Free act.08
ハンター協会の飛行船から降りると、そこは何もないタワーの頂上だった。
本当に何もない、ただの床が一面に広がっている。
「制限時間である72時間以内に、生きて下まで降りてくること」
それが、三次試験の内容だった。
コウはゆっくりと観察するように床の上を歩く。
一瞬、今までの足音とは違う音がした。
それをコウが見逃すわけもなく…
コウはルシアを近くに呼ぶと、ひらりと上に乗った。
そして……………回転扉を潜る。
「やっぱりね。一度通ったら鍵がかかる仕組みになってるのか…」
ルシアから降りると、コウは先ほど通ってきた回転扉を見上げた。
何本もの鉄が、その扉が開くのを封じている。
「さて…少しは楽しませてくれそうね」
その部屋にあったドアの上に、説明書きがあった。
それを読むと、コウは口の端をあげる。
コウが嬉しそうに声を上げながら、一番初めの扉のドアに手をかけた。
彼女の通った道は―――
「あなたなら来てくださると信じていましたっ!!」
コウは目の前の状況を理解できずに、思わずその場に固まっていた。
――バトルの道――
そう書かれていた。
確かにそう書かれていたはずなのだが…目の前には何故かバラを銜えたヒソカも真っ青な服装の男。
「…状況を確認させていただけます…?」
「どうぞ?何でも質問してください!」
「………まず、ここは“バトルの道”…ですよね?」
「はい。確かに」
ニコニコと笑みを絶やさずに答える彼に、コウは嫌悪を露にした。
それすらも嬉しそうなので即座に表情を消したが。
「……二つ目。あなたは試験官ですか?」
「いいえ。この道を預かっているだけです」
「…最後です。………私、少しは期待してたんですけど…期待はずれですね。通してくれません?」
「それは無理ですよ」
にこやかに返されて、コウは背筋が逆立つ思いだった。
ルシアがコウを支えるように傍に擦り寄ってくる。
「さて!美しいあなたをこの目で見ることも叶いましたし…早速試験に入りましょうかっ!!」
「………(私、こいつ嫌いだ…)」
コウはこの男に生理的嫌悪を感じていた。
「ルールは簡単!あなたには攻撃を受けた人数だけ戦っていただきます」
「攻撃を受けた人数…?」
「そう!あなたが三度攻撃を受ければ、その後三人と戦う。こういうことです」
「あぁ…ようは無傷なら誰とも戦わない…ってことね」
「流石っ!!!私の見込んだ女性です!場所がここでなければ即お持ち帰り……」
――ヒュンッ――
男の顔の横を、ナイフが通り抜けた。
カツンっと音を立ててナイフが向こうの壁に刺さる。
「くだらない事を言っていないで…さっさと始めましょうか?」
よっぽどこの男が嫌いならしい。
コウは引きつった笑みを浮かべてナイフを構えていた。
男は、満足!と言った風に何度も頷くと、後ろの扉を開いた。
「実に私好みです。あ、申し送れました。私、トエルと申します。以後お見知りおきを」
「ご丁寧にどうも。でも覚えないわ」
「これは手厳しい…さて、では一人目と戦っていただきましょうか」
「…死んでも知らないわよ」
「ご安心を。強い奴を選りすぐりましたから」
「どうかしらね」
扉が開ききると、奥から行き成り飛び出してきた。
コウは慌てることなくそれを避けると、飛び掛ってきた男の首筋にナイフの柄を強く落す。
それだけで一人目は片付いてしまった。
「全部避けていたら、どうなるの?」
コウがトエルに尋ねる。
トエルは笑みを浮かべると、楽しそうに答えた。
「まだ彼は倒れていませんよ」
トエルが言い終える前に、男がコウに腕を振り上げてくる。
コウはそれを軽く腕で往なすと、床を蹴って間合いを取った。
「往なしてもカウントに入りますから」
「そう言うことね…」
コウは楽しそうにペロッと唇を舐めた。
一人目にコウはかなりの時間をかけた。
そして、カウントは20を超える。
その時―――
「…面倒になってきた…」
コウが呟く様にそう言った。
すでに、足元には囚人達の山が出来上がりつつある。
「一気に出してくれない?時間が惜しいわ」
「死んでも知りませんよ?」
「その心配は無用よ」
トエルが合図を出すと、周りのいくつもの扉が一斉に開いた。
出て来た囚人の数は、10人以上。
それを見ると、コウはニヤッと口の端をあげた。
「さーて…時間も労力も惜しいから…これからは殺させてもらうわね」
悪く思わないで頂戴、とコウはわざと挑発的な声で言った。
それに触発された囚人が、一斉にコウに飛び掛ってくる。
周りの人間の所為で、コウの姿は見えなくなった。
トエルはその様子を見ながら不敵な笑みを浮かべる。
「その性格も魅力的ですが…選択を誤りましたね」
「誰が?」
トエルが勝ち誇ったように呟いてから数秒。
いや…十秒も経っていない。
が、その場に立っているのはコウのみだった。
「侮らないでくれる?これでも本職は殺しなのよね…」
コウは冷たい笑みを浮かべながら、トエルに一歩ずつ近づく。
足元には、血の池が出来ていた。
彼女が歩けば足元の赤が跳ね、その水面が揺れる。
「元々あるスイッチを入れるのなんて、すごく簡単。
この試験で殺しはしないつもりだったけど…あなた、凄く癇に障る奴だから」
手に持っていた血の付いたナイフを放す。
カランという音を立て、ナイフが赤い液体に塗れる。
コウは足に着けていた銃を抜くと、真っ直ぐトエルの頭に当てた。
「選択を誤ったかどうかを決めるのは、私自身。あんたじゃないんだよ」
「あ…ああ…っ」
彼女の鋭い眼差しに中てられたのか、すでに正常な言葉すらない。
「私の名前はコウ=スフィリア。…死に行く者へのせめてもの手向けよ」
一瞬でも彼女の名前がトエルの記憶に残っただろうか。
コウの指が軽く動いていく。
「さようなら」
銃声が、響いた。
Rewrite 06.01.17