廻れ、

- 廻 れ 、 廻 れ 。  時 空 よ 、 廻 れ -

-- 番外編:2nd Trip in銀魂 02 --

「なーんか…見覚えがあるような、ないような…」

崖から落ちたはずなのに、気が付けばどこか見知らぬ屋根の上。
延々と続く日本家屋の屋根を見ていれば、ここが現代ではないことくらいはわかる。
古めかしい造りの建物は、自分たちが過ごしていた戦国時代よりは少しだけ時代が流れているように見えた。
しかし…少し、と言い切れないものが、向こうの方に見えている。

「…どこだったかな…何かのゲームなら、忘れないはずだし…」

ぶつぶつと呟く様子は、傍から見るものが居れば怪しかったかもしれない。
まだ薄暗い時間帯、彼女を見ているものはいないはずだった。
しかし―――

「そこで何やってる?」

聞こえた声に、悠希は考えるのをやめた。
迷いなく振り向いたのは、その声が友人の夫のものだと理解したから。

「あぁ、丁度良かった。筆―――頭?」

振り向いた先に居るはずの人はおらず、代わりに黒い服を纏う男性が一人。

「…どちら様?」
「あぁ?」
「ぅわ、紅が聞いたら驚くわね…」

怪訝そうな表情を見せる男に、悠希は離れ離れになってしまったらしい彼女のことを思い出す。
夫と同じ声―――彼女はどんな反応を見せるのだろうか。

「とりあえず…女、こんなところで何してた?」
「声は同じなのに、何か腹が立ってくるのは何でかしら…人柄の違い?」
「聞けよ!」

ぶつぶつと呟くだけで、一向に答えようとしない悠希に痺れを切らしたのか、男が声を荒らげた。
そんな彼の様子を見て、彼女はふと悲しげな表情を見せる。
その表情に思わず言葉を詰まらせる彼は、案外いい人なのかもしれない。

「な、何だよ…」
「同じ声なのに短気…はぁ」

とても不本意なことで哀れまれていると言うことだけは理解できた。
嘆かわしい、とでも言いたげな視線を向けられた彼は、フルフルと肩を震わせた。
彼の限界は近い。












「どうぞ」
「あ、どうもご丁寧に」

すっと差し出されたお茶に対して礼を述べる。
お茶を持ってきてくれた人が消え、悠希の前には3人の男性が残った。
一見優しそうな顔立ちに見えるけれど、自分の第六感がある意味危険だと教えてくれるような男が一人。
顔立ちは捨てたものではないと思うのだが、恋人にはしたくないと言い切れる男が一人。
そして、政宗と同じ声を持つ、目つきの悪い男が一人。
そんな彼らを前にして、悠希はのんびりとお茶を啜った。
冷静すぎる彼女を前に、一人の男が目つきの悪い彼を部屋の隅に引っ張っていく。

「おい、トシ!何なんだ、あの子は!」
「いや、だから…過激派の連中が屯してるって垂れ込みのあった場所に居たんだって説明しただろ」
「の割にはめちゃくちゃ冷静なんですけど!?敵陣のど真ん中だぞ!?」
「…やっぱ無関係か…?」
「トシ!無関係な一般市民を巻き込むのは駄目だろ!!」

精一杯声を落としてひそひそと叫んでいる。
何かを話している事はわかるけれど、生憎その内容までは聞こえてこなかった。

「で、あんたは何者なんでぃ?」
「佐倉悠希。長曾我部悠希でも可ね。鬼の嫁って呼ばれてるんだけど、知らないでしょうね」
「へぇ…あんた、顔に似合わずドギツイ性格なんですねぇ。鬼嫁たぁ、想像以上だ」
「いや、略さないでくれる?旦那が鬼って呼ばれてるだけだから。私自身は鬼とは無関係なの」

鬼の嫁と鬼嫁とでは意味合いがまったく違う。
思わずそう否定する彼女に、彼はにやりと口角を持ち上げたまま。
言っても無駄だな、と判断した彼女は、早々に諦めた。

「所で、あなたはどちら様?」
「俺は沖田総悟でさぁ。あっちが真選組局長の近藤さん。で、そっちがただのマヨラーで―――」
「総悟ォ!!紹介するなら真面目にしろ!!」

あっちで話していたはずの人が会話に乗り込んできた。
騒がしい人たちだなぁ、と思いながら、もう一口お茶をいただく。
用意してくれたお茶は中々美味しかった。
一頻り騒ぎ、一段落したのか、ったく…と呟きながら帰ってきた彼。
彼は煙草と、そして見覚えのある形の何かを取り出した。
怪訝そうな表情を浮かべる悠希の視界で、カチッとそれを操作して煙草に火をつける。

―――あれ、ライターだったのか…。

マヨラーと言うのは嘘ではないらしい。

「真選組副長、土方十四郎だ」
「…真選組の土方十四郎………ん?十四郎?」
「何だ、俺の名前に文句でもあんのか?」
「歳三じゃなくて、十四郎?」
「あぁ」

それっきり、土方の言葉に答えず何やら考え込む悠希。
漸く、頭の混乱の整理が付いてきた。

「銀魂か…。道理でよく知らないはずだわ」

ゲームがメインじゃないのね…と呟く。
何となく知っているのは、ゲーマー仲間の中でも漫画にも精通している子が話していたのを聞いたからだ。

「真選組のお三方に聞きたいんですけど…私の友人、知りませんか?」
「友人?」
「一緒に江戸に来たんですけどはぐれちゃったんです―――たぶん」
「何だ、そのたぶんってのは」
「いや、私の方も確信が持てなくて。きっと近くまでは来ていると思うんですけど…」

近く、と言う単語に眉を顰めたのは土方だ。
あの場所で悠希を発見し、状況を一番理解しているのが彼なのだから、無理もあるまい。

「…あの近く?」
「たぶんですけど…何か問題でも?」
「………俺はあそこで江戸を賑わせてる攘夷志士の過激派を追ってたんだ」
「――――」

のらりくらりとしていた悠希の表情が真剣みを帯びた。

「近くで高杉を見たって報告もある。あの近くに居たなら…絶望的かもしれねぇな」

あぁ、紅は―――また、災難に巻き込まれていると言うのか。
突然BASARAの世界に飛んだかと思えば、崖を落ちて銀魂の世界へ。
どんな数奇な運命に生まれているんだ、あの子は―――悠希は、やれやれと溜め息を吐き出した。
尤も、悠希自身も同じ運命を共にしているのだが、彼女はその事実に背中を向けている。
紅の生存が絶望的だと思えないのは…信じているからなのだろう。

「とりあえず、教えてほしいんですけど―――」

いずれ、道は彼女の道へと繋がる。
そんな確信を持っているからこそ、今は自分のすべきことを。
にこりと笑う彼女に、理解できない男たち三人。
そんな彼らに向かって、彼女は言葉を続けた。

09.06.21