廻れ、
- 廻 れ 、 廻 れ 。 時 空 よ 、 廻 れ -
-- 番外編:2nd Trip in銀魂 04 --
「悠希さん美人ですねー」なんてお世辞ではなく本心から紡がれる言葉。
自惚れではなく悪くない容姿を持っているのだから無理はないと思う。
況してや、真選組と言う男所帯。
女を意識する目に、悠希は慣れた様子で作り笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます」
「家族と逸れてしまって不安でしょう?」
「えぇ、本当に…息子の事が心配で心配で」
演技がかった仕草だったが、効果は抜群。
目に見えてピシッと固まった男に、悠希は影で舌を出す。
「夫にも心配させていると思いますし、早く帰れるといいんですけれど…」
「はは…本当ですね」
「あ、夫は巷では西海の鬼って呼ばれてるんです。ご存知では在りませんか?」
「鬼!?いや、残念だけど…」
男の引きつった表情が愉快だった。
その後、悠希にあてがわれた客室を訪れる土方。
「町で不審な女が見つかった。お前の友人と決まったわけじゃないが…来るか?」
「行く!」
出来ることもないのでぼんやりと庭を眺めていた悠希は、一も二もなく頷いた。
すぐに駆け寄ってくる彼女を見下ろし、そう言えば、と口を開く彼。
「悠希、お前の旦那は人間じゃないって噂だが、本当か?」
「はぁ?私の夫は普通に人間ですけど」
何を馬鹿な事を言ってんですか、と呆れたように溜め息を吐き出す。
噂の元になっているのは自分ではないというのに、この反応は心外だ。
しかし相手は女。
況してや彼女は家族や友人と逸れて心細い身―――捻くれた言葉の一つくらい広い心で受け流さなければ。
沖田のときのように即座に反応せず、引きつる口元を開かぬ努力をする事5秒。
何とか言葉を飲み込んだ彼は、行くぞ、と告げて歩き出した。
その部屋までの道すがら、悠希は土方から事情を聞いた。
「この先で過激派のテロ未遂事件があってな。怪しい奴を片っ端から捕まえた中に、女がいたらしい」
「…女、だけですか」
単純に考えて人口の半分は女のだから、それだけで友人かもしれないと連れ出されるのは困る。
一体どれだけの人数を確認しなければならないというのか。
悠希の怪訝そうな表情を見て、土方はタバコの煙を吐き出した。
「刀を持った女は江戸にそう溢れてるもんじゃねぇ」
「…なるほど」
ころりと表情を変える彼女。
確かに、人口の半分が女でも刀を握る女は一部だ。
況してや、場所は表面上は平和な江戸の町。
この町では、刀を手放さない人間自体が少ない。
「それは期待できそうね」
そう呟いて、懐から携帯を取り出し、電源を入れた。
今まで忘れていたけれど、もしかしてこの世界ならば使えるのではないか。
何となくそう思った悠希は、携帯の電源が立ち上がるのを待つ。
「紅も同じ事を考えてると嬉しいんだけど」
そんな事を呟きながら、メールを作成する。
電話は恐らく無理だ。
彼女が、携帯が繋がるかもしれないと思いつくなんて、万が一にもありえない事だから。
彼女はこの世界を知らない。
昔でありながら昔ではないこの世界が、どのような文明を持っているのかを知らない。
だから、携帯が繋がるという現代に近い発想などありえない。
それでもメールを送るのは悠希が、携帯が生きていると確認したいから。
メールを作り終えて、少しだけ迷ってから送信ボタンを押す。
程なくして、画面に表示される文字―――送信が完了しました。
どうやら、この世界はイレギュラーな携帯にも電波を提供してくれるハートフルな世界らしい。
高杉のところを逃げ出したはいいけれど、まさかこんな事に巻き込まれるなんて。
紅は自分の不運を恨んだ。
テロだかなんだか知らないが、自分に関係しないところでやってほしかった。
「刀を持った怪しい奴!!」
黒い制服のようなものを着た男が紅を指差した。
自分を怪しいと言われて何も思わない人がいたら、教えてほしい。
過激派の所から逃げてきたばかりの紅が裏路地へと走り出してしまったのも、決して責められることではない。
暫く鬼ごっこのように逃げ続けた紅だが、前後をふさがれては逃げられない。
左右は家の壁。
屋根に飛ぶ事も考えたが、流石の彼女も三階建て相当の高さまでは飛べない。
面倒な事になった―――紅は、腰の刀を意識した。
彼らが敵ならば、斬ってでも逃げる必要がある。
紅はそれを見極めようとした。
「大人しくすれば手荒な事はしない。真選組の屯所まで来てもらって話を聞くだけだ」
「新撰組…?」
と言うと、過激派の敵だ。
少し悩んだ末、紅は軽く手を上げた。
「わかった。付いていくわ」
「よし。保護しろ」
そう命じられた部下が紅の元へと駆け寄ってくる。
一人が刀に手を伸ばしたその時、その場の空気がずんと重苦しくなった。
「これに触れるなら、私はあなたたちと敵とみなすわ」
その先に起こる展開など、説明する必要はなさそうだ。
鋭く尖る刃を喉元に突きつけられているような感覚。
男たちはごくりと唾を飲んだ。
そんな彼らを一瞥し、溜め息一つと共にその空気を消す。
「行きましょうか?」
動かない彼らに、そのきっかけを与える。
ハッと我に返った彼らが、顔を見合わせた。
刀をどうすればいいのか、上司を仰ぐ部下の目に、彼は無言で首を振る。
今この場で彼女を敵に回してはいけない―――彼は、そう痛感していた。
10.02.04