方にいたな…あの女性か?」
「多分、クラピカの言う人で間違いないと思うよ。1次試験、誰よりも先を走ってたから」
「!?クラピカ!お前まで会った事あるのか!?」
「会っていない…。ただ、後姿が印象的だったからな」
どこか繊細さを漂わせるが、しかし何故か頼れるようなその後姿。
強靭な肉体を誇る男性ですら息を乱していたあの試験でも、余裕の笑みすら浮かべていた姿は印象的だった。
初めの頃狼に跨って自分では走っていなかった事を差し引いても、彼女の強さは明らかだと思える。
「確か…あの44番とも顔見知りのようだったな」
クラピカの呟くような言葉に肩を震わせたのは、一人会話に入っていなかったトンパ。
新人つぶしの名を持つ彼はもちろん今回が初の参加となるコウにも目をつけていた。
だが、傍にいた44番もといヒソカと彼女に付き従う巨狼の所為で、彼女に近づくことすら出来なかったのだ。
キルアたちの会話を聞き、今更ながらあの時手を出さなかった自分を褒めてやりたくなった。
「(あんな化け物の知り合いだったとはな…危なかったぜ。)」
トンパの心中を知る者は誰も居ない。
「…レオリオ、1次試験は大変だったもんね…」
「うるせーよっ!!」
ゴンの無自覚の嫌味にレオリオが噛み付いていく。
何やら賑やかになってきたところで、キルアは一人考え事をしていた。
「(雰囲気は…めちゃくちゃ似てるけど…。他人の空似、なのかなぁ…。)」
コウと義姉……二人を思い出して、キルアは頭を悩ませていた。
Rewrite 06.01.21
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