Free  act.05

ルシアの背に横座りしながらコウは声の方を振り向いた。
元気の良い黒髪の少年と、見覚えのある銀髪の少年。
好奇の眼差しと探るような眼差しを受け、コウは安心させるような笑みを浮かべた。

「…君は?」

優しい声色で彼女は問いかける。
黒髪の彼はしまった、と言う風に苦笑を浮かべて自身の名前を告げた。

「俺はゴン=フリークス!こっちはキルアだよ!」

彼、ゴンは元気にそう答えた。
ゴンの家名の部分に、コウは気づかれない程度に驚く。

『フリークス』と言う名を持つ人物に覚えがあったのだ。
幼き自分にこの道を示してくれたのは、彼だったように思う。

懐かしむように目を細めた後、微笑みを浮かべて口を開くコウ。

「コウよ。ところで、何で私に声をかけたの?」
「目立ってたから。おまけに自分の足で走ってないし?」

ゴンに紹介された時には僅かながらに照れた表情を見せたキルア。
今ではすっかり調子を取り戻し、再び探るように彼は口を開く。

「あら、君が言える科白じゃないわね。走り出した頃には君のそれの音が響いていたわよ?」

コウは不敵に微笑むと、キルアの抱えているスケボーを指さした。
痛いところを突かれた彼は、黙り込む。

「女の人なのにこんな前に来てるからだよ!それに、綺麗だったから…」
「ありがとう。お世辞でも嬉しいわ」

照れた様子もなく、それでも嬉しそうにコウは微笑んだ。













「ねぇ、コウさん。その子も魔獣?」
「呼び捨てで構わないわよ、ゴン。この子は人語を理解するけど、魔獣じゃないわ」
「へー…そうなんだ。言うことがわかるの?」

ゴンはルシアに興味津々と言った様子だった。
ルシアの方も、彼が無害だとわかっているようで特に唸るでもなく大人しく視線を浴びている。

「私の言うことは全て理解するわ。君の言うことは…どうかしらね」

コウが首を傾げるようにそう言ってみれば、ゴンが「名前は?」と尋ねてくる。
ルシアの頭を撫で、コウは「ルシア」と答えてあげた。

「ルシアかぁ!よろしくね、ルシア!」

ゴンがそう言うと、ルシアは少しだけ答えるように尾を振った。
初対面でルシアが反応を示した事に、コウは心中で感心の声を漏らす。

「(さすがはジンの息子って所かしらね。まぁ、この場合は本人の内面が大きいだろうけれど。)」
「なぁ、アンタどっかで会った事ない?」

コウの考えを邪魔するようにしてキルアが問う。
そのつもりはなかったのだろうが、結果としてそうなってしまったのだから仕方がない。

「…記憶に無いわね。初対面だと思うけど…?」
「…ふーん…。何か知り合いに雰囲気が似てるんだよな。その狼も見たことあるし」

そう言ってキルアはルシアをじっと見つめる。
ルシアを連れて来たのはまずかったか…とは思ったが、コウは笑みを崩さない。

「この子はドーラムゼイスマウンテンの峰にのみ生息するリミッシュセパレイファウンドウルフ。
希少価値の高い動物ではあるけれど、主人に忠実だから珍しいわけでもないわ」
「………は?どーらむ…?」
「ドーラムゼイスマウンテン。もう一度説明する?」

そう問いかければキルアは勢いよく首を横に振った。
お願いしますといえば一からといわずにゼロから教えてくれそうな勢いだ。

「姉貴とは別人だってよくわかったから」
「(まぁ、野生は凄く強暴だし、滅多に懐くものでもないし…相棒にするのは私くらいだけど。)」

コウが心の中でそんな事を思っていたことなど、キルアが知る由もない。














キルア、ゴンと並ぶように走る事数十分。

「あとどれくらいあるんだろうね?」
「そうね…そろそろ第一の関門って所かしら」

コウの言葉に二人が首を傾げた。
そんな彼らの仕草にクスリと笑い、コウは前を見つめる。

「じゃ、私は先に行かせてもらうわ。君たちも頑張ってね」

コウはルシアから飛び降りると、サトツの所まで走り寄った。
ゴンたちはそのスピードに驚いた。
先ほどまで走っていなかったとはいえ、コウの速さは普通では考えられない。
一瞬のうちにサトツの隣まで移動したように見えた。

