Destiny - 17 -
エクソシストと言う肩書きに縛られるようになってしまったのは、いつからだろう。
いつから…最期の望みすらも聞き入れられない程、融通の利かない人間になってしまったのだろうか。
「僕がなりますよ」
そう言って六幻の切っ先に滑り込んだアレン。
「僕がこのふたりの「犠牲」になればいいですか?」
ただ望む最期を迎えたいと言う二人を背後に庇い、アレンは言う。
彼の言葉を聞きながらコウは己の考え方の変化に苦笑した。
成長した…と言うよりは考え方が硬くなってしまったように思う。
エクソシストである事が、コウがこの世界で生きていく上で唯一の存在理由だった。
だから、イノセンスを最優先に考えてしまうのは仕方がないのかもしれない。
それでも…とコウは思う。
アレンのように生きられれば、と。
「犠牲ばかりで勝つ戦争なんて、虚しいだけですよ!」
そう言ったアレンの頬に神田の拳が飛ぶ。
アレンは反動で後方へと投げ出された。
急激な運動によって軽い貧血を起こした神田はその場に膝を付く。
「神田っ!!」
ハッと我に返ったコウは神田の脇へと屈みこむ。
しかし、そんな彼女に構っている余裕すら、彼の中にはなかった。
「とんだ甘さだな、おい…。可哀相なら他人の為に自分を切り売りするってか…?」
肩で息を付きながらも彼はアレンに向かって言う。
それを邪魔しないように、コウは止めそうになる唇を噛み締めた。
「テメェに大事なものは無いのかよ!!!」
コウには、神田には何に変えても守りたい…大事なものがあると言う風に聞こえた。
多くを語る彼ではないため、コウは彼の殆どを知らない。
だからその言葉がどこから…どんな想いから来るものなのかも解らなかった。
僅かに痛んだ胸のそれは、アレンの小さな声によって刹那で消え失せる。
「大事なものは…昔、失くした。可哀相とかそんなキレイな理由あんま持ってないよ。
自分がただ、そういうトコ見たくないだけ。それだけだ」
そうして僅かに持ち上げられた口元は哀しい笑みを模った。
「僕はちっぽけな人間だから。大きい世界より目の前のものに心が向く。切り捨てられません」
彼の言葉は素直に心に届いた。
同じ考え方だったはずなのに…自分はどうしてこうなってしまったのだろうか。
そんな想いがコウの内に燻る。
守れるなら守りたいと、そう言ったアレンは真剣だった。
不意に、ピィンと思わず眉を寄せたくなるような音が脳内に響く。
アズからのテレパスだと気づくのに、さほど時間は必要なかった。
「アレン!!神田!!」
全てを伝えるには時間が足りない。
二人を呼ぶコウの声に、彼らが振り向こうとした。
――だが、それよりも早く。
グゾルと共にララを貫くようにして大きな鉤爪が二人を攫っていく。
コウとアレンが伸ばした腕は、悲しくも空を掴んだ。
「奴だ!!」
砂の中に潜ったアクマが移動していく。
それに合わせてアズの視線も移動するが、コウにはどこにいるのかわからなかった。
やがて彼らの背後で砂柱が起こる。
「イノセンスも――らいっ!!」
景品を得た子供のような、そんな声が響いた。
ゴミのようにララとグゾルの身体が砂の上へと放り出される。
心臓であるイノセンスを失ったララはすでに彼女ではない。
落ちたままの格好から動く事のない彼女に、グゾルが彼女の名を紡ぎながら手を伸ばした。
彼が動けば、それに比例するように赤い血が砂へと染み込んでいく。
「動かないでっ!」
思い出したように、コウは彼の元へと地面を蹴った。
だが、彼女はピリピリと肌を刺激する張り詰めた空気に、一瞬その動きを止める。
その空気を生み出しているのは、他でもないアレン・ウォーカーその人だった。
彼のイノセンスである左腕が異形の姿へと変貌していく。
大きな鉤爪がその姿を失い、耳障りな音を立てながら別の形へと成り代わっていった。
「ア…レン…」
向けられていないにも拘らず、その殺気に動きを制されているようだった。
「返せよ。そのイノセンス」
やがて銃器の姿を模したそれをアクマへと向ける。
その形から何かを察したコウは、咄嗟に自分の足元へと手を当てて錬金術を使う。
アクマの傍らに伏せているグゾルとララを庇うように壁を構築させた。
それが作り終えるや否や、アレンは撃つ。
コウが二人を守る壁を作ったおかげなのか、彼は容赦なくそれを撃ちこむ事が出来た。
彼の攻撃を逃れたアクマが、再び砂の中へと逃げ込んで移動していく。
それを見届けるとコウはグゾルらの傍へと寄った。
この戦いはアレンに任せなければならないと、何故かそう思ったから。
「…完璧に身体を貫かれてる…」
溢れ出す赤の量から見ても、それは明らかだった。
触れただけで、彼の命が決して長くはないと悟る。
「…生きてください。せめて…もう一度…」
ララと会えるように。
その想いを胸に、コウは両手を合わせた。
アレンの顎を赤いそれが伝う。
むせ返ると同時に吐き出されるそれと、軋む身体。
成長した武器に身体がついていけていない…リバウンドの証でもあった。
「アレンッ!!」
コウはあまりにも突然の訪れたリバウンドに、離れすぎた距離を縮める事ができない。
「もらった!!」
勝ち誇ったように声を上げるアクマが彼に向かって手を伸ばすのを、ただ見送る事しか出来なかった。
キィンと、音が響く。
「!?神田!」
アクマの攻撃が届こうとしたアレンの前に滑り込んだのは神田だった。
短く舌打ちした彼の胸元には赤い血が滲む。
今の動きで、傷が完璧に開いてしまったらしい。
「この根性無しが…こんな土壇場でヘバってんじゃねェよ!!あのふたりを守るとかほざいたのはテメェだろ!!!」
アレンに向かって怒鳴るその剣幕に、思わずコウ自身も竦み上がる。
神田のそれを直接受けているアレンが引きつった表情を浮かべるのも無理はない話だった。
「お前みたいな甘いやり方は大嫌いだが…口にした事を守らない奴はもっと嫌いだ!」
神田らしい言葉に、アレンは乾いた笑いを漏らす。
「は…は。どっちにしろ…嫌いなんじゃないですか…」
未だ不自然に脈打つ鼓動を感じる。
しかし、アレンはそれに気づかないようにして己の口元を拭う。
「別にヘバってなんかいませんよ。ちょっと休憩しただけです」
「…………いちいちムカつく奴だ」
悪態を付きながらも、神田はアクマの腕を切り落とす。
アレンがもう一度対アクマ武器を形成した。
「「消し飛べ!!」」
05.11.14