Topaz 親友恋愛物語 03
「お疲れ様」
彼らの試合が終わって、部活は一時休憩時間となったらしい。
わらわらとコートから出て行く面々を見送り、紅と悠希は目的の人物を待っていた。
最後に出てきた彼らに、紅は笑顔と共にそう声を掛ける。
「お、お疲れさま…」
僅かに視線を泳がせながらそう言った悠希。
紅が彼女の後ろで笑いを堪えていたと言うのは、彼女自身には秘密の事。
「ありがとうございます、雪耶先輩、佐倉先輩」
「どういたしまして。向こうでタオル配ってたわよ」
紅が鳳にそう言うと、彼は貰ってきますね、と言って彼女が指した方へと駆けて行った。
試合の後だと言うのに体力は有り余っているらしい。
「岳人、俺の分も頼むわ」
「おう!待ってろよな!」
そう言って向日も鳳の後を追う。
残された四人の間に微妙な沈黙が過ぎった。
とは言え、その空気を作り出しているのは一名だけなのだが。
もの言いたげに視線を向けてくる悠希の視線を綺麗に無視して、紅は忍足の方を向く。
「…どうした?」
「な、何でもないっ!」
「……風邪か?」
「いたって健康ですっ」
「??」
―― 明らかに挙動不審である。
いつの間にか少しだけ離れた所に移動していた紅は声を出さないように必死だった。
「…紅…」
「いや…っ、わかってるんだけ、ど…ね?あそこまで挙動不審だと、逆に怪しすぎ…っ」
「あー…わかったわかった。とりあえず落ち着きや」
苦笑交じりに彼女の背中を叩く忍足。
本当に親友の恋を応援する気があるのだろうか、と一瞬思ってしまった。
彼女の反応を見れば楽しんでいるだけにも思える。
「あ、とりあえず落ち着いたみたいね」
紅が悠希の方を見てそう言った。
忍足が「紅もな」と思っていたことなど知る由もない。
若干オーバーリアクションに思える部分も多々見られるが、先程よりは随分落ち着いたらしい悠希が見えた。
それに安堵の表情を浮かべる紅を見れば、先程脳裏を過ぎった考えを拭い去る事など簡単だ。
「宍戸さん!お待たせしました!それから、跡部先輩が呼んでましたよ」
「さんきゅ。じゃあな、佐倉」
「ん。頑張って」
悠希が手を振れば宍戸は笑って「おう」と答えた。
それから跡部が居たと言う部室に向かって歩いていく。
鳳も彼女に声をかけると彼を追って部室へと歩いていった。
「…わかってたつもりなんだけどね…?」
「………多分考えとる事は同じやと思うけど…何や?」
「鈍すぎない?あれ見れば誰でも気づくと思うんだけど…」
「…まぁ、宍戸やし」
「何がだよ?」
「「!?」」
突如聞こえた二人以外の声に、彼らはビクリと肩を震わせた。
同時に振り向けば、そこには首を傾げた向日の姿がある。
「岳人…驚かせんとってや…」
「っつーか、何回か声かけたんだぜ?」
そう言って彼はほら、とドリンクとタオルを忍足に手渡す。
そして自分の分のドリンクのストローを口に銜えた。
「で、さっきのって何の話だよ?」
「…ま、色々あんねん」
「ふぅん?」
別にいいけど、と言って大して気にした様子も見せない向日。
ある意味、今時貴重な人材と言えるのではないだろうか。
「…そのままで居てね」
「…??おう」
訳がわからない様子で彼は首を傾げながら頷く。
不意に、紅は視線を感じて顔を上げた。
キョロキョロとその主を探せば、案外近くにその人物を見つける。
三人組の女子生徒がこちらを向いていて、視線が合えば不自然に逸らされた。
「………」
「どないしたん?」
「何でもない」
紅は首を振って悠希の方を向く。
彼女も紅の視線に気づいたのか、振り向いて照れたように微笑んだ。
「んじゃ、先に帰るね」
「ほんまに送ってかんで大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫。何かあっても紅が守ってくれるし!」
「…人の彼女に頼るなっちゅーねん」
「忍足の彼女の前に私の親友だもんねー」
ベッと舌を出して紅の腕に自分のそれを絡めてしまう悠希。
慣れたように苦笑を浮かべるだけで、紅は何も言わなかった。
「あ、宍戸」
紅の声に、彼女の腕を握る悠希の手に力が篭った。
ここまではっきり意識する人も珍しいだろうな、と紅は思う。
そんな彼女の声が届いたのか、ラケットを片手に彼女らの前を横切ろうとした彼が振り向く。
「相変わらず仲いいなぁ、お前ら。もう帰んのか?」
「うん。最後まで見て行きたいところだけど…遅くなるから」
「そっか。気をつけて帰れよ」
些細な事とは思うが、やはりこういった気遣いは嬉しい物だ。
視線を彷徨わせてしまうのは相変わらずだが、悠希は「うん」と小さく頷いた。
そんな悠希の行動に笑みを浮かべ、紅も忍足との挨拶を済ませて帰路へと付く。
門を出ていくらか経った頃、行き成り悠希が深く息を吐き出した。
「そんなに緊張しなくても…」
「いや、私もそう思うんだけどね?何か条件反射って言うか…」
困ったように赤く染めた頬を掻く悠希に、紅はクスクスと笑った。
「誰の目から見てもわかるわよ、悠希の反応だと」
向日が気づかなかった事に関しては触れずに、紅はそう言う。
ホント?と言う表情で彼女を見る悠希。
そんな時、彼女らの行く手に佇んでいる人物に気づいた。
その女子生徒らに見覚えのある紅は、わからない程度に眉を寄せる。
「今度の被害者は青学マネージャーさんなんだ?」
三人のうちの一人が、楽しげな声を上げた。
05.09.17