「サトツさん、私先に行きますから。こんな調子じゃルシアもペースが崩れますし…」
「…そうですね。特別に許可しましょう。しかし…」

それに続くであろう言葉を悟り、コウは頷く。

「大丈夫。出口のところで待ってますから」
「わかりました」

コウはサトツの答えに満足したのか、にっこりと微笑むと再び加速する。
瞬きの間に、コウとルシアの姿はサトツの前から消える。
彼女が消えていった先には、延々と続く階段が受験者を待ち構えていた。















コウはものの一分もしないうちに、数百段はあるだろう階段を抜けて出口へと来ていた。
肺に溜まった地下の淀んだ空気を一掃するように、コウは深く息を吸い込む。
この場も決して爽やかな空気とは言えないが…地下よりはマシだろう。

「…45秒か…ちょっとかかり過ぎたね」

コウは全く息を乱す事なく、腰のベルトに通してあった腕時計を見た。
横ではルシアが軽く伸びをしている。
二人とも、まだまだかなり余裕があるようだ。

「さて、と。今のうちにシルバさんに報告を飛ばしておきましょうかね」

コウはそう言うと、首元から銀色のチェーンを引き出した
その先には、同じく銀色の細い笛がついている。
それを軽く唇に咥えると、コウはそれに息を吹き込んだ。

―――が、音はしない。

それから少しして、鳥の羽音が近づいてきた。
コウはその鳥の姿を確認すると、どこからともなく布を取り出して腕に巻きつけ、それを高く掲げる。
それを目指して、一羽の鳥が真っ直ぐに舞い降りた。

「わざわざごめんね、ダーク。さすがに地下に呼ぶわけに行かなかったからね」

そう言うと、コウは自分の腕にとまった漆黒の羽の鳥の頭を撫でる。
嬉しそうに目を細めて高く鳴くそれは、どうやら鷹のようだ。
コウはポーチから例のケースを取り出し、ダークの足に付いている筒の中にそれを滑り込ませた。
パチンとそれが閉じたのを確認して、コウはダークを空へと放す。
ダークはそこから離れることなく、コウの頭上で円を描くように飛んだ。

「シルバさんに届けて」

コウが言うと、ダークは一声鳴いて、高く空へと舞い上がった。
















コウが用事を済ませた頃、サトツを先頭にポロポロと受験者が出口へと辿り着き始めた。

「へぇ…もう少し減るかと思ったんだけど…」

コウは辿り着いた受験者の数を見て、ふむ…と頷いた。

「「コウ!」」
「はい?あぁ、ゴンにキルアか。君たちは無事に辿り着いたみたいね」

振り向いた先に居たのはキルアとゴン。
彼らは僅かに息を乱してはいたが、他の受験者よりも比較的楽そうだった。

「うん!さっきはビックリしたよ。先に走って行っちゃうんだもん」
「だよなー。試験官を放っていってどうすんだよ」
「だって…あんな調子じゃルシアが可哀相でしょう?」

そう言うと、二人は呆気に取られたような表情で間抜けに口を開いていた。
そんな彼らにクスクスと笑い、コウは再び言う。

「キルアは余裕そうね。ゴンももう少しは行けそうかな?」
「うん!」「当たり前!」

気がピッタリの二人に、コウは思わず微笑みを浮かべていた。
キルアの楽しそうな笑顔を見て、コウは複雑な気持ちを抱えている。
もちろん、それを顔に出すほど未熟ではなかったが。
二人と会話をしているうちに、サトツによるヌメーレ湿原の説明が始まった。

Rewrite 06.01.06