蒼と白の縁を結ぶ
  薄桜鬼  03

京の鬼の一族は、町から離れたところに人除けを施しているらしい。
その場所までは特定できたものの、一族が異なるために内側への侵入ができていない。
それが、この二日間で鈴蘭が持ち帰った情報だった。
外側から入ることができないのであれば、内側から開いてもらう他はない。

「町に出てきているところに接触するしかないわね」
「はい。部下を何人か呼び、京全体に捜索範囲を広げます」
「………いいえ、必要ないわ」

少しだけ思案するように沈黙した紅は、やがてゆるりと首を振った。
恐らく、人員の無駄だ。

「京の町程度であれば、私が結界を張るわ」
「しかし、紅様は白月の気配をご存知ではないでしょう。人間ではない気配と言っても、識別が困難では…」

引く様子のない鈴蘭に、紅は小さく肩を竦め「…知ってるわ」と告げた。
一拍を置いて、何故、どこで、と質問を重ねる彼女の勢いに押されつつ、初日のことを話す。

「人ではないとはっきり感じたわ。だから、結界の中に入り込んで来たら、必ずわかる」

そう告げると、紅はそっと瞼を伏せた。
集中力を高めるように沈黙した彼女を中心として、空気が変わる。
ピンと張りつめた空気の壁のようなものが、鈴蘭の身体を通り抜けて行った。
やがてその気配は京の町全体を覆う。

「…今は、いないようね」

結界の内部に意識を向け、瞼を開く。
そのまま結界を解く気配のない紅に、鈴蘭が心配そうな表情を向けた。

「紅様…広範囲の結界はお体に障ります」
「ええ」

そういってすんなりと結界を解く。
大した疲労は感じていないけれど、鈴蘭の表情が和らぐことはなかった。

「心配性ね」
「紅様がもう少し食事をしてくだされば、ここまで心配は致しません」
「…そうね」

ぼんやりと頷く紅に、鈴蘭は短く溜め息を吐く。

「紅様、どうか…早く伴侶となる鬼をお選びください」
「………そう怖い顔をしなくても理解しているわ、鈴蘭。この血を残す事の必要性は」
「それだけではありません!紅様が選んだ伴侶であれば、少しでもその渇きを癒すことができます!」

生気を糧とする鬼だが、その生気は人間に限られているわけではない。
同族の鬼であっても、相手の生気を食らうことはできる。
紅が生気を基準に選んだ鬼であれば、その生気を食らえば多少の渇きを癒すことはできる。
例え僅かな期間であったとしても、紅が忌み嫌う人間からの摂食を減らすことができるのだ。
そんな切実な訴えに、紅はそうね、と頷いた。
彼女も自らの身体が分からないわけではない。
あれも嫌だこれも嫌だとわがままを言える立場ではなく、そう遠くない未来に長として決断しなければならない。
そのために、里には数名、紅の夫の候補として挙げられている鬼がいる。
どれも皆、鬼門の純血であり、蒼龍の長の夫に相応しい鬼だ。
その全てと顔合わせをしているけれど、“何も”感じられなかった。
紅が守るべき一族の一人ではある。
しかし、紅がその身を寄せ、心を預けられる鬼ではない。

「ごめんなさい、鈴蘭。蒼龍に相応しくない私が蒼龍であったばかりに…」

尽くしてくれる彼女に対して、申し訳なく思う気持ちは常に持ち合わせている。
そんな紅の言葉に、彼女はぐっと眉を顰めた。

「…私は紅様が蒼龍でなくとも、貴女様と共に参ります。
謝っていただきたいわけではない…ずっとお傍にお仕えしたいだけなのです…!」

まるで自らのことであるようにぐっと眉を寄せ、切実に訴えるその声が心に刺さる。
傷付けたいわけではない―――誰よりも信頼している忍であり、そして友でもある。

「京の一族とお会いして、一族の行く先を見定めることができたら…ちゃんと決めるわ」
「…はい」
「それから、今夜は食事に出る」

だから、そんな顔をしないで。

今にも泣きだしてしまいそうな鈴蘭の身を引き寄せ、抱きしめる。

16.12.25