Free  act.06

詐欺師の塒。
そう教えられたにも拘らず、受験者たちは混乱していた。
傷だらけでサトツが偽者だと言い張る男の出現によって。
もちろん、コウはそれに口を出すことはなかった。

「(とんだ甘えん坊が参加してるわね。サトツさんは常に念を使って…まだ念の存在を知らないんだっけ…。)」

そんなことをのんきに考えながら、コウはすでに少しずつ歩き出していた。
そして、ふと立ち止まる。

「…試験官を置いて先に第二次試験会場まで行ったら合否判定が危ういわね…」

手を出さないと試験が再開されないと判断したコウは、腰に付けてあるナイフを抜き取った。
その時、何かが空を切る音がし、何人かの声が聞こえる。
コウが首だけ振り返ると、そこにはトランプを投げるヒソカの姿があった。

「…ヒソカが出たなら私が手を出すまでもない、か」

そう言うと、ナイフを鞘の中に戻してルシアにもたれ掛かる。
サトツの忠告が入り、そしてようやく試験が再開された。














「やっと到着か…」

開けた場所に着くと、サトツはここが二次試験会場だと伝え、姿を消した。
後半は真面目に自分で走って参加していたコウだが、相変わらず息を弾ませる様子すらない。
肩で息をする者、地面に倒れこむ者。
それぞれに疲れた様子の受験者の横を通りぬけ、彼女は建物の脇まで歩いた。
コウは締め切られた建物の壁にもたれるように座ると、ケータイを操作する。
受信欄を確認すると、先ほど目にした名前があった。

――――――――
仕事は完了した。言われたとおり盗って来たぞ。アジトで預かっておく。
――――――――

「…早…。オークション中に盗りに行くのかと思ってたけど…もう行ったのね」

彼らがオークションを待つわけがないか…と納得する。
そのメールに返事を送ると、コウは軽く溜め息をついた。

「コウ」
「んー?あぁ、キルアね。どうしたの?」
「別に。ただ暇だから来てみただけ」
「ゴンは…ってあの子どこかに走り去ってたわね」

そう答えればキルアは「何で知ってるんだ?」と言う風な視線を向けてくる。
得意げな笑みを浮かべ、コウは傍らに伏しているルシアの頭を撫でた。

「ルシアが教えてくれたから」

ルシアの頭を優しく撫でながら、コウが言った。
キルアは面白くなさそうな顔をする。

「友達を助けに行っちゃって…寂しい?」
「バッ!そんなんじゃねぇよ!」
「目的地に辿り着けるかわからないこの霧の中を助けに行くなんて…あの人の子らしいわね」
「…あの人…?」
「企業秘密」

人差し指を唇に当てて微笑むコウに、キルアは思わず視線を逸らした。
不意に、横にいたルシアが急に首をもたげる。
コウに何かを伝えるようにその鼻を寄せると、コウは不敵に微笑んだ。

「キルア。あの子は大した運の持ち主だよ」

コウが指さした方を見ると、レオリオに駆け寄るゴンの姿があった。
それを見ると、キルアはコウのことを忘れてゴンの方に歩いていく。

「くすくす…可愛いなぁ、ホントに…」

去っていくキルアの背中を見送りながら、コウは母親のような優しい笑みを浮かべていた。
幼い頃から彼を見てきただけに、あのように対等な友人を得られたことが自分の事のように嬉しく思う。
どれだけ可愛がろうとも、自分は彼にとって「姉」にしかなれなかったから。




ふと、ケータイの画面を見て、時間が近いことに気づく。
立ち上がると、腰に付いた土をパンッと払う。
そして、ゆっくりと扉が開かれた。
















「二次試験スタート!!」

試験官の掛け声と共に、一斉に走り出した受験者たち。
コウはその様子をまるで他人のように見送っていた。
いつも彼女の傍らに佇んでいたルシアの姿がない。

「ちょっと~!?受験番号1番さん?あんたは行かないわけ?」
「…そんな他人行儀な話し方しないでよ。メンチ」

コウはメンチの言葉に笑顔で振り返ると、到底初めて会ったとは思えない口調で答えた。
それに気を悪くした様子もなく、メンチはコウに近づいてきた。

「まさか試験官してるとは思わなかったわ。元気だったのね」
「コウも相変わらずね」
「そうそう変わらないって。半年くらいでしょ?会ってなかったの」
「メンチ、この人と知り合い?」

雑談に花咲かせそうだった二人に、ブハラが絶えかねて声を掛ける。
コウは思い出したように振り返ると、にっこりと微笑む。

「初めまして、コウです。受験番号は1番。メンチとは昔馴染みですよ」
「腐れ縁とも言うけどね」
「オレはブハラ。よろしく~」

丁度自己紹介を終えた時、林の中からルシアが姿を現した。
ルシアの体と同じくらいの大きさの豚を咥えて。
それをまるで空気のように引き摺ってくると、ルシアはコウの前に置いた。

「ん。ルシア、ご苦労様」

その豚を受け取ると、コウはポーチの中に手を差し込む。
取り出した手の中には銀色に光るライターと何かの粉が入った袋があった。
その袋の中から粉を豚の上に振り掛け、ライターの火をつける。

「危ないから気をつけてね」

そう一言忠告すると、コウはいつの間にか持っていた扇子で揺れる火を扇いだ。
豚の付近まで届いた火が激しく音を立てて燃え上がる。
しかしそれはほんの一瞬の事で、火は瞬く間に消沈していった。
いい具合に焼けた、豚の丸焼きの出来上がりである。
カチンッとライターの蓋を閉じるとそれをポーチに納める。

「あんた…一体何したの…?」
「ん?仕事の時に使う、人体無害の火力を増加させる粉。証拠隠滅したい時にオススメよ。いる?」
「…ライターの火でこのデカイ豚を丸焼きにするとは大したもんだわ。幾ら?」
「そうね…昔馴染みの料金で………って。ちょっと待って。試験中だって事忘れてたわ」

中々美味しそうな匂いが立ち込めている所為か、ブハラの腹の虫が鳴く。
それに気づいたコウは苦笑しながら彼に向き直った。

「さて。ご試食願えますか?」

Rewrite 06.01.06