Destiny  - 05 -

「初めまして。リナリー・リーです」

兄弟でも随分雰囲気が違うなぁと思いながらも、コウは同じく名前を名乗り挨拶を交わす。
つい10分前に正式にエクソシストとして認められたコウ・スフィリア。
行き成りですが、だだっ広い建物内を美少女に案内されています。












「どんな団服がいい?」
「団服?」

別れ際にコムイがそんな事を聞いた。
聞き覚えのない単語に首を傾げるコウ。

「軍服みたいなものですかね」
「そうそう。例を挙げるとこんなのかな!」

そう言って彼は数種類の黒い服をコウの前に出す。
何処から出したんだ?と聞いたところで彼は答えないのだろう。

「僕としてはこれがお勧めかな。コウちゃんスタイルいいし、それに」
「そうですね。それ以外でお願いします」

彼が指したのはワンピースのような丈の短い服。
彼のお勧めとやらを一刀両断するなり、コウは他の物を見る。
コート系の物から、先程のように一枚で着る様な物から様々。

「…どんなものでもいいんですか?」
「常識外れじゃなかったらね。黄色にしてくれとかは厳しいけど…」
「安心してください。そんな非常識この上ない事言いませんから。で、コートなんですけど…」

きっぱりと言い切ってコウはコートを持ち上げ、説明する。

「わかった。それなら大丈夫だよ」
「じゃあ、コートでお願いします。くれぐれも丈は短くしないでくださいね」

膝よりも短かったら着ませんから、と笑顔で言われ、コムイは不満そうにしながらも頷く。
コウの要望をメモ帳に書き出しながら彼はぶつぶつと何かを言っていた。

「リナリーとお揃いにしたら絶対に似合うと思うのになぁ」
「…“リナリー”?」

聞きなれない名前にコウは思わず疑問の声を上げる。
彼女のそれを聞き取ったコムイは「あぁ、忘れていたね」と答えた。

「丁度いい。本部内の案内にあの子を呼んでおくよ。歳も近いからいい関係を築けるんじゃないかな」
「はぁ…」
「そうと決まれば…ここで待っててね」

そう言うなり彼はどこかへと去っていった。
結果、一人でどでかい柱の隣に残される事となったコウ。
静かに溜め息を落とし、腕の中で大人しくしているドラゴンを見下ろした。

「君、名前考えないとね…」

鼻先を指で掻く様に撫でれば嬉しそうに目を細める。
その手を彼の頭まで運び、その上を何度も滑らせた。
徐々に機械的になっていくそれを続け、コウは柱にもたれてぼんやりとした視線を投げる。

「あの言葉はキツイなぁ……」

ヘブラスカの言葉は、深くコウの心を抉った。
否、いっそ軽快なほどはっきりとした言葉だったのかもしれない。
淡い希望とか、ほんの僅かな期待。
その全てを一瞬にして奪い去る、まるで魔法のように残酷な言葉。
溜め込んだ闇を吐き出すように、コウは長く深い息を吐き出した。

「あれ?兄さんはここで待ってるって言ってたのに…」

コウの耳に、そんな女性の声が届いた。
まだ女性と言うには若干子供っぽい、女の子と女性の間の声。
丁度柱を挟んで反対側から聞こえる声の主が探しているのは自分らしい。
内部に燻る闇を潜めるように、コウはもう一度深呼吸を繰り返し、柱を回った。

「あ!あなたがコウさん?」

黒髪を揺らして笑顔を浮かべた少女に、もう二度と逢えない金髪の少女が重なった。
そして、時は冒頭へと戻る。












「何か質問はある?」

とりあえず一通り施設内の説明を終えると、リナリーはそう問いかけた。
コウは黙って首を振る。
自慢ではないが、コウの記憶力はかなりいい。

「じゃあ、部屋に案内するね」

彼女はそう言って食堂を後にする。
それに付き従うように、コウも歩き出した。

「コウさんって錬金術って言うのが使えるの?」
「コムイさんに聞いたの?」
「ううん。皆が噂してたから。あっという間に壊れたものを元通りに直す秀麗な女性!だってさ」

本当に綺麗だね、実際に逢ったらびっくりしちゃった。とリナリーは笑った。
彼女はどちらかと言うと綺麗と言うよりも可愛いと言えるだろう。
聞けば、彼女は現在15歳だと教えてくれた。
前を歩く彼女の二つに結わえた髪が揺れるのを眺めながら、コウは思考の海に飛び込む。
只管目的の為に頑張ってきた彼もまた、15歳だった。
純粋に、凄いと思った…そして…。

「…逢えないって言うのに、いつまでも女々しいね…」

自嘲の笑みと共に、小さく漏らす。
リナリーが「何か言った?」と振り向くが、コウは首を小さく振った。
5分ほど廊下を歩いた後、一つの部屋に案内される。
彼女によって開かれた扉を潜れば、決して大きいわけではないけれどもある程度の家具の揃った室内が見える。

「今日は色々あったから疲れたでしょ?ゆっくり休んでね」
「…ありがとう、リナリー」
「どういたしまして。お休み、コウさん。それから…ドラゴンの君」

コムイから聞いていたのか、リナリーは彼に触れようとはせず微笑みかけるだけに止めた。
パタンと閉じられた扉を一瞥した後、コウは部屋の中を歩く。
そして、ベッドに倒れこんだ。
キチンと腕の中のドラゴンを潰さないように予め手放してから、だ。
パフと言う軽い音と共に彼はコウの頭の隣辺りに飛び乗ってくる。
そんな彼の鼻先を撫でてやり、彼女は口を開いた。

「……アズ」

前触れもなくそう紡げば、きょとんとした様子でこちらを見つめ返す青い双眸。
言葉が理解出来ているような反応に、コウはクスリと笑った。

「君の名前だよ。どっかの文献で読んだ…私の好きな言葉」

ただ大した意味もなく、直感的にその響きが好きだと感じた。

「今まで三日間、ずっと君って呼んでてごめんねー?」

そう言ってよしよしと彼…アズの頭を撫でる。
嬉しそうに尾をパタパタと振って、アズはコウの頬を舐めた。
そんな彼を見つめるコウの頬に一筋の涙が伝う。

「…辛いね…」

掠れる声で、そう言った。

「ヒューズさんも、グレイシアさんも、エリシアも、ロイさんも………エドも…誰もいないの」

養子として迎え入れてくれたヒューズが居ない事がただ辛くて。
その笑顔をもう一度見たいと言う願いだけだった。
エド達の話を聞いて、人体錬成は不可能だとわかっていたはずなのに。
死すらも覚悟して、コウは門まで辿り着いた。

「いっそ、殺してくれた方がよかったのに…ね」

彼に救われた命を自ら捨てようとは思わないし、思えない。
だからこそ、死んでしまうならば受け入れられたのに。

「これが犯した罪の償いだって言うなら…あんまりだよ…」

伝う涙は留まる事を知らずに流れ落ちる。
ゆっくりと視界を閉ざすと、コウは眠りの世界へと堕ちていく。
瞼にひんやりとした何かを受けたように感じたが、気のせいだと思い込むことにして。

05.09.11