Destiny - 22 -
コウ落下未遂で騒がしくなっていた間に、アレンは手術室へと連行されてしまった。
『手術室』と言うプレートが『手術中』と移り変わったのを見てコウは口元を引きつらせる。
「さっさと助けてあげないと危険なんだけどね…」
『エクソシスト、リナリー・リー。手術シマス』
「ごめんね、アレン。あの子が優先だわ」
依然としてアズの背で麻酔の効果が続いているリナリー。
コムリンの視界に彼女が固定された。
自分の方へと向かって来るコムリンに、アズが構えを見せる。
「アズ。アレンまで燃やさないようにね」
コウの声に答える代わりに彼は口を開く。
鋭い牙の並ぶ口内が仄かに赤みを灯した。
次の瞬間、目の前に迫っていたコムリンに焔の塊が襲い掛かる。
「!!」
声にならぬ声を発するコムイを横目に、コムリンはブスブスと黒い煙を上げた。
だが、中のアレンを気にしたのか若干火力が弱かったらしい。
全てを消し炭にするまでは至らなかった。
「無駄に頑丈なロボットね…」
より一層暴走してしまったらしいコムリンにむ…と眉を寄せるコウ。
今この場に神田が居ればいつに無く不機嫌な彼を見る事が出来ただろうなと場違いな感想を浮かべる。
そんな彼女に向かって来るコムリン。
『エクソシスト、コウ・スフィリア!危険人物ニヨリ手術優先!』
「失礼な。誰が危険人物だ、誰が」
アズを足場の代わりにしていたコウが不機嫌にそう漏らす。
その間にも建物内を破壊しつつ迫ってくるコムリンに、彼女は溜め息をついた。
今しも飛び出そうとしたコウの視界に、それよりも早く黒が通り抜ける。
次いで届いたのはコムリンを強かに打ちつけたようなガンッと言う破壊音。
「コウさん、無事?」
「無事だよ。ナイスタイミングで目覚めるね、リナリー」
コムイたちの居るそこへと足を安定させたリナリーは、隣を飛ぶアズの上のコウに声を掛ける。
リナリーが目覚めたならばとすでに臨戦態勢を解いているコウはにこりと微笑み返す。
「あの中にアレンがいるのよね。助けてあげてくれる?」
「…わかった」
未だに麻酔が残っているのか、少しだけぼんやりとしたリナリー。
しかしながらコウの言葉は理解したのか、彼女はコムリンへと向き直った。
トンッと足場を蹴った彼女はまるで胡蝶の様に舞う。
「コウー!次こっち来て貰えるか!?」
「あ、こっちもお願いしますー!!」
「その次はうちで!!」
「待てよ!!こっちだってコウさんの助けが…」
あちらこちらで自分を呼ぶ声が聞こえる。
コウはバンダナの脇から零れてきた髪を掻き揚げた。
先程から休み無しに錬成を繰り返している。
「コウ!」
「あーもう!!順番決めてよ、順番!!」
バシンッと壁一枚を丸々元通りへと錬成しなおし、コウは怒鳴る。
コムリンによって建物の7割が破壊された。
錬金術を使えばもちろん元通りに直すことは可能だ。
それ故に、必然的に修理はコウへと回ってくる。
体力を使うわけではない錬金術だが、こうも繰り返していれば疲労も溜まると言うものだ。
「コウ!次こっちだ!」
「あいよ!アズ、行くよ」
コウの為に錬成の為に使えるであろう材料を背に乗せているアズ。
落さないように気を配りながらも彼はコウの後に続いた。
「コウちゃん?厨房の方も修理してくれない?これ使えないと皆が困るから」
「あぁ、わかりました。ジェリーさん。次、厨房の方に回りますから。瓦礫とか一箇所に纏めといてください」
ブーツを鳴らしながらコウは彼に指示を出す。
「わかったわ。頑張ってね、コウちゃん。何か軽く食べられる物用意しておくわ」
「助かります」
苦笑いを浮かべてコウはその場を走り去る。
そして、己を呼ぶ声の所へと向かっていった。
「コウ、アレンが目を覚ましたってさ」
錬成光がコウの顔を照らす。
それが納まり壊れていた箇所が修復されたのを見届け、彼女は振り向いた。
「よかった。麻酔は抜けてました?」
「何とか。ったく…麻酔で眠らせて無理やり直すなんてなぁ…」
「まったくだね。おかげで人手が足りないっての」
スルリとバンダナを解けば、自由になった前髪が額を覆う。
未だ発動時のままだったアズを元に戻し、コウは彼を連れ立ってアレンの居る科学班研究室へと歩き出した。
途中修理に追われる人々に声をかけながらだったので、研究室に着いたのはそれから半時間後の事。
「あ、コウさん」
一番に気づいたのはこちらを向いていたリナリーだった。
彼女に軽く手をあげて挨拶を交わし、コウは彼女の向こうに座るアレンを見る。
「とんだ災難だったね、アレン」
「コウは無事だったんですね」
「全然」
にっこりと笑う彼女の笑顔には明らかな怒りが浮かんでいた。
事情を知らないアレンは彼女の様子に口元を引きつらせながら首を傾げる。
「あのね。コムリンに壊された修理の半分以上をコウさんが請け負ってるの」
「はぁ…」
「ほら、錬金術って元通りになるでしょ?だから…」
「なるほど。それであんなに疲れてるんですね」
小声で説明してくれるリナリーにアレンは頷く。
ソファーに腰を降ろしたコウは額を覆うようにしてぐたりとしていた。
「コウさん、少し休んだら?」
「んー…後ちょっとなんだけどね…」
「あ、じゃあ僕も手伝いますから!任務で疲れてるんだし、休んだ方がいいですよ」
手をあげてそう言ったアレンに、コウは心中で「子供みたいだな」と思っていた。
自分を案じてくれている二人を見て、少しだけ悩んだ後素直に頷く。
「アズ、一時間経ったら起こしてね」
ソファーの脇にちょこんとお座りしていた彼の頭を撫でるコウ。
答えるようなアズの声を聞き、コウはゆっくり瞼を落とす。
時折届く声や金槌の音に、彼女の思考が沈むまでさほど時間は必要なかった。
「…………………」
「黙ってても綺麗でしょ、コウさん」
「!?」
「アレンくんって正直だよね」
「はは…。それにしても…リナリーってコウの事随分気に入ってますね」
「うん。綺麗で優しくて強くて……怒ると恐いけど。でも大好きだよ。お姉さんみたいでしょ?」
「お姉さん、ですか」
「アレンくんもそのうちにわかるよ。コウさんって絶対お姉さん体質だから!」
「(そんな体質あるのか…?)」
05.12.13