廻れ、
- 廻 れ 、 廻 れ 。 時 空 よ 、 廻 れ -
-- 番外編:2nd Trip in銀魂 07 --
真選組の屯所に世話になって一週間。
一向に元の世界に戻る兆しはなく、その手助けになるものも見つからない。
焦りを隠すのも難しくなってきていて、紅はできるだけ他の人と関わらないようにしていた。
もちろん、話しかけられれば笑顔で受け答えをするし、違和感を覚えさせるようなあからさまな態度は取らない。
けれど、悠希は確かにその変化を感じ取っていた。
「時間がないわね…」
そう呟きながら、悠希は屯所を出発した。
どこをどう歩けばそれを見つけることが出来るのか。
目的はあれど、目印なく歩いた方向音痴の彼女がそこに辿り着いたのはまさに奇跡。
悠希は胸いっぱいの達成感を抱きながら、インターホンを鳴らした。
1回、2回、3回。
中の主からの応答はない。
週刊誌で連載されていた漫画が主体の世界である事はわかっている。
確かゲームにもなっていたはずだが、あいにく自分の範疇外だったから内容は知らない。
悠希が知っている事といえば精々登場人物の人相程度で、行動パターンなどは一切わからなかった。
店に辿り着けば何とかなるだろうと思っていたのに、いきなり壁にぶち当たってしまった。
「万事屋さーん。居ないんですかー?」
少し大きめの声を上げながら、さてどうしようと悩む。
その時、家の中から足音が聞こえた。
どんどん大きくなったそれが玄関の戸の前で止まり、ガラス越しに人の影が見える。
鍵を開ける音がしてから、ガラッと引き戸が開かれた。
「んだよ、ババアじゃなかったのか…お客さん?冷やかしなら勘弁してくれよ」
ガシガシと白に近い銀髪を掻きながら出てきた男。
身形からして、頼るに値するのかどうかはわからないが…背に腹は変えられない。
悠希は覚悟を決めてその男を見た。
「鈴を探してほしいんだけど」
「―――つまり?お前はこの世界とは違う世界の人間で、今は更に違う世界で生きてるって事か?」
「うん、そう」
「で、元の世界に帰りたいと」
「元じゃなくて、この間まで生きていた世界」
ストローを銜えてそう答える。
正面に座った男、万事屋、銀時の前には大きなパフェ。
ちなみに支払いは悠希持ちだ。
女中として手伝った分の給金を貰っているので、この程度の支払いは出来る。
「あー…そうだな。いい奴を知ってるから、紹介してやるよ」
「いい奴?」
「そいつにはそう言う系の交友関係もあるからなぁ。お前にぴったりの友達が出来るぞ、きっと!」
万事解決!と目の前に立てられた親指を、満面の笑顔を貼り付けたまま別の方向に曲げる。
ぐき、と変な音がして銀時が悲鳴を上げているけれど、気にする必要はないだろう。
「事実だから信じてって言ったでしょ。妄想じゃなくて現実よ、げ・ん・じ・つ!」
「そんな現実が信じられっか!!異世界トリップとかその道の奴でも迂闊に口に出さない聖域だぞ!!」
「はぁ…あんたを頼った私が馬鹿だったわ。ここの支払いはよろしくね」
溜め息と共に、悠希は既に届いていた伝票を彼のほうへと差し出す。
ちらりとそれを見た銀時は、思わず自分の目を疑った。
確かに大きなパフェだった。
だが、パフェが4桁とは何事か。
初めてパフェを見てから数年―――未だかつて見たことのない値段がつけられている。
「パフェ1つに5000円!?聞いたことねーよ、こんなパフェ!!」
「美味しかったでしょ?各地の高級果物選りすぐりのパフェだから、まぁこんなものでしょ」
物知り顔で笑顔を浮かべる悠希が、悪魔に見えた。
「――――――…で、俺に何を探せって?」
「鈴」
「何でまた、鈴」
「…音が聞こえたから」
ふと窓の外に視線を投げ、悠希がそう告げる。
そう、あの時―――鈴の音が、聞こえた。
まるでその音が二人を別世界へと導くかのように。
よく考えてみれば、はじめにBASARAの世界に飛んだときも、あの音を聞いた気がする。
「まぁ、いいか。鈴な、鈴。で、どこを探せばいいんだ?」
「…さぁ」
「…お前、やる気あんのかよ?」
「あんたにだけは言われたくない台詞よね、それ」
思わず苦笑いを浮かべた悠希。
依然として窓の外に視線を向けたままの彼女の視界を、人々が右へ左へ横切っていく。
その時、悠希はがたん、と音を立てながら椅子から立ち上がる。
正面で驚く銀時など眼中にない。
「お、おい、どうした?」
「………すぎ」
「………高すぎ?そりゃ、確かにこのパフェは高かすぎるよな、うん。だが、食っちまったもんは―――」
「高杉」
短く呟かれた言葉が、漸く正しい漢字として銀時の脳へと届く。
同時に、彼もまた悠希の視線の先を追った。
窓の外を何度も見回すけれど、それらしき人物は影も形もない。
「いたのか?」
「うん。一瞬ですぐに見失ったけど…」
「また江戸に来てやがるのか…」
先ほどまでののんびりした空気を一掃した銀時は、真剣な表情を浮かべている。
そんな彼が、悠希を見た。
「それにしてもお前、高杉を知ってんのか?」
「顔だけは、ね。関わりがあるのは紅…親友の方よ」
銀時に視線を向けることなく、彼女がそう答える。
そして、椅子を整えて腰を下ろしながら、見間違いならいいけど、と呟いた。
10.04.17