Destiny - 46 -
数回車両の連結部分を通り、三人は漸く発見する。
身包み剥がれ、下着一枚で情けなく震えるクロウリーを。
「見事にカモにされたわけだ」
彼の前にあるトランクの上にはトランプカード。
そしてそれを囲むように座る男らの存在を見れば一目瞭然だ。
クロウリーはラビ達よりも10以上年上の彼だが、比べ物にならないほどに世間知らず。
城から出る事が無かったのだから、当然と言えば当然だろうが…。
三種三様の反応を見せたあと、一番に動いたのは意外にもアレンだった。
「このコートの装飾、全部銀でできてるんです。これとクロウリーの身包み全部賭けて、僕と勝負しませんか?」
バサッと脱いだそれを差し出しつつ笑うアレンは、まるで好青年を擬人化したようだ。
因みに『コート』と言うのは彼やラビやコウが来ている、エクソシスト専用の団服の事。
賭けの対象にすべきでないそれを持っての発言に、ラビが顔を引きつらせた。
相手の答えは、当然ながらYes。
斯くして、アレンと三人の勝負が始まった。
「コール」
トンとトランクの上に差し出されるトランプカード5枚。
それを差し出した人物の顔には、にこにこと笑顔が貼り付けられている。
後ろには何とも言えない表情を浮かべるラビと、楽しげに笑うコウ、そして嬉しそうに喜ぶクロウリーの姿があった。
そして、アレンの前にはクロウリー同様に下着一枚で三種三様に顔を引きつらせる相手たち。
笑顔と共に彼が出したカードは全てスペード、数字はA・10・J・QそしてK。
つまり―――
「ロイヤル…ストレートフラッシュ…」
相手三人のうち、誰かがそう呟いた。
その言葉にアレンはにこりと笑う。
そして、その笑顔を崩さずにこう言った。
「また僕の勝ちです」
三人分の呻き声と共に舞い散るトランプカード。
頭を抱える彼らを楽しげに見つめるアレン。
彼らが、カモにしたはずの少年に逆にカモにされていると気付くのに、さほど時間は必要なかった。
「どゆうことさ?お前、異様に強くない?」
こっそりと、背後からラビが潜めた声をアレンに投げかける。
それに対して、アレンは表情を崩す事無く答えた。
「イカサマしてますもん」
「マジ!?」
「先に仕掛けてきたのはあっちです」
ヒソヒソと声を潜めて交わされる言葉。
彼の話によると、追跡中の彼の師匠の借金と生活費を稼ぐ為、命懸けで頑張っていたらしい。
それならこの技術が磨かれるのも無理は無い話だ。
いつの間にかアレンの隣に移動していたコウが、少しばかり表情を弾ませて彼に声を掛ける。
「ね、私も出来る?」
「要は慣れと度胸ですからね。コウなら覚えれば出来ると思いますよ。肝が据わってますし」
「…ふぅん…」
錬金術使えばチョロイなぁ、と心の中で思いつつ、コウはアレンの手元のカードを眺めていた。
アレンの新たな一面を見たラビが、ポンと彼女の肩に手を置く。
「コウはそのままがいい。頼むから黒くならないで…」
「…ラビ…何か、切実だね…」
ラビの言葉にコウは苦笑いを浮かべる。
そして、ふと動かした視線の先に、相手の一人を捕らえた。
ぼさぼさの黒髪に、ビンの底の様な分厚い眼鏡をかけた男。
コウは、光の加減で見えないはずの彼の眼に睨まれるような感覚を受ける。
ゾクリと背筋が粟立つのを感じると同時に、胸のペンダントがドクンと脈打った。
一瞬そちらに視線を落とし、次に顔を上げた時には彼の視線はすでに自分の前のトランクの上へと向けられている。
「…何…この感覚…?」
彼女の呟いた問いかけに答えてくれる者はなく、ただ紅いペンダントだけがもう一度脈打ったような気がした。
キリレンコ鉱山前と言う名称の駅に、汽車が滑り込んだ。
相手三人が降りる駅がここと言う事で、賭けは終了。
結局身包み全てを剥がれた三人は、下着一枚で寒空の下駅へと降り立った。
コウは窓から彼らと言葉を交わすアレンたちとは別の車両のドアの所に立って降りていく彼らを見る。
先程感じた、あの感覚は無い。
けれども何か引っかかるものを覚えて、あの黒髪の男の背中を睨むように見つめていた。
アレンの計らいから荷物と服を得た彼らはそれを着込み、彼に笑いかけているのが見える。
ふと、彼の視線がこちらに動く。
アレンと言葉を交わしている最中、ごく自然に向けられたそれ。
「―――――――――っ!」
コウが息を呑んだ頃には視線はすでにアレンに戻り、忙しなく自身のポケットを探る。
ガタンと汽車が動き出した。
「アレン、何貰ったんさ?」
「さっきのトランプですよ、ほら」
そう言ってアレンはラビに向けて束ねられたトランプを持ち上げる。
そしてそれを見て「あ」と声を上げた。
「これで、旅の途中に教えられ―――…コウ?」
パッと持ち上げた視線で彼女を探す。
ラビを見て、その後ろで先程無事服を取り返したクロウリーを見て、車両の中を見て。
ぐるりと見回したが、彼女の姿はどこにもない。
「…ラビ………コウは?」
「え?コウなら後ろに………あれ?」
「コウ殿なら、停車と同時に隣の車両に歩いていったっであるよ」
クロウリーが後ろの車両を指して答えると、アレンは急ぎ足で車両の中を歩いていく。
何故か、胸騒ぎがした。
「アレン?どうしたんだよ」
「コウを探すんです」
「そんなに急ぐ必要ねぇって。また暗号の解読に戻ったんだろ」
心配性だなぁ、と笑うラビにも足を止めず、その車両を後にする彼。
クロウリーと顔を見合わせたラビだが、程なくして二人も彼の後を追う。
一つ車両を越える毎に速まる足の速度。
だが、彼らはコウの姿を発見しないままに最後尾の車両へとやってきてしまった。
「コウ…?」
「何も言わないで降りちゃったなぁ…」
黒鳶色の前髪に指を差し込み、それをぐいと掻き揚げる。
そう呟いたコウの目には後悔の色は無い。
ただあるとすれば、静かな炎を宿した鋭い眼光。
「他の二人と子供は違う。あの男…だけ」
コウの脳裏に浮かぶのは、目があった一瞬持ち上げられた口元。
眼鏡に隠されているはずの目は、きっと挑戦的なものだった。
直接脳内に響いた声が気のせいだとは思えなかったコウ。
汽車の走っていった方を見つめていた視線を移動させ、彼女は歩き出した。
『教えて欲しけりゃ着いてきな、異世界の使徒サン』
06.08.27