Topaz  親友恋愛物語  04

「今度の被害者は青学マネージャーさんなんだ?」

紅と悠希の進路に立つ三人のうちの一人が楽しげな声を上げた。




「……で、悠希。明日の事なんだけどさ…」
「うん。部活でしょ?」
「そろそろ大会に向けて練習が厳しくなってくると思うの」
「確かに。私たちの仕事も忙しくなりそうだよね。頑張らなきゃ!」

彼女らを一瞥した後、二人は特に反応する事もなくその横をすり抜けた。
唖然としたまま彼女らを見送ってしまった三人が慌てて我に帰る。

「ち、ちょっと!!無視するんじゃないわよ!!」
「そこの佐倉悠希と雪耶紅!!あんたたちに話してるのよ!?」

名指しの言葉に二人は面倒くさそうにゆっくりと振り向いた。

「悪いけど、呼び出しとか待ち伏せとかって慣れてるのよね」
「そうそう、さっさと終わらせてくれる?」

三対二で数としては有利なはずなのに、二人は怖気づいた様子など微塵も見せずに彼女らを見つめ返す。
逆に二の足を踏んでしまう三人。
そんな彼女らを見て、紅と悠希は長く溜め息を漏らした。

「用件のみ簡潔にどうぞ」
「紅も私も暇じゃないのよ。さっさと口割らないなら無理やりにでも聞いてあげようか?」

紅の言葉に続けるようにニッと笑みを深めた悠希。
そんな親友に紅は思わず口を開いた。

「それ、どっちが悪役かわからないわよ…」

………彼女の言う事ももっともだ。
気を取り直して、とばかりに深呼吸した後、三人のうちの一人が声を上げた。

「宍戸くんの事好きなんでしょ?」
「…恋愛対象としての話なら、好きよ。それが何?」

悠希が彼女の言葉に答える。
話の内容からして自分に対してでないと分かった紅は、すぐに口を閉ざして傍観者へと成り代わる。
口出しする事を悠希が望まないと、わかっているからだ。
悠希の答えに女子生徒は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

「ふぅん…?かわいそうだなぁと思ってね」
「“かわいそう”…ね…」
「この子、宍戸くんと付き合ってたのよ」

そう言って彼女は隣に居た女子生徒を指す。
指された彼女は僅かに胸を張るようにその隣へと進み出る。

「氷帝の中では一番長く付き合ってたって話なのよね」

自慢するような口調に悠希の隣に居た紅が眉を寄せる。
こういうタイプは紅の最も苦手……を通り越して嫌いとするタイプだ。

「あれだけ分かりやすいくらいに恋する乙女になっちゃってるんだから…悔しい?」

沈黙する悠希を見てそう感じたのだろうか。
自称宍戸の元彼女は悠希に向かってそう問いかけた。

「別に悔しくはないわね」
「…は?」
「元彼女って事が自慢になるの?彼はブランドじゃないわよ」

呆れて言葉が出てこなかったわ、と悠希は溜め息交じりに告げる。
その様子に彼女らしいと思い、紅はクスリと笑った。
しかし、それが三人を逆上させる結果となってしまったらしい。
カァッと頬を染めた後、声を荒らげだした。

「ふざけないでよ!宍戸くんのことわかった風に言わないでっ!!」
「大体部活中に迷惑だと思わないの!?」
「他校生がでしゃばらないで!!あなただって捨てられるに決まってるわ!!」

立て板に水の如く怒鳴り散らす彼女らに、紅と悠希は顔を見合わせた。
女子特有の甲高い声が耳に痛い。

「うるさ…」

ポツリと呟いた声を拾った一人が、紅に向かって手を上げた。
冷静を欠いているなぁと思いながらも、彼女は静かにそれを見送る。

―― こう言うのは一度叩かせて落ち着かせるに限る。

これが紅の考えだった。

「女が手なんか出したらあかんって」

来ると思っていた衝撃はなく、代わりに覚えのある声が耳に届く。
何とも絶妙なタイミングにまるで漫画のような展開だな、と紅は思った。

「お、忍足くん!?」

声を上げる彼女ではなく、紅の方に向けて笑う彼。
そして、掴んだままだった腕を若干乱暴とも思える仕草で振り払い、彼女を見下ろして言う。

「この子、俺の大事な彼女やから。今度手出そうとしたら許さへんよ?」

三人が思わず口を噤んだ頃、もう一人の足音が近づいてきた。
忍足の後方に目を向けた悠希が驚く。

「し、宍戸?何で…?」
「忍足に連れてこられた。何で急に走り出したんだよ?」
「ピンチには助けに入らんとあかんやろ」
「……わけわかんねぇ…」

聞くだけ無駄だったというような口調で宍戸は息をついた。
そして顔を上げるとその場の彼女らを見回す。

「…で、この集まりは何だ?」
「ちょっと、色々とね…」

宍戸はまともな返事が返ってくるだろうと判断した紅に問いかける。
が、彼女も微妙に言葉を濁してしまった。

「ほら、この子…部活中に亮の邪魔してたでしょう?」
「そうよ。だから一言言っておこうと思って…」
「それにね…」
「ちょっと、何言うつもり?」

立て続けに話し出す彼女らを見て、沈黙する悠希の代わりに紅は口を挟む。
しかし、彼女らの口は止まらなかった。

「佐倉…さんだっけ?亮のこと好きなんだって」

告げられた事実に驚いたのは宍戸。
やってしまった、と額に手をやったのは忍足だ。

「あなたが言うことじゃないでしょ!?」
「あ、ごめんね?口が滑っちゃった」

悪びれた様子もなくそう言った彼女に紅は思わず手を握り締めた。
そうしなければ渾身の力を込めて彼女を殴っていただろうから。
顔をうつむかせた悠希を見て、宍戸が躊躇いがちに口を開く。

「…………………本当…か?」

彼の声に悠希は顔を上げた。
そして笑顔を浮かべて頷く。

「うん。私、宍戸のこと好きだよ。言うつもり…なかったんだけど」

驚かせてごめんね、と付け足す。
答えを聞いた彼は口元を覆って考えるように視線を落とした。
そして、何かを決めたように顔を持ち上げる。

「…今、関東大会前だって知ってるよな?」
「もちろん。一回戦はうちとだからね」
「あ、そうか。あー…だからよ………………部活に集中したいんだ」

その続きを選ぶように一旦口を閉ざす宍戸。
そんな彼の言葉を遮るかのように、女子生徒の一人が声を上げた。

「ほら!だから言ったでしょ!!忙しいんだから邪魔しないでよ!」
「お、おい。何言ってんだよ。俺は別に…!」

宍戸は慌てたようにそう言った。

「迷惑かけてごめんね、宍戸。聞いてくれて…ありがと」


笑顔のままに言うと、悠希は「先帰るね」と紅に言い残して走り去る。

「え…悠希っ!!」

背中にかかる紅の声にも、彼女は止まらなかった。

05.09.27